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知られざるわたしの日記 南 綾子

イラスト/黒猫まな子
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第 5 回


***
 女は顔を真っ赤にして、人さし指と中指と薬指で「三」を作った。
「え? 三人?」
 と課長が前のめりになって聞いた。
 その女――総務課で二週間の研修中の新入社員、緑川萌は、子供じみたしぐさで首をブンブン振った。セミロングの薄茶の髪が揺れて、隣に座っているわたしの鼻先に、バラの香りが漂ってくる。顔の大きさもウエストと脚の太さもわたしの半分以下の女。
「三十人です」
 どよめきが座敷席に広がった。男たちはうめきながら背をそらし、女たちは目を輝かせて大げさにキャーキャー言っている。
 わたしは、漬物石のように重たい絶望感に襲われていた。
「全員と付き合ってたわけじゃないよね? それとも、まだ二十二歳で、すでに三十人と付き合ったの?」
 二十代後半の、経理課の派遣女性社員が聞いた。
「うーん。別に誰とも付き合ってるつもりはなかったです」
はにかむような、少し困ったような顔で、緑川萌はそう言った。
 そのとき、どこからか「ビッチじゃん」というささやき声が聞こえた。わたしの正面で、黙々と芋焼酎をすすっている経理課のお局のあけみさんだ。わたしはとっさに緑川萌のほうを見た。幸いにも、彼女には聞こえていなかったようだ。
 確かに緑川萌はビッチだ。噂によれば地方テレビ局の女子アナに内定していたのに、素人AV出演歴がバレて内定取り消しになったらしい。どこかの新聞社重役の愛人だという噂もあるそうだ。うちの会社ももちろんコネ有。ビッチどころかクソビッチという言葉にすらおさまらないほどのビッチ具合。鬼ビッチ。いや鬼よりさらに強い。桃太郎ビッチ。
 でも、緑川萌は、とてもいい子だ。泣けるぐらいいい子だ。
 今日、わたしが間違えてトイレットペーパーを十倍の数で発注しそうになったのを、すんでのところで気づいてくれた。それなのに、自分のミスかのようにふるまい、わたしが課長から怒鳴られるのを防いでくれた。それだけじゃない。彼女はうちの部署にやってきてすぐにわたしが一番の嫌われ者と気づいたはずなのに、毎日欠かさず挨拶してくれるし、昨日はランチにも誘ってくれた。大げさでもなんでもなく、地上に舞い降りた天使かと思った。とても三十人の男の三十本のアレをアレしたりアレにアレしたりしたことがあるようには見えない顔だった。きっと緑川萌ほどの経験があれば、ネットで無修正画像とか検索しなくてもアレの絵をサササッとリアルに描けちゃったりするんだろう。わたしには描けない。いくら包茎に詳しくても見本がないと何も描けない。
 この地球上では、処女は高潔な生き物とされている。そして日本のインターネット界においては、まるで現代の女神のごとく扱われているフシもある。ピュアで、心に曇りのない、清らかな女。自分は男たちからそう見られている。そう思うと、どこか救われるような気持ちになる。
 でも、緑川萌のような存在を目の当たりにする度、すべてがもろくも崩れ去る。セックスした回数と心の清らかさは関係ない。人間としての美しさは関係ない。性器の純潔を守り続けていても、心の中は他人への妬み嫉みでドブのごとき汚れ具合。それがわたし。
 要するに、顔なのだ。そして持って生まれた美しい体。全てはそれ。全ての価値はそれで決まる。
 顔も体も醜いから、心も醜い。
 それがわたし。
***
四月十七日

 ここ数日、どうしても日記帳を開く気になれなかった。緑川萌のせいだ。彼女の出現は、記憶の奥にしまったパンドラの箱的なものを、くまのプーさん的ないじきたなさでこじ開けにきた。幼少期、プーさんの絵本を見てわたしは驚いたものだ。自分よりいじきたいない生き物は、コイツ以外にいないだろうと。そんなことはどうでもいい。彼女のあの容姿、あの雰囲気。
 あの日のことを、どうしても思い出してしまう。
 しかし、いつまでもあの日のことから、目をそらしているわけにもいかない。
 そろそろ書かなければ、ならない。
 そんな気がしている。
 そう、黒歴史第一位のことを。
 このまま、たった一つの失敗に足を引っ張られたまま、生き続けたくない。それなら死んだほうがまし、というか、死んだように生きていくようなものだから。
 実際、そうだ。わたしは自分の殻に閉じこもって、今、死んだように生きている。

 でももう眠いから明日書こ〜。
 とりあえず、自慰しよ〜。

四月二十二日

 今日こそ、今日こそ、と思っているうちに五日もたってしまった。
 さて。
 あの日について書くために、まずは十代半ばの頃までさかのぼって、自分の人生を整理してみようと思う。
 いつからだろう。わたしはとても長い間、とんでもない勘違いをし続けていた。
 自分は人間としても女としても、世の中の勝ち組なのだ、と。周囲の人たちは極めてさりげないかたちで、けれど何度も、「いやいや、あんたはブスで気持ち悪くて無条件で人から嫌われるクソムシだ」と教えてくれていた。でも全然、気づいていなかった。わたしは「わたしって、ちょっと太り気味で若干歯グキが目立つけど、愛嬌たっぷりのファニーフェイスでしかも頭もよくて家がお金持ちの、人から羨ましがられる女の子じゃん? いやマジで」と思っていた。いやマジで。
 それが、あの日全てがちゃぶ台のごとくひっくり返された。今はもう心の底から自覚している。わたしは今も昔もずっとクソムシで、そしてあの頃はクソムシでありながら、妖怪でもあった。
 今、目の前にアルバムがある。さっきふと思いついて、押し入れの奥から引っ張り出してきた。
 これを見ると、わたしがただのクソムシからクソムシ兼妖怪にパワーアップしたのは、女子高入学とほぼ同時だったということがはっきりわかる。
 わたしは、母の母校でもある神奈川の女子高に都内から通っていた。そこは、かわいい女子が多いと評判の学校だった。入学式の日、周りの同級生がみんなとても華やかでイケてることに気づいて、とても焦った。入学式のあと、近所の商店街にあった小さな化粧品店に駆け込み、こつこつためた小遣いを全額はたいてメイク道具一式そろえた。そのとき売り場のおばさんに眉毛の処理の仕方を聞き、家に帰ってその通りにやってみた。気づくとなぜか全剃りしていた。ショックだったけれど、まだワンチャンあると思った。描けばいいのだ。手元には見本として用意したアムロちゃんの雑誌の切り抜きがあった。それを見ながらアムロちゃん風の細眉を描き、唇もアムロちゃんみたいに縁どりしてから、紫のラメ入り口紅をたっぷり塗った。
 このとき、わたしは鏡を見たはずだった。でも過ちに気づいて引き返さなかったということは、もしかすると鏡を見ずにやったか、あるいは万に一つの可能性として、うちの洗面所の鏡は鏡と思っていただけでアルミ箔かなにかをかぶせただけの箱だったのかもしれない。
 翌朝、同じメイクを完璧に再現した。そしてさらに、髪をコテで巻いた。うちには母親の細いコテしかなく、バブル時代のウェービーな感じにしかできなかった。
 そして、そのときもやはり鏡を見たはずなのだ。そして鏡を見たなら、そこにうつっているのが、おいしいもの食べすぎたのかな? ってな感じでちょっと顔がふっくらした戸愚呂兄だと気づいたはずなのだ。ところがわたしは、これでよし、と思っただけだった。充分イケていると。よく覚えてないけど。そうでなければ、そんな姿で三年間毎日学校にいったりはしない。まさか自分が弟に殺されかけたガチグズの兄ソックリになっているとは、夢にも思っていなかった。
 まわりの友達は、何も言ってくれなかった。
 多分、わたしがときどき昼のパンや放課後のファーストフードをおごったり、試験前にノートをコピーして見せてあげていたからだと思う。わたしはクソムシであり戸愚呂兄でありながら、金持ちでガリ勉だった。
 わたしに彼氏ができないのは、自分が高嶺の花すぎるせいだ。そう信じていた。オシャレでイケてる上に、金持ちで勉強もできるのだから。男の子はわたしにビビってるだけ。だから、いい大学に入ってレベルの高い人々に囲まれたら、彼氏なんてすぐにできるはず。そう考えて、自分を奮い立たせた。そして高三の秋、第一志望の大学の指定校推薦をあっけなく勝ち取った。
 大学に入ったばかりの頃の写真を見ると、妖怪感は大分薄まっている。何より、髪を明るい茶色に染めてセミロングにしたのが功を奏し、戸愚呂兄感がほぼ消失した。それでも、わたしの姿はまだ全然余裕のよっちゃんイカで異様だった。なぜなら、実家の財力を最大限活用し、浜崎あゆみのコーディネートを完コピしていたからだ。クレージュのミニスカートから寒ブリのごとく太い太ももをむき出しにして、キャンパスを闊歩していた。
 そんな当時のわたしの夢は、女子アナウンサー。
 親に頼み込んで、アナウンスの専門学校にも通わせてもらっていた。でも、サークルはアナ研ではなく、演劇サークルに入った。その理由は、好きな人が演劇サークルにいたから。

 田原伊知郎。

 名前を書くだけで、吐きそうになる。
 真剣だった。わたしにとって正真正銘、まごうことなき初恋だった(いや、本当の初恋は小四のときで相手はヤクルトの池山だったんだけど、そのことは書く気になったらいつか書こうと思う)。
 同じ学部で、彼は一浪していたので一歳上だった。入学初日から、彼はその美しい容姿で注目の的だった。いつ、どのタイミングで心を奪われたのか、不思議なことにちっとも覚えていない。彼が演劇サークルに入ったと耳にしたその一分後には、キャンパスの隅っこにある、掘立小屋みたいな部室兼稽古場の扉をノックしていた。
 うちの大学の演劇サークルは歴史があり、有名な俳優も何人か輩出している。伊知郎は高校時代に演劇にハマり、俳優になるためだけにうちの大学に入った。サークルに入るとあっという間に頭角を現し、一年生にして公演で主要な役を演じるようになった。わたしたち同学年のメンバーにとっては、まさにリーダー的な存在だった。
 それにひきかえわたしは、当時の部長や演出担当に目の敵にされ、まだ同級生たちが裏方やアンサンブルなど楽な仕事しか与えられないうちから、公演で意味不明な役を押し付けられ人前で恥をかかされるという、下劣ないじめを受けていた。そもそも入って最初にやらされたのが、サツマイモの役だった。手作りの変な着ぐるみを着て、しゃべりながらずっと屁をこいているという意味不明に意味不明を浮気男のウソのように重ね塗りした役どころだった。わたしが稽古でセリフを口にする度、仲間たちは大笑いした。公演でも客に笑われて、ずっと涙をこらえながら演じていた。それ以降も、ダンゴムシとかボウリングのピンとか常にピザを片手に持ってるホステスとかガンによく効く高麗ニンジンとか、人格を否定する目的以外には考えられない役ばかりやらされた。あの頃の脚本担当の男が、今では売れっ子放送作家だというから本当に信じられない。そいつはともかく、ほかの男の先輩はみんな、わたしに片思いしていて、でもわたしが伊知郎のことしか眼中にないから意地悪をしているのだ。そう思っていた。女のメンバーは、わたしが可愛くて金持ちだから嫉妬している。だからかばってくれもせず、一緒になって笑っている、と。
 それでも、サークルをやめなかったのは、他でもなく伊知郎のためだ。
 伊知郎だけは決して、わたしを笑ったりしなかった。わたしの芝居を、いつもかなしげな顔で見ていた。伊知郎は、どうしたら将来アナウンサーになれるのか、いつも真剣に相談に乗ってくれた。サークルをやめてアナウンスの勉強に専念すべきだと、繰り返しすすめた。伊知郎の言葉に従いたい気持ちはあったけれど、彼と会えなくなるのがイヤで、決断できなかった。
 二年の秋頃、伊知郎は突然演劇サークルをやめ、広告研究会に入った。
 マスコミ業界への就職に有利に働くから、というのがその理由らしかった。マスコミ業界に就職したいと思っていたなんて初耳だった。彼は将来、役者か演出家になるものだと信じていたから。
 それ以来、学校で会っても無視されるようになった。
 それなのに、三年になってすぐの頃、突然、声をかけられた。何事もなかったみたいにどうでもいい話をしばらくしたあと、伊知郎は唐突に言った。
「学祭のミスコン、出てみないか」
 と。
 伊知郎はその容姿と要領のよさで、すんなりと広研の中心的なメンバーとなっていたようで、「ミスコンの運営はほぼ俺に任されてるから」と誇らしげに言った。「学内でかわいい女の子を探してスカウトしてるんだけどさ、俺のイチ押しとして、ぜひ出てほしいんだ」と、大きな目を以前と変わらずキラキラと輝かせて、わたしをじっと見つめながら、言った。
 だから、出ることにした。
 自信は、なくはなかった。それに、アナウンサーになるためには、ミスコンは避けては通れない。いいチャンスだと思った。あとその頃、近所の犬に顎をかまれて一時的に食事に難が生じ、そのせいで五キロ痩せたことも自信につながっていた。五キロばかり痩せたところで、デブという枠組みから歯クソ一粒はみ出してはいなかったけれど。
 伊知郎のおかげで、予選は軽々と突破し、ファイナリストに選ばれた。
 うちの大学は七月に、ファイナリストのお披露目会がある。全員同じ白いワンピースを着て、ステージに立ち、司会者からインタビューを受ける。
 当日、他のファイナリスト七人とともに、わたしは壇上に立った。
 集まった見物客がこちらを見ながらクスクス笑っていることには気づいていた。その理由に、全く心当たりがなかった。もしかして鼻毛が出ているのかもしれない、と思ったけれど、出る前に鏡を何度も確かめたからそれは絶対にないはずだった。とすると、どこからか風で飛んできた陰毛でも顔にくっついているか。そう思って手で何度も顔をぬぐってみたけれど、縮れ毛がハラハラと舞い落ちる、なんてことはなく、そうこうしているうちに、司会者役の伊知郎がマイク片手にわたしの横にやってきた。
「あの、失礼ですが、出場なさるコンテスト、お間違えじゃないですか?」 
 伊知郎は、その日初めて会った他人みたいな顔と口調で言った。
「ここは女相撲選手権の会場じゃないですよ」
 この伊知郎渾身のギャグは、全くウケなかった。会場は静まりかえっていた。それでも伊知郎は、デブいじり的なものをめげずに続けた。何を言ってもビタ一文、ウケなかった。面白くないのだから仕方がない。すると焦ったのか、そのうち彼はわたしに向かって「どすこい! どすこい!」としか言わなくなった。
 わたしは困惑した。しかし、伊知郎はどうしても笑いをとりたいらしい、ということは理解できた。彼の役に立ちたい、そう強く思った。彼のためなら、どんな道化も演じられる。だって、彼が好きだから。大好きだから。
 一つ深呼吸をし、一歩下がった。そして見物客たちのほうをまっすぐ見据え、できるだけ真剣な顔を作りながら、わたしは、横綱土俵入りの真似を全力でやりはじめた。
 見物客たちは、最初はわけもわからない様子でポカンとこちらを見上げていた。しかし、せり上がり(雲龍型)をやっているときぐらいから、少しずつざわざわしはじめ、やがて大きな波のような、これが爆笑でなくて何が爆笑かというぐらいの爆笑が一気に会場を埋め尽くした。
 わたしはそれに動じることなく、現役時代の曙太郎を意識した無表情で最後までやり切った。わたしにとっては、二人でとった笑いだった。終わりの柏手をうったあと、「やったね!」と心の中で叫びながら、熱い、熱いまなざしで伊知郎を振り返った。
 そのときの彼の顔は、見たこともないほど赤く染まっていた。
 そして、彼は突然、叫んだ。
「勘違いしてんじゃねえよ、ブス!」
 爆笑が、一瞬で鎮まった。
 その後、何を言われたのか具体的なことはほとんど覚えていない。ただ、わたしが普段どれだけ勘違いを伴った痛々しい行動をとっているかを、悪魔の毒霧のように唾液をまきちらしながら伊知郎はわめき続けた。ああ。こうして書いているうちにだんだん思い出してきた。「デブのくせにミニスカートなんかはくんじゃねえ! 歩く公害かよ!」「ブスすぎて見てるだけで目が腐る!」「お前、今まで生きてきて一度も鏡見たことないのかよ!」
 わたしは彼の顔と見物客たちを交互に見た。みんな、戸惑いつつも、伊知郎の言葉に同調していた。たくさんの冷やかな目つきがそれを物語っていた。そして、はじめてわたしは気づいたのだった。
 わたしって、デブでブスで、存在するだけで迷惑な生き物だったのだ、と。
 反射的に、他の候補者の姿を見た。それまで、彼女たちのことなど眼中になかった。伊知郎に気に入られているわたしは、無敵の美女だと思い込んでいたから。
 彼女達はこの騒動に動じることなく、愛らしい笑顔を振りまいていた。彼女達は控室で、とても優しかった。わたしを紛れ込んだ謎のブス扱いしなかった。緊張でお腹が痛いからといって、法学部の一年生の子がお弁当を分けてくれたりした。伊知郎のつまらないギャグは、実は図星だった。
 よく見ると、彼女達の顔の大きさもウエストと脚の太さもわたしの半分以下だった。いやよく見なくてもそうだ。自分に不都合な事実から目を逸らしていただけだ。
 持って生まれたものが違う。
 わたしは、生まれながらのブス。プリミティブブス。努力では覆らないブス。人に迷惑をかける公害ブス。おまけにデブ。痩せる努力から目を逸らして自分をごまかし続ける自堕落デブ。だけど努力したところでブスは治らない絶望デブ。そして心はドブ。うすうす気づいていた。そうでないふりをしていたら、いつか本当にそうでなくなるような気がしていただけだった。
 でもそんなまやかしの日々はもう終わりだ。今日を境に終わったのだ。
 これからの長い人生、わたしは自分のブスとデブとドブを全力で引き受けながら、ただただ静かにひっそりと、人目をしのんで生きていくのだ。
 そう思っていた。ステージの上で。
「お前、そういえば、聞いたぞ!」すっかり元気を取り戻した伊知郎が、鬼の首どころかキングギドラの首でももぎとったかのような顔で、こちらを指さしていた。「ブスでデブのくせに、乳首がへこんでるらしいな! 陥没乳首とか、終わってるな! 陥没乳首の女とセックスするなら死んだほうがマシだからな!」
 その瞬間、耐えきれず、わたしはステージから駆けおりてそのまま逃走した。
 ああ。
 ああああああ。
 わかった、わかったよ。
 ここまで書いてきて、ようやくわかったよ。死んだはずだよお富さん。
 何が、わたしの足を引っ張り続けているのか。何が、わたしの人生に暗い影を落としているのか。何をすれば、わたしはカニ山さんの言うように変われるのか。

 ティクビだ。

 これしかない。



(第6回につづく)



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プロフィール

南 綾子
(みなみ あやこ)

1981年、愛知県生まれ。2005年「夏がおわる」で第4回「女による女のためのR‐18 文学賞」大賞を受賞。
主な著作に『ほしいあいたいすきいれて』『ベイビィ、ワンモアタイム』『すべてわたしがやりました』『婚活1000本ノック』など。最新刊『ぬるま湯女子会、38度(ときどきちょっと熱い)』は好評発売中。