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星詠みは背中を押す
第9回
 大介の説明を、「組長」はじっと目を閉じて聞いていたが、やがて、
「お前さん、甘いねえ」
 溜息混じりにひと言だけ呟いた。
「甘い…………でしょうか?」
「ああ、客商売にゃあ向かねえなぁ」
 むすっとしているような、呆れているような、何とも言えない表情で「組長」は煙草に火をつけた。
 がっしりライターを握るように、ではなく煙草をくわえたままそっと両手でライターを包み込むようにして火をつけているあたりは、やはり女装する者のたしなみなのだろう。
 薄い煙を一服、口から小さく、細く吐き出し半ば目を閉じてテーブルの上に視線を落としながら、
「客と自分の関係は店の中だけ、その中で何が出来るかってのが、お前さんがたの商売の神髄って奴じゃないのかい?」
「はあ、そ、そうなんですが……どうしてもその、気になってしまって」
「だろうな。もうそういう『流れ』になっちまってるよ」
「は?」
「お前さん、バクチやったことはあるかい? 競馬とか、パチンコとか」
「いいえ」
 大介はどういうわけかその手の遊びには妙に縁が遠かった。
「そうか…………じゃあ、分からねえかもしれねえな」
 さらに一服。また口から煙草の煙を吐き出し、
「物事には『流れ』ってものがある。お祭りとかの出店で、同じモン売ってる屋台で『何となく』こっちの方で買う、ってことがねえか?」
「まあ、それぐらいなら」
「それが『流れ』ってやつだ。人間、落ち着いてたり、リラックスしてるとこういう『流れ』に乗りやすくなるし、無意識に乗ってたりする。何となく『ツイてる』ってのはそういう状況のことだ。だが、これにちょっとでも欲が絡むと見えなくなる、バクチで飯を食う奴はそれでも『見える』んだよ…………まあ、よく世間じゃ博打打ちで勝ちまくってる奴はインチキを見つからないように出来るからだ、っていうがありゃ半分だけホントでな。本当は『流れ』を読んでイカサマを仕掛けることが出来る、ってのが真相だ」
「…………はあ」
「で、お前さんの話を聞いてると、こいつぁどう見てもお前さんはこのことに関わる『流れ』に乗っちまってる」
 妙に神がかったことを「組長」は口にした。
「だからそのOLもお前さんの所にまた来たわけだし、その野郎の情報もお前さんの耳に入ってきた、さらに俺が話を切り出した…………そういう『流れ』には逆らわないこった。逆らうと一生後悔する」
「…………そういうもんでしょうか」
「セツコさん」は「組長」の地金を出して喋り、引き摺られるように思わず「エメリア」も大介の口調に戻っていた。
「ああ。だが、今回のは楽な話だぞ。『流れ』がひとつしかねえからな」
「ふたつとかの『流れ』ってのもあるんですか?」
「もっとある場合もある。そして手前ェがどの『流れ』に乗るか、ってのが漢の貫目…………度量を計る、本当の『運命の選択』ってやつだ」
「あの、組…………セツコさんもそういうのに?」
「ああ…………だから俺は真澄に嫌われてるんだ」
 何とも淋しそうな目をして、「セツコさん」こと「組長」は目を閉じた。
「で、お…………いえ、わ、私はぁ、どうしたらいいんでしょうかぁ?」
 頭を振って
「そりゃあむしろこっちが聞きたいぐらいだが……まあ、その野郎の素性ってやつを探って、お前に報せてやる……まあ、三日もあれば何とかなるだろう。そいつクレナイさんのSMサークルにいたんだな?」
「はい…………そう聞きました」
「分かった」
 力強く頷くと、ふっと「組長」は「セツコさん」に戻って微笑んだ。
「安心していいのよ、これは、あなたと私の友情なんだから」
 怪訝に思って首を傾げた大介の背後から、
「あら、もうお話は良いの?」
 とトイレにいっていた「ラミィさん」が声を掛けた。
 どうやら彼女(?)が戻ってくるのを見て態度を改めたらしい。
(まるで学校の先生に見つかった不良みたい)
 女装の「師匠」の前ではかしこまる「組長」が少し大介には微笑ましかった。
 どうやら「組長」の言っていた「流れ」は本当にあるものらしい。
 それから二日後のこと。
 いつものように仕事場に来ると、苦い顔でマダム・クレナイが「ちょっと来な」と更衣室のドアから手だけ出してひょいひょい、と人差し指を曲げた。
「?」
 取りあえず「エレメア」の衣装に着替えて、大介がクレナイの私室兼オーナールーム(応接室も兼ねる)へ赴くと、ソファーには生真面目そうな50代の男性がしょんぼりと座っていた。
「この子が、お話しした占い師のエレメアです」
 苦い顔でクレナイが、それでも来客用の丁寧な物腰で伝えると、
「あ、ど、どうも私、樟光太郎と言います。こちらであなたに良くお世話になっている樟由美の父です」
 そう言って、男性は慌てた風に立ち上がると、財布から名刺を取り出して差し出した。
 長野にある小さな郵便局の局長をやっているのだという。
「あ、どうもぉ」
 おっとりと「エレメア」は頷いて「ごめんなさぁい、私、名刺が……」と頭をさげた。
(そうだよな、普通社会人って名刺もちなんだよなあ)
 だが、この占い師という商売が生業ではない自分は名刺を作る意味があるとも思えない。
 こういう場面になると意外と落ち込むものだと大介は知った。
 自分だけが妙な具合に流されてここにいる。
「あの…………由美が、たいそう貴女を気にいってるとか」
「あ、はあ……」
 そんな話は初めて聞いた。だが、父親がそういうのなら、案外そんな風に自分のことを喋っているのだろうか。
 だが、実家が長野と言うことは、同居はしてないだろう。
 電話だろうか。
 それほど親密な親子だとしたら…………
 憶測が頭の中で勝手に走り出そうとしたところ、
「実は……その…………大変難しいですし、そちらにとっては職業倫理にもとるかもしれないのですが、御願いがありまして」
「はあ?」
 職業倫理という随分難しい言葉を使うあたりはお役所の人間っぽかったが、そんな大仰な言葉まで使ってこちらに頼み事というのはなんだろうか。
「実は……由美に、今付き合っている男性に別れるように占いの結果を告げては貰えないでしょうか」
「……」
 呆然と、「エメリア」は由美の父の顔を見つめた。
 同時にマダム・クレナイの苦い顔の理由も。
「なんでまた……」
「実は…………相手の男には困った性癖がありまして、その……あまり素性の良くない男なのです」
(ああ、やっぱりSM趣味って今でも続いてるのか)
「その…………ご存じの通り由美は真面目で、今まで男を寄せ付けないような潔癖さのある娘でして、その…………」
「…………」
 大介はその場に立ったまま考え込んだ。
「あの子は、その男と結婚まで考えているようでして……」
「あのぅ、由美さんのお父さん、どうやってそのことをぅ、調べたんですかあ?」
「興信所です」
 言われて、ようやく大介は世の中にそういう商売があることを思い出した。
 同時にそれが大抵の場合酷く高くつくと言うことも。
 つまり、この父親はそれほど娘のことを心配しているのだろう。
「母親が居ればまだ何とかなったんでしょうが、あの子が高校の時に死にまして、それ以来、男手だけで育てているものですから……いい子ではあるんですが、やはりその……」
 男親では手の届かない心の問題というのはあるのだろう。
 何となく姉を見ているとそれは分かる。
 父親に対して自分の入院を報せるな、という気丈な態度は逆に言えば、「もう自分は父親に甘えてはいけない」という自立の心でもあるし、同時にこういう姿を父親には見せたくないという見栄でもある。
 同じように、父親にとって触れづらい部分でもあるのだろう。
 だから、遠回しに自分にいって欲しいのだ。
(つまり、たかが占い師の言葉に期待を掛けねばならないほどに心配してるってことだよね)
 そう思うと、大介はしんみりした気分になった。
「どうか、どうか御願いします、ムチャなのは分かっておりますが、どうか、どうか」
 由美の父親はそう言って頭を下げた。
「…………」
 それなりに人を使う立場の人間が、誰とも良くわからぬ怪しい商売の人間に頭までさげていた。
(そんなコトしなくってもいいのに)
 申し訳ない気分になった。
 何しろ姉のような「本業」ではなく、女装しているようなただの予備校生なのだ。
 だが、「はい」というには問題がある。
 占いは所詮、「一歩踏み出せない人の背中を押す」だけで「人生を導くもの」ではない…………姉やクレナイからもくどいほど言い聞かされていることだ。
『お前さん、甘いねえ』
「セツコさん」こと「組長のしんみりした声が耳の中に蘇る。
 それは遠回しに「お前はこの商売に向かない」といわれている気がして落ち込みそうになったが、それが事実だと受け止める必要が、今はあった。
 少なくとも目の前に居る由美の父親に対し、ちゃんとした答えを出さねばならない。
(断ろう)
 そう思った。 (断って、帰って貰おう)
 決意して、口を開く。
「わかりましたぁ、頭をあげてくださぁい」
 クレナイがぎょっと目を剥くのが視界の外からの気配で分かる。
 自分自身でも驚いた。
 こんなことをいうつもりではなかったのだ。
 ゴメンナサイ、それは出来ないんですよ。
 それを「エメリア」風にいうつもりだったのに。
「お嬢さんにはそれとなくぅ、今の人と距離を置くようにいってみますぅ」
 まるで、自分の中にもう一人「エメリア」が居て、勝手にしゃべり出したような。
「でもぉ、やっぱり最後はお父さんが説得なさったほうがぁ、いいと思いますよぉ」
「…………はい」
 初老の男はそう素直に頭を下げ、懐からやや厚めの封筒を取り出したが、それだけは硬く固辞した。
「…………あんたって子は、まったく」
 何度も頭をさげて、由美の父が部屋を出て行くと、大きな溜息をついてマダム・クレナイはくしゃっと自分の髪の毛をわしづかみにした。
「本当にルーナの弟なのかい?」
「すみません……」
 しょんぼりと大介は頭を下げた。
 それ以上のことは考えられなかった。
「姉貴と違って、アンタはこの商売に向いてないかもしれないねえ」
「……」
 何も言えず、しょんぼりと大介は床を見つめるしかなかった。
「組長」がいっていた「流れ」というのは恐ろしいもので、由美はまるでタイミングを計ったかのようにその翌日の夜、閉店直前に「エメリア」を訪ねてきた。
 無いことに、顔を真っ赤にして、アルコールの匂いをぷんぷんさせている。
「ありがとうございます、わたし、エメリアさんのお陰で幸せになりました!」
「いや、あの……」
 大介が話す暇を与えず、由美はべらべらと喋り通した。
 殆どが他愛のないことで、やれ彼とどこへいって食事しただの、指輪を買ってくれただの。
 あまりにも幸せそうに彼女は喋り続けた。
 電話もメールもこまめにくれるそうだ。
 由美は「会えないのが淋しい」と電話をしてくれるといって笑い、「メールで『ごめんね』と会えない日に謝ってくれる」といっては泣いた。
「それにねー、あたし、男の人とあんまりおつきあいないから、ケッコー恥ずかしい事してるのぉ。最初のデートの時、ネクタイ選ぼうとしたりとか……それって男の人どん引きでしょ? でも彼、笑って受け取ってくれて………あたし後で知って恥ずかしかったけど『君がそこまで僕のことを思ってくれてて嬉しい』って……」
 とにかく、幸せで、幸せで、不安になってくるぐらい幸せらしかった。
 早い話、のろけを誰かに聞いて貰わないとどうにかなりそうなぐらい。
 それは、聞いてるこちらが段々苦痛になってくるほどではあったが、同時に奇妙な疑念も大介に抱かせた。
(彼女が言ってることが本当で、他が単なる偏見だったとしたら?)
 世の中にはマイノリティに対する色眼鏡は常にある。親友の真澄と一緒に居るところを見た他のクラスメイトから訳知り顔に「ヤクザの息子だぜ、あれ」とか「オタクと付き合うとろくな事はないぜ」とか忠告されたこともある。
 そんなイメージからいわれたことが事実でなかったことは、大介自身が一番よく知っている。
 ひょっとしたら、自分もそういう人間の一人なのかもしれない。
 第一、占い師の分際で他人の色恋沙汰にのめり込みすぎているのは事実なのだから。

 彼女の語る「彼」のほうが本当の姿ではないか。
 真面目で、優しくて、気配りが出来て……SMはあくまでも「趣味」だと弁えて、現実の相手には求めないだけの良心的な、「大人」なのではないか。
 自分があの時感じた反発というか不安は、その「大人』に対する自分の「子供っぷり」の恥ずかしさの反作用で……。

 一生懸命茫洋な笑顔を浮かべて話を聞きながらも、大介の頭は混乱していた。

 いつの間にか由美の話は一巡して、また同じ話に戻っていた。
 アルコールのせいだろう。
 だが、相手が勝手に喋り続けてくれるので、逆に大介は自分の考えと直感を再検証する時間を貰ったようなものだ。
 だが、聞いているウチに奇妙な事に気がついた。
(なんで、由美さん不安なんだろう)
 繰り返し喋っている由美の様子は幸せそうでもあるが、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。
(女って面倒だよな)
 高校時代、愚痴ってたクラスメイトの言葉を思い出す。
(こまめに電話しろだのメールには返事よこせだの、うぜーったらねーよ)
 最初聞いた時は「随分贅沢な話だな」と思った物だが、その後も同じようなことを別の人間の口から何度か聞いて「女の子と付き合うってのは面倒くさいんだな」と感じたのは事実だ。
 そのことを姉に話したとき、溜息混じりの苦笑を浮かべた奈留は、
「男は一度女に告白するともうそれで『黙っていても分かるだろ?』って思うけどさ、女は現実に生きてるから、いつも不安なのよ。だから毎日…………とはいわないけど、三日に一回ぐらいは『愛してる』とか、そういう行動を取って欲しいの、アンタも気をつけなさいよ」
 と教えてくれた。
 だとしたら、「彼」の奇妙なまめさは何なんだろう、と思う。
 毎日、電話とメールで「愛の確認」をしてくれる。男性との交際経験がない故の彼女の見当違いのプレゼントや行動をフォローしてくれる。
(モテる男だからかな?)
 あり得ない話ではなかった。
 だが、「モテる男」の意味は「女ったらし」ということだ。
「女ったらし」とはどういうことか。
 つまりそれは……「女を食い物にしている男」だからではないか。
(食い物?)
 それは金が目的だろうか? それとも身体だろうか?
(いや、ひょっとしたらタダの『いい男』って可能性もあるし)
 世の中には「女ったらし」とは似て非なる、「女にもてる行動を自然に取れる男」という存在も居る。
 彼らに悪意はない。そして実際に付き合ってみると本当に「いい男」だったりするのだ。
 由美に思い入れが深くなりすぎて、自分の判断がズレているのかもしれない。
 その可能性はあった。
 呂律が回らなくなった由美が、半分机に突っ伏すようにして眠り始める。
 その細いうなじを見ながら、大介は内心の懊悩を忘れ、思わず微笑んだ。
 途端。
「…………」
 あのデートの日、男がふっと笑みを消し、フードの中にある「エメリア」の顔をのぞき込みながら
「ありがとう、占い師『くん』」
 と言った瞬間を思い出す。

 あの目。

(あれは『いい男』の目じゃない)
 一瞬のリラックスの後、完全にフラットになった感情の中で大介は確信した。
 あれはどう見ても「邪魔をするなよ」と周囲に言い含める不良の目。
 周囲を威嚇して獲物のそばに寄らせない野良犬の目だ。
(だとしたら……)
 深呼吸をして、大介は決意した。
 占い師の道義に外れるかもしれないが、ここはやはり由美の父に頼まれたとおり、彼女には「別れるべきだ」と忠告するべきだろう。
 数回さらに深呼吸すると、大介はそっと由美を揺り動かした。
「もしもし……由美さん?」
 よほど眠りが深かったのか、由美は数分ほど揺り起こすのを続けて、ようやく目をさました。
「あ…………はぅ?」
 まだ濃厚にアルコールが残っているらしいとろんとした目で、由美は頭をあげて大介の顔を見上げた。
(可愛いなあ)
 ちょっと口を半開きにして、あどけなくこちらを見る由美の顔は「軍曹」とか言われるような棘が抜け落ちて、まるで子供のように無防備で、普段の落差の分だけ可愛らしく思えた。
「占い、いいんですか?」
「あ、しゅ、しゅみません、あらし、よっれしますれ……」
 ふらふらと、それでも彼女は上半身を持ち上げた。
「あの、でもれすね、エメリアしゃんにはすっごく感謝してるんれす、エメリアしゃんのおかげれ、わらし、とっても上手くあの人とおつきあいれきて……うらにゃいは、しんじれなかったんれすけれど、れも……」
「あの…………そのことなんですけ……どぉ」
 思わず大介の口調に戻りそうになりながら、ぐっと「エメリア」は堪えて、いつも通りのんびりとした喋りで、決意した言葉を伝えようとした。
「あのぅ、以前連れてきた人とはぁ……あんまりよくない相が最近出て来てるんですぅ……」
「!」
 びっくりした顔で、由美はこっちを見た。
「ど、どういうことですか」
 アルコールの酩酊も吹っ飛んだらしい。呂律も元に戻っていた。
「このままいくとぉ、あの人と貴女はぁ、あんまり良くない事になりそうでぇ……暗雲っていうかぁ、彼氏さんの上に妙な黒い雲が見えてて、それが由美さんを……」
「…………凄い!」
 ぎゅっと由美は「エメリア」の手を握りしめた。
「!」
 その手の柔らかさと、熱さに、思わず大介が硬直するところへ、たたみ込むように由美は喋る。
「さすがエメリアさんです! やっぱりあの人は大変な運命に巻き込まれようとしてるんですね! 実は昨日、彼に相談されたんです、『昇進の人事が耳打ちされたんだけど、結婚していない人物はどうか、という反対意見が出てどうなるか分からない』って!」
「!」
 口から出任せが、思わぬ方向に運命の船を向けそうになっていることに、大介が気づいた時はすでに遅かった。
「私、彼と結婚します! 彼は来週、一緒に伊豆まで旅行に行く時に返事を聞かせてくれ、って言ってて、悩んでたんですけれど、エメリアさんのお陰で決意が出来ました」
「いや、あのそれは……」
「分かってます、それって凄く過酷な運命で、わたしもどうなるか分からないんですよね!」
 アルコールが抜けきっていない由美は大介ことエメリアの「お告げ」を勝手に自己完結させて解釈したらしく、燃えた目でこちらを見つめ、勢いよく立ち上がった。
 大介は、自分の失策を悟った。
 占い師の第一原則「相手に話をさせてからこちらの話を」ということを忘れて喋ったことが、こういう結果を生んだのだ。
「でも、私、彼と一緒に頑張ってみます、ありがとうございます、エメリアさん!」
 そう大声で叫ぶように宣言すると、由美は立ち上がり、あっという間に走り出ていった。
「あ、待って!」
 慌てて後を追おうとする大介だったが、衣装の裾が絡んで走りづらい。
 ようやく廊下に出たとき、アルコールと思い込みが由美の耳に栓をしていて、大介の声もエメリアの声も聞こえないらしく、OLはあっという間に階段を駆け下りていってしまった後だった。
 それでも後を追う。
 だが、大介が一階に着いたとき、すでに受付にも由美の姿は無かった。
 ドアの外に出る。
 終電には余裕のある繁華街の人混みは、OLの姿を飲み込んで、素知らぬ顔で流れていた。
「…………」
 膝から落ちそうな気分で、大介は手近な自動販売機にもたれかかって、しばらくその光景を眺めていた。
 それしか、今彼が出来ることはなかったからだ。

プロフィール
神野オキナ
(かみの おきな)

1970年沖縄生まれ。山羊座。国内外の映画ファン。99年にファミ通エンタメ大賞にて『かがみのうた』で小説部門佳作を受賞。同年、『闇色の戦天使』(ファミ 通文庫)でデビュー。代表作に「あそびにいくヨ!」シリーズ(MF文庫J)、「うらにわのかみさま」シリーズ(HJ文庫)、「シックス・ボルト」シリーズ(電撃文庫)等。
「あそ びにいくヨ!」は10年夏よりアニメ化。

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