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知られざるわたしの日記 南 綾子

イラスト/黒猫まな子
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第 7 回


五月三日

 先月までの目標について。

・背脂禁止→最近さすがに飽きてきた。四月は七回しか食べていない。ほぼ達成。やったぜ。
・ブラを買う→薬と一緒に一つ紛失したので、ネットでクソ安いやつ買った。達成。やったぜ。
・会社でエロ動画を見ない→全然できていない。

 今月からの新目標。

・乳首を清潔に保つ!

 手術以来、はじめてシャワーを浴びた。乳首にはまだ縫い糸が残っていて、青黒く腫れている。でも、へこんでない。ヘコンデナーイ! 正直、うれしい。なんだかんだ、うれしい。なんだろう。わたしの乳首は、手術してはじめて、乳首としての存在を確立した気がする。それまでの乳首は乳首という名にまったくふさわしくなかった。乳にある首と呼ぶには首感があまりに希薄な、そう、乳首というよりは乳首未満の、まさにティクビだった。今は乳の首としての存在感を、お前は藤原紀香かよっていうぐらいガンガン主張してくる。この乳首にレオパレスからコマーシャルのオファーがあったら喜んで引き受けようと思う。
 目の前に、乳首に関する注意事項が記載された紙がある。病院を出るとき、渡された。乳首への強い刺激は一か月程度は避けるようにしてくださいとのこと。自慰の心配までしてくれるなんて、親切な病院だなあ。
 
 連休初日。
 今日やったこと。東方神起のDVDを見直して泣きながら昼寝した。
 今日食べたもの。朝、ファミチキ二個と肉まんとピザまん。昼、ぺヤング大盛り。夜、ファミチキ五個と肉まん二個とピザまん三個と缶チューハイ四缶。

五月四日

 今日もへこんでいない。乳首がへこんでいないって、なんてすばらしいのだろう。うまれたときから出っ張った乳首を持つ大勢の勝ち組乳首人間には、このよろこびは一生わかるまい。醜くてもいい、色が多少気持ち悪くてもいい、たくましく育ってほしい、丸大ボンレスハム。
 本当に本当に、本物の乳首を手に入れたんだ。そう、しみじみ思う。幸せだ。
 
 連休二日目。
 今日やったこと。東方神起のDVDを見直して泣きながら昼寝した。
 今日食べたもの。朝、セブンのからあげ棒と超でかいフランクフルト二個とピザまん二個。昼、サッポロ一番みそとしょうゆそれぞれ一袋ずつ。夜、セブンの超でかいフランクフルト五本とピザまん三個とペヤングと缶チューハイ五缶。
 セブンの超でかいフランクフルト食べた過ぎて、セブンを三軒はしごしてしまった。歩いたから一本分ぐらいはカロリー消費したはず。

五月五日

 今日もへこんでいない。
 
 連休三日目。
 今日やったこと。昨日とほぼ同じ。
 今日食べたもの。昨日とほぼ同じ。

五月六日

 今日は朝の七時からハマチ子の家に遊びにいき、二人で東方神起のDVDを鑑賞した。昼はハマチ子が好きなくら寿司で二人合わせて五十二皿平らげたあと、また家に戻って五人時代の日本でのレギュラーラジオ番組「東方神起Bigeastation (略してビギステ)」の気に入っている回を再現する遊びを二時間ほどやった(二人とも全144回にわたる放送のすべてのトークを完全記憶している)。それから昼寝をして、夜はまたビギステごっこをやったあと、遅まきながら除隊したメンバーのお祝いと、除隊前のメンバーの健康祈願を兼ねて酒を飲んだ。いい感じに酔っぱらったあとは、韓国のアルバムに収録されているわたしたちのもっともお気に入りの曲「Wrong Number」(お前しつこくてうぜえから電話してくんなこのクソ女とひたすら罵倒を繰り返す素晴らしい歌詞)を二人で熱唱し、最後は二人で「ユチョナ〜〜電話出てよう〜〜」などと叫びながら号泣した。これは我々にとって恒例の欠かせないイベントである。ハマチ子は三か月に一度はこれをやらないと、欲求不満が募って、顎からわりと太めのヒゲが生えてくるという。
 さっき、家に帰ってきた。
 ああ神様、今日も乳首はへこんでいません。

五月七日

 ああ、とうとう連休最終日。
 今日こそは。今日こそはカニ山さんから命じられていた企画案を考えるため、筆記用具を持って昼から近所のガストへ行った。でも子連れ客ばかりでクラブ並に騒がしかったので(あ! わたしクラブなんかいったことなかったアハハ!)、オムライスとハンバーグとポテトフライとパフェだけ食べてすぐ帰ってきた。仕方なく、いつも日記を書いているちゃぶ台の前に座ってみたけれど、気づくとパソコンの電源を入れて「フランクフルト 通販 人気」とか検索していた。そして気づくと自慰していた。自慰したあとは眠たくなるから当然そのあと寝た。
 さっき起きた。今、午後十一時。
 あの日。
 あの日だ。
 緑川萌とカニ山さんが、深夜の経理課でピストン運動しているのを目撃した日。
 乳首も痛いしさっさと帰りたかったけれど、カニ山さんから近所にある二十四時間営業の韓国料理屋へいこうとしつこく誘われ、その店のプルコギのことを思い出したらどうしてもその誘惑に抗えず、ついていってしまった。緑川萌も一緒にいきたがっていたけれど、カニ山さんに鬼無視されて泣いていた。どうやら、やったあとの彼はいつもそういう態度らしい。三十六歳で処女でセックスする相手もいないのに陥没乳首の手術なんてしてしまったわたしから見ても、彼の所業は極悪非道だと思った。北野映画もびっくりの非道さだ。緑川萌の顔も北野ブルーに染まっていた。とにかくわたしが緑川萌なら、小学生のときから練習し続けている気円斬で首から上をスパッとやってやるところだぜ、とか思ったけれど、緑川萌はメソメソしているだけで、最後は「もういい!」などと叫びながらBダッシュで去って行った。
 総務課にいってロキソニンをゲットし飲んだあと、二人で韓国料理屋へいった。カニ山さんのおごりでプルコギ五人前食べながら、うちの会社がやっているニュースサイトがこの夏、若い女性向けにリニューアルするという話を聞かされた。カニ山さんが今の雑誌の副編と兼任で編集長をやるそうだ。
 カニ山さんは、わたしがそのニュースサイト編集部への異動を希望しているという前提でいろいろ話してきた。わたしが望めば、正社員採用も上層部に打診してくれるらしい。とりあえず、六月初旬の最初の企画会議に向けて、企画案をいくつか考えてくるように言われた。
 正直。
 異動なんか、一ミリも望んでない。正社員にもなりたくない。
 でも、気になる点が一つあった。
 それは、現行のサイトで連載中の、AV撮影現場潜入ルポのことだ。
 今担当している編集者は男性で、ライターに依頼せず自分で取材して記事を書いていることをわたしは知っている。なぜならわたしはその連載の愛読者だからだ。その男性編集者がリニューアルにともない、別の部署への異動が決まっていることも知っている。何週間か前、昼の社食で小耳にはさんだ。
 今後、その連載がどうなるのか、カニ山さんにさりげなく聞いてみた。リニューアル後も担当者を変えて継続するという。ただ、その肝心の担当者が決まっていないそうだ。女性ばかりなので誰もやりたがらないのだという。
「お前、やりたいのか?」
 そう見透かすような顔で聞かれ、動揺して目の前のウーロン茶のストローを右の鼻の穴に突っ込んでしまった。ストローを紙ナプキンでふきながら「全然やりたくないっす」と答えたけれど、嘘なのはバレバレ、いやバレバーレだったと思う。カニ山さんはニヤニヤしながら「お前が面白い企画を出してきたら、連載任せてやってもいいんだぜ」と言った。
 最初に入った会社で、散々な目にあった。だから今後は一生、編集部と名の付くものにはできる限り近づかないようにしよう。そう強く思い続けてきた。
 しかし、AVの撮影現場。
 見たい。
 はたして。
 それを見たくないという人間が、この世にいるのだろうか、いやいない(反語)。AVを画面越しではなく、生で、かぶりつきで見る。それは全人類共通の夢なんじゃないのか?
 とにかくわたしは見たい。そのためなら異動もやむなしという気持ちにすら、今、なっている。あれだけ苦しめられた編集部という名のダンジョンに舞い戻ってもいいと、本気で思っているのだ。
 そのためには、企画案を考えなければならない。カニ山さんは最低三つを条件とした。
 でもなあ。
 めんどくせええええええええ。
 あー無理。家で仕事とか無理。出版業界には家で仕事している人間が大勢いるけど、あの人たちって自分をいじめて恍惚となっているよっぽどのマゾ人間なんだと思う。三角木馬にまたがってパソコンとか操作しているんじゃないだろうか。わたしはそういうの無理。ていうかもう眠い無理。限界。限界ヨロシク。自慰して寝よ。

五月八日

 午前中は休みをとり、抜糸してきた。抜糸した瞬間、シュンシュンシューンとへこんだらどうしようと思っていたけど、そんなことにはならずほっとした。わたしの新・乳首人生の序幕が終わり、第一幕がはじまった。そんな気持ちだった。第二幕は腫れがひいて乳首が自慰戦線復帰を果たしたときが、そのはじまりとなるのだろう。
 昼過ぎ、カニ山さんが総務課にきた。トイレに行くふりをして逃げてしまった。
 やっぱり自信がない。企画案を考えるなんて。だってもう何年も編集の仕事なんかしていない。そんな自分に何ができるのだろう。というか、昔、ファッション誌の編集部にいたときでさえ、何の役にもたっていなかった。
 企画案なんか出したって、ほかの人たちに鼻で笑われて終わりなんじゃないだろうか。うちの会社の編集部の女性達はみんな、とんでもなく美人で、しかも高学歴で、ミュージックステーションの階段をいつでもおりてこられそうなファッショナブルな恰好を常にしている。彼女たちが会議室に紛れ込んだわたしを、河原でタニシ焼いて食べている貧乏人を見るような目で冷たく一瞥するのが目に浮かぶようだ(あ! ていうかわたし子供の頃タニシ食べたことあるわアハハ! まずかったアハハ!)。ハッ。もしかして。カニ山さんはわたしをわざとさらし者にするために、こんな話を持ち出したんじゃないだろうか。これは罠か? まさか。いやしかし。
 ……そんなこと、あれこれ妄想しても仕方ないか。
 とりあえず、企画考えてみようかな。
 何にも思いつかなかったら、バックレちゃえばいいし。
 よし! 手はじめにこれから寝るまでの二時間、やってみよう!
 さあ、がんばるぞ!
 新サイトは若い女向けらしいから、若い女の好きそうなものをまずは考えてみよう。

五月九日

 昨夜は気づいたらユーチューブで東方神起の動画を見ながら泣いていた。
 企画案用のノートには「若い女が好きそうなもの。マカロン。あと3P」とだけ書いてある。
 ウンコって書いたその一秒後にはユーチューブで「東方神起」と検索していた。
 明日からだ。明日から頑張る!

五月十日

 最近、乳首がかゆい。
 それ以外、今日は書くことがない。

五月十一日

 家帰ってきてご飯を食べたあとにやろうとしてもどうにも集中力が続かないので、家帰ってご飯食べる前にやることにした。
 とりあえず、「若い女が好きそうなもの。マカロン。あと3P」を消して一からやり直そうと思った。五分ほど悩んで「若い女が好きそうなもの。佐藤健。あと3P」とだけ書いて、気づくとネットで買ったバーベキュー用のフランクフルトをフライパンでジュージュー焼いていた。それをむさぼり食いながら、東方神起の「MIROTIC」を全力で踊った。下の階の住人に天井をつつかれて我にかえった。そのあとは一人でビギステごっこをした。ジェジュンがキムチ鍋の作り方をうまく言えなくて、チャンミンに「ナンデキムチチゲヲハナスコトニシマシタカ!」って説教されるところが好きすぎて、三十回は繰り返し真似して一人でゲフゲフ笑っていた。
 はあ。
 終わってんな、わたし。スーパーの試食だけで三食浮かす人ぐらいに終わってんな。
 それにしても、なんで佐藤健なんだろ。書いといてそのチョイスの理由が自分でもわからん。3Pはともかく。

五月十二日

 乳首がかゆい。
 今日はそのほかに書くことがない。

五月十三日

 若い女が好きそうなもの。ダパンプ。

五月十四日

 あ、昨日のやつ、間違えて日記のほうに書いちゃった。乳首のかゆさに耐えているせいでどうにも集中力が続かない。

五月十五日

 若い女が好きそうなもの。おわらーないなーつきみがかわったー。

五月十六日

 若い女が好きそうなもの。ウンコ。
 あー。やめだやめだ。なーんも思いつかねえ。
 だって乳首がかゆくて仕方がないねん。あかんねん。うちあかんねん。やっぱすっきゃねん。
 乳首周辺にできているかさぶたみたいなやつ、気づくと剥いちゃうんだけど、大丈夫かな。今日も会社で仕事してるとき、服に手を入れてごそごそしちゃって、課長にゴミムシでも見るような目で見られたし(あ、それはいつものことだったアハハ!)、気をつけなきゃ。
 今日もカニ山さんが総務課にきた。ここんところ毎日くる。彼の姿が見えたら、話しかけられないようにいつもトイレに逃げている。
 向こうもそれに気づいてると思う。どうしよう。わたしが彼に胸きゅんラブしていると思われてたら。胸きゅんラブってなんだ。最近、日記にテキトーなこと書きすぎじゃないだろうか。いや、ずっとそうだ。わたしはふざけすぎなのだ。もっと真剣に、真面目になろう。将来、自分の子供や孫が読むかもしれないと想定して、恥ずかしくない文章を書くことを心がけてみよ
 あーーーーーーーーー乳首かゆーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーー。

五月十七日

 わたしの子孫がこの日記を読んだらどう思うのか。考えてみた。最初の数行で自分の出自を呪ってわたしの墓にゴミ屑をまき散らしたい衝動に駆られるだろう。それをなんとか耐えて先を読み進めても、どこかのタイミングでわたしの墓に人糞をまき散らしたくなるだろう。

五月十九日

 今日、会社でカニ山さんと廊下ですれ違った。話しかけられたくなさすぎて、吐き気を催したふりをしてトイレに駆け込んでしまった。妊娠していると思われたらどうしよう。
 そんなことはともかく、今、急に思い出したけど、手術のあとの注意事項の説明のとき、かさぶたは無理に剥かないでくださいとか言われなかったっけ?
 とにかく。
 なんか。
 えーっと。
 だんだん、乳首の高さ、専門用語でいうところのチク高が、低くなってきているような気がするんだけど。
 かさぶた剥いたせいかもしれない。
 気のせいかな?

五月二十日

 今日、仕事終わりにハマチ子に誘われ夜ご飯を食べにいった。最近、また年下の男を飲み屋でひっかけ、付き合う前にセックスしたそうだ。本人はそれを婚活のつもりでやっているから恐ろしい話である。三十六歳で処女で今日会社のトイレで鏡を見たら額に縮れ毛がついていたわたしにだって、そんなのは大間違いだとはっきりわかる。
 ハマチ子は、顔がみどりのマキバオーにそっくりだ。そのうえ、喉に異常でもあるのか常にタンがからんでいて、うちの死んだじいさんが毎朝洗面台でえずいていたときみたいにしょっちゅう「ウヴェエエ」と変な唸り声を発している。そんな三十七歳の女など、たとえそこそこ売れてるデザイナーで小金持ちだからといっても、一緒に暮らしたがる男はこの世に一人もないから結婚なんてあきらめろと何度も言っているのに、一向にあきらめない。去年は婚活サイトで知り合った五歳年下の不動産営業の男と婚約寸前までいったけれど、相手が二股をかけていたとかで土壇場で捨てられていた。
 飲み屋で知り合った年下の男は、遅漏だったそうだ。だからもう二度と会うことはないそうだ。ハマチ子いわく、遅漏は人間の七つの大罪のうちの一つだそうだ。
「何にも考えずに、毎日韓流アイドルの動画を見ながら生きていけたらいいのになあ」
 店を出て夜道を歩いているとき、ハマチ子がたっぷりと、いい感じの中華料理屋で出てくる天津丼のあんかけぐらいにたっぷりとため息をにじませつつ、つぶやいた。
「もうすぐわたし三十八じゃん? 親からいろいろ言われるわけよ。孫のこととかさ。そりゃわたしだって結婚したくてがんばってるけどさあ。なんのために生きているのかわかんなくなる。ていうか、なんのために生きたいかって、チャンミンのために生きたい」
「わかるよ」とわたしは答えた。
「でもさ、いつか韓国のラジオで、チャンミンがファンへのメッセージとして『一日でもはやく彼氏でも作って花見にいきなさい』って言ったこと、ときどき思い出して、暗い気持ちになる」
 そのときのハマチ子の顔は、もうやまだかつてないほどマキバオーにそっくりだった。わたしは笑いをこらえるので必死だった。
 でも、家に帰ってきて一人きりになったあと、ふいに、ハマチ子が言ったチャンミンの言葉が脳にグサッときた。

五月二十四日

 ここ数日、ずっと考えていることがある。
 もし、東方神起に会えることになったら、ということ。
 いや、引き寄せの法則とかそういう話じゃない。あんなもんはもう何日も前の夜更けに「アナーキー・イン・ザ・UK」を熱唱しながら排水口に絡まったインのモウなどと一緒にベランダから捨てた。
 あくまで仮の話だ。会いたい、とか、会うためにはどうすればいいか、とかそういう話じゃない。
 もし仮に、そんな日がきたとして、今のわたしのままで恥ずかしくないのか、ということだ。
 ぶっちゃけ、恥ずかしい。それに、申し訳ない気もする。生きながら腐りかけているような、人間というよりむしろサバに近いような気もする自分の姿を、彼らの内側から輝きを放つ宝石みたいな瞳に映すのが申し訳ない。
 見た目だけの問題じゃない。この、おびただしいほどの何のために生きているのかわからなさ、誰からも必要とされてなさ、脳内を占めているエロ成分の多さ、そんなもろもろが二人に見抜かれてしまうような気さえする。そしてきっと、焼いたまま半日放置したサムギョプサルみたいな冷ややかな目つきで一瞥されるのだろう。
 結婚どころか彼氏を作ることさえ、わたしには無理だ。今んところ1000%無理だ。君は1000パ〜セ〜ン無理だ。でもチャンミンの言葉は、単に“アイドルなんか追っかけてないで、リアルな相手を見つけろ”という意味だけではないのだと思う。自分の人生をちゃんと生きろ、そう言いたいのではないか。自分の人生を全力で生きているチャンミン自身のように。って、チャンミンの本当の姿なんて全くわからないけれど。ていうか、ふと思ったんだけど、カルロストシキって今何してるのかな。なんか急に気になってきた。ちょっと、ウィキペディアで調べてみよう。

 ふう。
 また無駄なことに時間を費やしてしまった。気づいたらユーチューブでカルロストシキとオメガトライブの動画を漁っていた。そして夜のヒットスタジオで、サプライズでブラジルから来日した両親の姿を目にして涙を流すカルロスを見て、もらい泣きしてしまった。わたしは何をやっているのか。珍しく、真剣なことを考えている最中だったのに。どうしていつもこうなのだろう。
 カルロスのことはどうでもいいんだ! 記憶にあるより甘い歌声にちょっと股間がジワッときたけど、そんなこともどうでもいいんだ!わたしはどこまでバカなんだ! わたしなんか死ねばいい! いや生きろ! とにかく、いつか東方神起に会えたとき、恥ずかしくない人間になりたい! そうだ、そうなんだ!
 まあ、そんなチャンスは人生で一度もめぐってはこないだろうけど。せいぜいどでかいコンサート会場で豆粒サイズの二人を高性能双眼鏡越しに目にするのが関の山。東方神起に会うよりは、ブラジルにいってカルロストシキ探すほうが簡単なのではないか。カルロストシキの後ろでニコニコしながらステップ踏んでた黒人の人は、もしかすると東方神起より難しいかもしれない。そんなことはどうでもいい! 今度こそわたし死ね!
 ふう。落ち着こう。
 何か、打ち込んでいることがある。誰かに必要とされて、誰かのために時間を使う。目標をもって、夢中になって取り組む。そんな人間になれたら、きっと、東方神起の前に立っても恥ずかしくない。
 そんな気がする。
 はあ。
 やっぱり、企画を考えるしかないのか。
 今、他人が自分に求めてくれている唯一のものであるわけだし。カニ山さんがどこまで本気はわからないけど。
 考えよう、企画案。
 今度こそ、真剣に。
 気づけば会議まで、あと十日もない。
 とりあえず、オメガトライブの動画をあと十分見てからはじめよう。



(第8回につづく)



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プロフィール

南 綾子
(みなみ あやこ)

1981年、愛知県生まれ。2005年「夏がおわる」で第4回「女による女のためのR‐18 文学賞」大賞を受賞。
主な著作に『ほしいあいたいすきいれて』『ベイビィ、ワンモアタイム』『すべてわたしがやりました』『婚活1000本ノック』など。最新刊『ぬるま湯女子会、38度(ときどきちょっと熱い)』は好評発売中。