双葉社web文芸マガジン[カラフル]

図書室のバシラドール(竹内真)

イラスト:中島梨絵

文化祭のビブリオバトル

『ビブリオバトルをやろう!』
 二学期初日、図書室ノートにそう書きこんだのは二年B組の大木葵だった。
『こないだ本屋いったら、読書の秋特集みたいなコーナーがあってさ、『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』って新書を立ち読みしたら面白そうだったんで買ってきた。
 去年の文化祭では図書委員会の企画でブックトークをやったそうだけど、このビブリオバトルも文化祭でやったら面白いと思う。図書委員の人、よかったら検討してね。その本なら貸すし、そこにのってた「ビブリオバトル公式ルール」ってのを写しときます』
 その下に、四行のシンプルな文章が記されていた。公式ルールというだけでなく、知らない人に向けた紹介にもなっているらしい。
『1 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
 2 順番に一人5分間で本を紹介する。
 3 それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
 4 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。』
 その公式ルールの引用をちょっと丁寧な字で書いた後、一行空いて大木くんの文章に戻っていた。
『俺、一年の時は図書室ってろくに使ってなくて、今年から朝企画に交ぜてもらうようになったから、去年の文化祭でブックトークのイベントやって盛り上がったんだよー、なんて話を聞いててうらやましかったんだ。だから今度の文化祭でビブリオバトルをやって、誰でも参加できるようにしてほしいです!』
 朝企画というのは、詩織が主催した「早朝おしゃべり図書室」という企画のことだった。いつもより三十分ほど早く登校して、朝の図書室で雑談しながら本の修繕や書架整理といった仕事を体験してみようという集まりだ。一学期に三度ほど開いただけだし、参加人数は毎回数名程度だったけれど、それまで馴染みのなかった生徒が図書室を身近に感じる機会にはなった。図書委員ではない大木くんから文化祭の企画を提案してくれたのもその成果だろう。
 翌日には大木くんの書き込みに他の利用者からのコメントがついた。「よく分かんないけどやってみたいです!」とか「その本見せて」とか、協力的な反応が多かったが、中には批判的な声もある。
『このルールだと……たとえば十人集まったら、本の紹介とディスカッションで、最低七分×十人=七〇分間もかかることになります。授業時間よりも長いとなると、聞いてる側の集中が続かないんじゃない?』
 特に署名はなかったが、昼休みの間にそんなコメントをつけたのは二年A組の小枝歩乃佳だった。放課後にノートをチェックしにきた大木くんも筆跡から誰だか分かったようで、露骨にしょげた顔をしている。
「あーあ、せっかく提案したのに、図書委員から否定されちゃったよー」
 詩織に向かって、ノートを掲げてぼやいてくる。詩織は一応とりなしておいた。
「否定、ってほどでもないんじゃない? 時間的に長すぎるって言ってるだけだし」
「でも、発表五分とディスカッション二~三分ってのが決まりなんだよ。公式ルールを勝手に変えたらビブリオバトルではないって、本にも書いてあったし」
「そのルールは変えなくていいじゃない」詩織はノートの書き込みを確認した。「もし十人参加したら長くなりすぎるってツッコミなんだから、そこを工夫すればいいんだよ」
「ってえと……人数を制限するとか?」
 大木くんは首を傾げた。図書委員ではない自分が参加したいところから始まっているから、参加者限定というのは抵抗があるのだろう。
「別に制限しなくても……そりゃ、図書室からあふれるような人数だったら困るけど、ビブリオバトルっていってもいろんなやり方があるんでしょ?」
 実のところ、詩織は昨日のうちに図書室ノートを読み、インターネットで調べていた。大木くんが買った本はまだ読んでいないけれど、ネット上ではビブリオバトル普及委員会というところが積極的に情報発信をしていて、様々な実施例が文章や動画で紹介されていた。あれこれ眺めた後で、是非やってみたいとも思ったのだ。
 ただし、そうやって詩織が調べた知識をそのまま伝えるのは控えるつもりだった。せっかく大木くんが提案してくれたのだし、公式本ともいうべき一冊まで用意されているのだ。その本を最大限活かすためにも、生徒たちの力で実現してほしかった。
「私、前に学校司書の研修会で聞いたことあるんだけど」詩織は何食わぬ顔で言った。「ビブリオバトルって、学校によったら授業の一環でやったりするんでしょ? 人数が多くたって何とかなるもんじゃないの?」
「ああ、そういえば……」大木くんは持参の公式本のページをめくった。「学校での実施例とかワークショップスタイルとか、いろいろ載ってたよ」
「じゃあ、そういう例をノートで紹介してあげなよ。みんなだって、その本を丸ごと読むんじゃ大変だもん。大木くんから教わった方がてっとり早くて分かりやすいだろうし」
 実のところ、詩織は今日、その本を図書館の購入希望図書のリストに入れたところだった。おそらく選書会議でも反対はされないだろうし、十一月の文化祭までには新着コーナーに並べることもできるだろう。それをみんなで回覧することもできそうだけど、この際だから大木くんに活躍してほしかった。
「せっかく図書室ノートで話題にしたんだもん。そこでみんなで情報を共有すれば、何かアイデアも出るんじゃない? そうやって、みんながやりやすい形で開催するのが一番だと思うよ」
「そっか。そうだよね」
 詩織の言葉に大木くんもうなずいた。さっき開いた公式本のページに指を挟み、図書室ノートと一緒に閲覧席に持っていっている。
 一学期の朝企画以来、バス通学の彼はバスの待ち時間を図書室で過ごすことが増えている。今日はあまり時間の余裕もなさそうだったが、その時間をぎりぎりいっぱいに使ってノートへ書き込んでいた。

「大木って、小枝ちゃんのこと好きなのかな」
 詩織に囁いてきたのは、二年B組の図書委員、森川智美だった。当番のカウンター業務の合間に図書室ノートを眺め、丸い黒縁眼鏡を指で押し上げている。
「クラスでも聞かれたんです。このビブリオバトル、図書委員に頼んだら文化祭とかでやってもらえるかなって。私に聞かれたって答えらんないし、図書室のノートにでも書いとけばって言っといたんですけど、なんか本気みたい」
「本気だと、小枝ちゃんが好きってことになるの?」
 詩織はとぼけておくことにした。小枝嬢と話す時の彼の顔を見れば恋心も一目瞭然だけれど、噂話とは距離を置いておきたい。
「決めつけちゃダメだよ。ちゃんとビブリオバトルのこと勉強して、真面目に提案してくれてるじゃない」
「だって、こないだうちのクラスでも文化祭で何やろうかって話し合いはあったんですよ。その時は何も提案しなかったくせに、こうやって図書室ノートに書いてるって変じゃないですか?」
「そう? ビブリオバトルなら、教室よりは図書室向けっていうのもあると思うよ」
「まあ……そういうのもあるか」
 森川嬢もうなずいて口を閉ざした。本人は何やら確信しているようだったが、それ以上あれこれ言うのもはしたないと思ったようだ。
「せっかくだから、何か書いといたら?」詩織は話を逸らした。「その話題、何人かコメントしてるけど、森川ちゃんはまだ何も書いてないよね?」
「うん。まだです。――こういうの、最初に何て書こうか迷いますよね」
「そんなの何だっていいじゃない。そりゃあ人の恋愛感情どうこうってのはまずいけど、本の話題が出てるんだし、私だったらビブリオバトルでこんな本を紹介したい、とかさ」
「えー、だってそれじゃネタバレになっちゃう」
「ネタバレ?」
「ほら、実際にやることになったら、紹介本はその本番でジャーンって出したいじゃないですか。ノートで予告してたらインパクトが薄れちゃう」
「あー、なるほど」
 納得しつつ、詩織はそこで笑ってしまった。
「ていうか――それじゃあもう、やる気になってるってことね」
「だって、こういうの読んでたら、そりゃあ考えちゃいますよ。自分ならどんな本にするかなあ、どうやって紹介しようかなあって」
「じゃ、その気持ちだけでも書いてあげなよ。そういうのも応援になりそうだし」
「うーん、そうですねー」
 うなずきつつも、彼女はまだ思案顔だった。人が横にいると書きにくいかなと、詩織はさりげなくカウンターを離れた。
 大木くんの提案から始まったビブリオバトルについての相談は、小枝嬢や森川嬢をはじめ図書委員数名も加わって続いた。他の話題で盛り上がったりイラストを描いたりという生徒たちの合間を縫いつつ、どうやって開催すべきか議論されていったのだ。
『ビブリオバトルをイベント型でやりきろうって思うから無理が出ちゃうんじゃない?』
『でも、文化祭ならイベント型がいいよ。去年のブックトーク企画も、観客の前で喋る感じだったんでしょ?』
『去年は瀬井さんっていう、演劇部のスターだった先輩がいたからうまくいったとこもあるし、無理に同じにすることないと思う』
『ていうか大木的には、ワークショップ型ってのじゃダメなの?』
『私、そのワークショップ型の少人数で何グループも作る形がいいと思う。それって、去年やったブックテーブルに似てるし』
『あー。ブックテーブルの読書会で役割とか決めた代わりに、おすすめ本の紹介と投票があるって感じ?』
『あのー、去年の文化祭を知らない者もおりますので、そのあたりもうちょっと説明してもらえると……』
 そんな中、『去年も図書室ノートがあればよかったのにね』と登場したのは司書教諭の若森先生だった。『去年の文化祭では、初日にブックトークっていう有志によるおすすめ本の紹介企画を、二日目にブックテーブルっていうグループ単位の読書会が開催されました。一日目は誰でも聴衆になれたし、二日目はテーマ本を読んでれば誰でも参加できる形だったよ』と説明してくれている。
『それから、ビブリオバトルのいろんな方式については公式サイトを見ると早いです。イベント型とかワークショップ型とかの説明も出てるし、動画とか見ればすぐ分かるよ』
 そう書いて公式サイトや動画の検索ワードを書いてくれている。日頃の仕事ではぐうたらなのに、こういうことになるとマメな人であった。
 そんな書き込みの中、議論に加わるために公式本や公式サイトに目を通した生徒もいたようだし、下調べをするほどには興味のない生徒でも大木くんの書き写したルールくらいは読んだようだ。おかげでビブリオバトルという言葉とそのルールもだんだんと浸透してきた。――やがて図書委員会が開かれて文化祭の企画について話し合われた時には、あらためてビブリオバトルという言葉を説明する必要もなかった。
 二学期最初の図書委員会は新しい役員の選出から始まった。委員長と副委員長と書記は、一学期から夏休みまでは三年生が務めるが、二学期からは下級生の役割となるのだ。まずは自薦なり他薦なりで図書委員長が選ばれ、その委員長の仕切りで議事が進むことになる。詩織は若森先生と共にカウンター内に座り、生徒たちの話し合いを見守った。
「委員長、立候補してもいいですか?」
 意外なことに、真っ先に手を挙げたのは小枝歩乃佳だった。
「図書室ノートで、図書委員じゃない人から、文化祭でビブリオバトルをやりたいって提案がありまして――それを実現させるためにも、委員長を引き受けたいって思ってます」
「おおーっ」
 どよめきと拍手が巻き起こった。図書室ノートでの経緯を知っている者には驚きの展開だったのだろう。
 なにしろ、大木くんの提案に対し、最初に疑問の声を上げたのが小枝嬢だ。てっきり反対派かと思った者も多かったろう。それがここにきて、推進派に転じたどころか実現のために図書委員長まで引き受けるというのだ。どよめくのも無理はない。
 異議は出なかった。日頃から図書委員の仕事には真面目に励み、当番ではなくても図書室に顔を出す彼女は、先輩にも後輩にも受けがいい。そもそも自分から委員長になりたがる者など滅多にいないから、誰かが引き受けてくれるなら歓迎ムードになる。
「じゃあ、決まりでいいかな?」
 これまで委員長だった三年生の関田岳が言った。スムースな議事進行を喜んでいる顔だ。
「反対の人がいたら挙手してください。信任してくれるって人は拍手で!」
 拍手の音が高まった。他に立候補者も現れず、小枝嬢は無投票で信任である。
 そうなると次は副委員長一名を選ぶ段取りだったが、そこで新委員長から提案があった。
「副委員長には、大隈くんを推薦します」
「……は?」
 すっとんきょうな声を上げたのは他ならぬ大隈くんだった。本人には知らせないままのサプライズ推薦だったらしい。
「彼なら一年生の時から図書委員ですから仕事のことは分かってるし、去年の文化祭では一年生で唯一ブックトークにも出演してました。ビブリオバトルの開催にも心強いと思うんですが、どうでしょう?」
「ちょっと待てよ、俺は――」
 大隈くんは抗議しようとしたが、周りの拍手の音に阻まれた。それまで詩織の隣で何やら帳面仕事をしていた若森先生も、彼に向かって笑顔で告げた。
「どうだい、大隈? 委員長直々の推薦だぞ。男としては副委員長くらいで引き下がれないと思うけど」
「……それ、男女差別じゃないすか」
「男の俺が言ってんだからいいじゃないか」
 若森先生はにこにこ笑いながら大隈くんの抗弁を受け流した。そのあたりは教師の老練さというものだろうか。
「あたし、去年の大隈くんのブックトーク聞いてたよ!」そう声を上げたのは、元副委員長の氷川瑞穂である。「カッコよかったし、今度の文化祭も君が発表するなら楽しみー」
「……いや別に、発表するって決めてないし」
 言われた大隈くんは顔を赤らめている。思わぬところで褒められて照れているらしい。
「図書委員が仕切るんなら、ブックトーク経験者が頑張らないと」氷川先輩はにっこり笑いかけた。「委員長がしっかりしてれば副委員長なんて肩書きだけだから、楽なもんだよ」
「それじゃ」そこで二年B組森川智美が声を上げた。「大隈くんが副委員長をやってくれるなら、私は書記に立候補します!」
「おおーっ」
 再び拍手が涌いた。こうなると、大隈くんは逃げ場を失った格好である。
 抵抗も尻すぼみになったと見たのか、開田くんが「じゃあこれで三役とも決まりだね。皆さん拍手を!」と話をまとめにかかった。こちらも異論は上がらず、信任決定という雲行きである。
 詩織もその拍手に加わった。――副委員長人事は意外だったけれど、二年生の新三役がビブリオバトルを取り仕切ってくれるのが楽しみだった。

 新委員長のもと、ビブリオバトルの開催方法が話し合われた。議論も煮詰まった頃、小枝嬢は背後のホワイトボードを振り返る。
「では、話をまとめましょうか」
 そこには大まかな議事内容が記されていた。新書記の森川智美が書き留めたものである。
 ホワイトボードの脇には副委員長と書記が控える格好で、大隈くんもペンを持って待機していたのだが、彼はほとんど書いていない。誤字があった時に指摘したくらいで、あとはのんびり構えて議事進行を見守っていただけだ。貫録さえ漂う副委員長ぶりである。
「希望者は誰でも参加可能、図書委員が進行役、って基本方針でお願いします」小枝委員長が言った。「文化祭の二日とも、午前予選で午後決勝。初日は生徒のみでやって、二日目は教職員や外来の人たちも参加可能とします。図書委員は、クラスや部活の用事の空き時間を使って仕事のシフトを組みましょう。バトラー希望者は、自前でも図書室で借りた本でも、おすすめ本を持参して、午前中のワークショップ型ビブリオバトルから参加してもらいます。そして自分では発表はしない、聞いたり投票したりを楽しむだけでいいって人は、午後のイベント型ビブリオバトルの聴衆として参加――ってことで、いいでしょうか?」
 反論は上がらない。小枝委員長は続けた。
「誰でも参加可能とすると参加人数が当日まで分からないって問題がありますが、そこは午前中のワークショップのグループ分けで対応できます。参加人数に応じていくつグループを作るか、何人ずつにするかを決めて、どのテーブルにも図書委員が入って司会進行を受け持つってことにしたいと思います」
 参加人数が少ないようなら各グループに複数の図書委員が入ればいいし、図書委員だけのグループがあっても構わない。人数が多ければグループを増やして図書委員が分散するということだった。
「で、午前中はそのグループでワークショップ型のビブリオバトルを行って、その中でチャンプ本を決めます。それが予選になって、午後は各グループのチャンプ本バトラーで決勝戦。決勝は誰でも観覧と投票が可能です。――図書委員は各自ルールを把握してもらって、文化祭本番までに予行演習的に実演もしていくってことで、大丈夫でしょうか?」
「予選と決勝って――」大隈くんが口を開いた。「バトラーは、同じ本で発表するわけ?」
「同じ本でも違う本でもいいって、さっき話したじゃない」小枝委員長はため息で応じる。「予選は同じグループの人に紹介するだけだし、決勝では大勢に向けた発表になるから、同じ本でも違う感覚になるはずって」
「予選の発表を練習と思えば」森川書記も言った。「決勝ではもっとうまく喋れるって人もいるだろうしね」
「なるほど」
 大隈くんは涼しい顔でうなずいている。さっきまでの相談を聞いていなかったようでもあるが、あるいは確認のためにわざと質問してみせたのかもしれない。
「それで、当日までの予行練習というか、図書委員が慣れておくためにも、希望者で自主的にビブリオバトルをやってみようって話ですが――コミュニティ型なら、発表者と聴衆で三名以上いれば開催できるみたいです。たとえば、月曜のお昼休みに図書室の雑誌コーナーのテーブルで開催ってことでどうでしょう?」
 小枝委員長の問いかけは詩織や若森先生に向けられたものだった。その時間にそのスペースを使ってもいいですかと、使用許可を求めているのだ。
「うん、いいんじゃないか?」若森先生が言った。「土日に読んだ本を月曜にみんなに紹介、なんて、優雅な習慣にできそうだよな。発表は五分とかディスカスは三分とか時間が決まってるなら昼休みにぴったりだし――もちろん当番の仕事がある人は無理だけど、希望者が集まって周りに迷惑かけずにやれるなら、月曜の恒例にしてもいいと思うよ」
 先生が許可するなら詩織から反対する理由もない。隣でにっこり笑っておいた。雑誌コーナーの丸テーブルを窓際に動かし、閲覧用の椅子を確保しておけば他の生徒に迷惑もかからないはずだ。
「予行練習で紹介した本を、本番でも使うってありですか?」
 大隈くんが質問した。何故か若森先生に向かって尋ねたので、若森先生は肩をすくめてみんなの方に手を動かす。話し合って決めなよというジェスチャーだ。
「そこは好きでいいんじゃない?」森川書記が言った。「何度も練習した本で本番って人もいるだろうし、本番までに別の本を紹介したくなることもありそうだし」
「どうせ予行演習するなら、展示企画も連動させないか?」元委員長の開田岳が言った。「そのビブリオバトルで紹介された本を記録しといて、文化祭当日は去年のブックマークコンテストみたいにばーっと貼り出すとか」
「でも――それだと本番のビブリオバトルのネタバレになっちゃうんじゃないですか?」
「ていうか、今年はブックマークコンテストはやらないの?」
「ビブリオバトルを始めるなら、展示企画も新しい方が――」
 委員長がまとめにかかった話し合いが、また別の方向で膨らんだ。活発な会議はまだ終わらないようだった。
(第8回へつづく)

竹内 真Makoto Takeuchi

1971年生まれ。慶應義塾大学卒業。95年に三田文学新人賞、98年「神楽坂ファミリー」で第66回小説現代新人賞、99年『粗忽拳銃』で第12回小説すばる新人賞、2013年『カレーライフ』で京都水無月大賞を受賞する。著書に『図書室のキリギリス』『図書室のピーナッツ』の「図書室」シリーズのほか、『風に桜の舞う道で』『じーさん武勇伝』『自転車少年記』『ビールボーイズ』『イン・ザ・ルーツ』『ホラベンチャー』『ぱらっぱフーガ』『だがしょ屋ペーパーバック物語』『リノベご飯のレシピ帖』『廃墟戦隊ラフレンジャー』などがある。

  • 双葉社
  • 小説推理
pagetop