双葉社web文芸マガジン[カラフル]

猫でござる~江戸にゃん草紙 / 柏田道夫・著


のみ取り屋おたま脇ばたらき
その二~決闘! お玉ヶ池たまがいけ

 三味線しゃみせんを背負った娘は、およしといった。
 浅草あさくさとびの頭領の娘で、お玉ヶ池には剣術ではなく(そりゃそうだ)、常磐津ときわづを習いに通っているという。
「まさか、お師匠は紺屋町のおゆきさん?」
 米屋の猫タマの脇ばたらきで出会った色っぽい元芸者の顔が浮かんだ。
「違うよ、おもんさん。おとっつぁんの昔のおめかけ
「へえ、昔のお妾さんに」
「うん、新門辰五郎しんもんたつごろうの娘だからって、みっちり教えてくれるよ」
「しんもん、たつごろう? って聞いたことあるよ。親分だ。あんた、娘なんだ」
 切れ長の眼の少女がこっくりとうなずく。
 新門辰五郎は、浅草あたりを束ねる火消しの頭でもあったはずだ。なんだかえらい娘と知り合った気がする。ま、関係ない。聞き流すとしよう。
「あの猫のことなら、おはなちゃんに聞けばいろいろと知ってる。でもね、捕まえて退治させるためじゃないからね」
「分かってるよ。私もね、どうもこの陣羽織じんばおり騒ぎには裏がある気がするんだ」
 浅草の親分の娘お芳と肩を並べて、お玉は古着屋の並ぶ柳原やなぎわらの土手へと向かう。お花という娘はこの一軒の店番だという。
 道すがら、まだらの話を続けた。
 お玉は同心の岡倉おかくら中村なかむら家に連れて行かれ、そのまま二泊するはめになった。日課のようにまだらが庭を通るので、見つけたら捕まえろと命じられた。
 見張りをしくじって、陣羽織をボロボロにされた奥女中のおふじとも会った。お藤は謹慎きんしんしていたのだが、成り行きからお玉の面倒を見ることになった。
 このお藤がどうも妙なのだ。
 お玉がまだらと名付けたノラのことを聞いても、最初はキジ猫だったとか、えさをやっていたとか追い払っていたとか、答えがコロコロと変わる。
「本当にまだらが爪を研いだのですか?」
 ポツリと疑問を口にしたら、お藤はひどくムキになった。
「あやつです! 嘘だというのですか!?」
「いえ、嘘だなんて……」
「私が命を捨てる覚悟までして、そのような嘘やでたらめなどを?」
「いえ、猫ってわりと、爪を研ぐ場所とか決めていたりするので」
「そこまで言うならば!」
 とお藤は陣羽織を見せた。もちろん、こっそりと。本当は町同心の手下の、それも猫の蚤取り屋ごときが、拝見などできない家宝なのだそうだ。
 陣羽織は本当に、由緒あると言われなければ、柳原の土手の古着屋でも引き取ってくれないほどにくたびれていた。
 その背中に幾筋もの裂け目が走っている。なるほど猫の爪がつけたと見えなくもないが、それにしては鋭すぎるようにも思える。
「これが落ちていました」
 お藤は懐紙かいしを出して開いた。そこに曲がって半分に裂けた爪が二つ。猫は爪を研ぐと、鞘のように古い爪が抜けたりする。間違いなく猫の爪だ。
 釈然としないながら、お玉はまだらが来るのを待った。
 翌朝にまだらが庭に現れた。お玉は眠っていたのだが、下女の足音が近づいてきたのに飛び起きた。ゆるんでしまったとはいえ、忍の訓練を受けたお玉は、緊急時には身体が反応する。
 庭の手水鉢ちょうずばちに座るまだらと対峙たいじして、お玉は集会で猫たちを仕切っていた親分だ、というのにようやく気づいた。ひたいに傷があった。
 中村家は内神田うちかんだ岩本町いわもとちょうで、集会があった白壁町しらかべちょうからも近い。とはいえ、まだらはこのあたりのかなりの広さを縄張りとしているようだ。きっと浅草の新門辰五郎くらいの。
 この時もお玉の殺気を感じたのか、まだらはあっさりと逃げた。
 消える間際、まだらはお玉にではなく、知らせに来た下女にニャアと鳴いた。
 昨夜、お玉に膳を運んできたおそのという飯炊めしたき女で、まだらを見たら知らせるようにと命令されていたのだ。
 おそのはまだらの鳴き声に、一瞬悲しげな表情を浮かべた。まだらに餌でもやっていたのかもしれない。
 
 柳原の土手あたりは露天の古着屋が並ぶ。その一軒にお花がいた。
 お芳より三つ、四つ上だろうか、くるりとまわる大きな眼、小柄で小太り、両手を上下左右に動かしながらよくしゃべる。どことなく人間ばなれしている。
 お玉が肩にぶら下げていたおおかみの毛皮(これを使って猫の蚤を取るという話はしましたね。忘れた、知らないという方は、第一話を読んで下さい)を手にすると、匂いを嗅ぐなり、
「わあ、いろんな猫の匂いがする。最後のは知らない。このあたりの猫じゃないわ」
 と眉を寄せたのだ。
 毛皮を使って蚤取りをしたのは三日前、八丁堀はっちょうぼり同心岡倉の猫ゴンベエだ。ここからは、神田から日本橋を横切ってようやく着く。縄張りが違うのだろう。
「え、お花ちゃん、そんなことも分かるの!?」
「うん、あたいは猫の生まれ変わりだからね、大体のことは」
 お花はあっけらかんと笑う。
 お芳がかいつまんでまだらにかけられた容疑を語った。お藤の描いた絵を一瞥いちべつするなり、お花は断言する。
「この子はまだらじゃなくて、菊姫きくひめだ」
「き、菊姫」と思わずお玉も繰り返す。
「うん、メスだから姫だけど、このあたりを仕切っているよ。いわば江戸猫族における内神田界隈かいわいの新門辰五郎!」
「花ちゃん、やだあ。おとっつぁんはオス!」
 ――父親をオス呼ばわりかよ!
 お花はケラケラ笑いながら、またしても断言した。
「でも、菊姫は陣羽織の下手猫じゃないよ」
「花ちゃん、あたしもそう思うんだ」
 お芳とお花が顔を見合わせて頷く。
「なんで?」
「だって菊姫が爪を研ぐのは、あたいのところと、岩本町の甚兵衛じんべえさんの柱、それにお玉ヶ池稲荷いなりの鳥居と決まっているから」
「……」
 反論したいが、猫の生まれ変わりと言うお花の見立てを呑み込むしかなさそうだ。
 お花は帯の前で両手を軽く組む。まるで猫の懐手そのままじゃないか。
「中村家か……だったらおそのさんが知ってる。菊姫が立ち寄るのは、おそのさんから飯をもらっていたからだし」
「あ、飯炊きの女中さん!」
 菊姫ことまだらにいつくしみの眼を向けていた下女の顔を、お玉は思い出した。
「うん、おそのさん、きっと、陣羽織のことも菊姫じゃないと分かっていると思う」
 どうやらこの一帯の縄張りやら、力関係などなど、恐るべき精密な情報が、猫つながりで得られるようだ。同心の岡倉には、絶対に教えてやるものか。
 お玉はおそのに会うことにした。
 そして二日後。
 お玉は、まさにお玉ヶ池稲荷にいた。
 ここはその昔には、本当に池があったそうだ。お玉という茶屋の女がいて、二人の男に思いを寄せられ、その板挟みになって池に身投げした。そのお玉の霊をまつる稲荷社ができて今に至っている。
 千葉周作ちばしゅうさくの道場玄武館げんぶかんは、路地を二つばかり挟んだ武家屋敷の一角にある。
 いろいろあって、お玉は決闘するはめになってしまった、それも侍と。
 猫娘のお花によると、ここに立つ鳥居で菊姫ことまだら(面倒なのでまだらで通します)が爪を研ぐという。
 今日のところはまだ、まだらは現れていないようだ。
 お玉は稲荷社に立つ柳の木から、境内をうかがっている。
 まだ約束の刻限まで間がある。
 宮本武蔵みやもとむさしみたいに、遅れて現れてといった悠長ゆうちょうな戦術はできない。忍が敵と戦うはめになる時は、できるだけ前もって有利な状況を作っておく。敵のことを調べて、弱点があればそこを攻める。得意手があれば、それを防ぐ方法を用意しておく。
 だが、お玉の決闘の相手は、千葉道場の目録を得ている腕前で、稽古相手の岡倉も三本のうちに一本を取れるかどうかだという。
 そう、お玉が決闘する相手は、今度の脇ばたらきを岡倉に依頼した中村某こと、中村勝三郎かつさぶろうである。
 お玉がいろんなことを暴いてしまったために、怒髪天どはつてんくという有様だという。
 お玉にしてみたらいい迷惑だけど、相手は何しろ武士の体面とやらがあって、かの陣羽織破損の決着をつけなくてはいけないのだそうだ。
 岡倉に始末を頼んだのが間違いだった。あいつのせいでこんなことになってしまった。
「お、お玉、はええな。まさかくの一と北辰一刀流ほくしんいっとうりゅうの果たし合いが見られるとは思わなかったぜ。それもお玉ヶ池で」
 ひょいとほこらの裏から、岡倉が顔を出してエヘエヘと笑う。照れなのか、後ろめたさなのか。少しは悪いと思っているようだ。
 お玉はぷいと頬を膨らませて横を向く。
「まあ、怒るなよ。そもそも、おめえが悪いんだぜ。さっさとあの下手猫を捕まえるなり、死骸しがいにして届ければ丸く納まったのによ」
「まだらは下手猫じゃありません。濡れ衣ぬれぎぬです。同心ともあろう人が……」
「猫じゃねえか」
「猫でも、いえ猫だからといって、無実の者に罪をなすりつけるのは間違いです。だって岡倉さんのところのゴンベエ」
「ゴンベエがどうした?」
「ゴンベエがもし今度の下手猫とされたら、どうします?」
「ゴンベエはねえな。ここのところ寝てるだけだし」
「そういうことを言っているのでは……」
「面倒くせえなあ」
 お玉は岡倉に背を向けて、蚤取り道具が入っている箱のふたを開ける。ここに忍の者が使う武器も納められている。
「しかし、陣羽織の下手猫、じゃねえな、下手人がおそのだとはなあ」
「違いますよ。おそのさんは真相を知っていて、ようやく教えてくれた飯炊きの下女さん。下手人は奥女中のお藤さん」
「そうだった、第一発見者だ。よくある筋書きだな」
 陣羽織に、糸切りばさみと毛抜きを使って、傷をつけたのは女中のお藤だった。しかもお藤にそうさせたのは、中村家を継ぐことになっていた中村勝三郎である。
 勝三郎は実は、親戚から中村家を継ぐために入った養子だった。勝三郎が十五歳の時に、跡継ぎを急死させた中村家に養子となった。五百石の旗本家を継げるのだから、三男坊だった勝三郎にとっては栄達のはずだ。
 が、勝三郎はこの中村家が嫌いだった。小さい頃から(結果的に養父となった)当主も、継ぐはずだった生っちょろい息子も嫌いだった。もちろん家風も役職も。
 浪々の身になったとしても、北辰一刀流の免許皆伝かいでんとなり、いずれ道場主となることが目標だった。しかし中村家を継げば、生涯勘定方かんじょうかたで帳簿を相手に生涯を送ることになる。
 さらに、跡目を正式に継げば、養父の決めた妻をもらい、奥女中のお藤は中村家を去らざるを得なくなる。
 そう、お藤と勝三郎はわりない仲になっていたのだ。
 ――あ、やっぱりそうか、結局、人間ってやつは(猫と違って)そういうことで、面倒を起こすんだよな……(猫は喧嘩するだけだし)。
 お玉は、おそのから聞いた時にそう思った。
 勝三郎の苦悩を知って、お藤は家宝の陣羽織を、お披露目で使えなくすればいいと衝動的に思いついたわけだ。
 ひっかき傷のついた陣羽織と、死んで詫びるというお藤を見て、勝三郎もすべてを察した。お藤を救うためにも、その嘘を通すことにしたのだ。
 ところが、飯炊き女のおそのにすべてを知られていたし、猫を捕まえるために雇われた蚤取り屋の女が、あっさりと一部始終を暴いてしまった。
 岡倉にそのことを告げられた勝三郎は、観念するどころか、お玉を斬ると告げた。
「なんで私が果たし合いをするんですか!」
 と当然のようにお玉は拒絶したが、岡倉はことを収めるには立ち会うしかないと言う。
 その後で次のようなやりとりがあって、こうなってしまった。
「ま、命までは奪われることはなかろう。俺がついている。試合をすればいいのだ。だが、手を抜く必要はない。中村の腕は確かだ。お玉も真剣に忍の技で立ち向かえ」
「真剣でいいのですか? 私が勝ってしまいますよ」
 岡倉は口をぽかんと空けた。
「なんだと?」
「ですから、真剣に真剣で試合をすると、私が相手の命を奪うことになります」
「あ~、おめえは、天下無双の北辰一刀流の目録者に勝つっていうのか!?」
「ま、やってみないと分からないけど」
「よし、そこまで言うなら、やるしかねえな。やっぱり立ち会いだ」
 という妙な流れ。
 
 そしてそして、お玉ヶ池稲荷の境内で、中村勝三郎とお玉が対峙している。
 勝三郎がたすきに鉢巻きで、抜き身の真剣(やっぱり!)を光らせているのに対して、いつもの蚤取り屋の扮装のお玉。
 ただ両の二の腕を鉄の筒籠手つつごてでがっちりと固めている。
 お玉が手にしているのは、くない一本。匕首あいくちくらいの長さで、円錐形えんすいけい両刃もろば、先端がきりのように尖っている。
 立ち会っている岡倉が思わず、
「おい、それでいいのか?」
 と尋ねたが、お玉はニッと笑った。
 その笑いにキリキリと勝三郎が歯噛みした。怒りの念が、それこそ手裏剣のように飛んでくる。
 岡倉はその時、お玉の腰から股引ももひきにかけて、ぐっしょりと濡れているのに気づいた。
 勝三郎は、ゆっくりと青眼せいがんに構える。剣士の冷静さを取り戻している。
 お玉はくないを持つ右手を顔の前に、左手を胸の前に構える。
 岡倉の眼には、勝三郎には一分のすきもないように見えた。いつもの防具での試合ならば、竹刀しないの先が上下に小刻みに揺れるのだが、刀は微動だにしない。
 そう、竹刀ではない!
 しかも勝三郎は本気だ。
 勝三郎の剣は容赦なく、お玉の脳天目がけて振り下ろされるはずだ。
 岡倉がそう思った瞬間、勝三郎の身体が跳躍した。剣が正面に突かれながらも、跳ね上がり、真っ直ぐに振り下ろされた。
 岡倉には、お玉の頭に深々とめり込む刃が見えた、気がした。
 カチャン!
 と鋭い音がして火花が散った。
 勝三郎の一撃は空気を裂き、かばい手の筒籠手を剣先がかすめた。
 お玉の身体は、そのまま地面に倒れている。ふわりと綿毛わたげが落ちるように。
 しかし、背中は地面には触れずに、バッタのごとく、お玉は跳ね上がった。
 同時にくないを持つ右手が、勝三郎の胸元を右脇下から左肩へと走る。陽光に反射して、岡倉には閃光に見えた。
 勝三郎もしかし、並の遣い手ではない。背中をのけぞらせ、尖った刃先を避けた。ぶちりとたすきが切れ、袖がふわりと風に膨らむ。
 二の太刀を繰り出そうとした勝三郎だったが。どうと尻餅しりもちをついて倒れた。
 お玉の蹴りが胸を直撃していた。
 が、そのまま攻撃には移らず、お玉は一歩後ろに下がる。
 勝三郎も間を置かずに起き上がりながら、剣を繰り出すべく構えようとした。
 その時、勝三郎はむろん、岡倉の想像も絶することが起きた。
 パシッ、ビューンという音とともに、勝三郎の刀が宙に舞い上がったのだ。
 それも刃は光らずに、水滴を四方に散らしている。刀が宙にくるくると廻り、刃がばらばらになった。岡倉にはそう見えた。
 刀はそのまま地面に垂直に刺さって、ぶるぶると揺れている。
 ピシャリという音とともに、細い布がお玉の右腕の筒籠手に巻かれている。
 戸隠流三尺手拭さんじゃくてぬぐい。
 忍の術に、そんなばかばかしい技があることを岡倉も聞いたことがあった。
 すおう染めの細長い手拭いを、忍者は常備している。帯や頬かむり、包帯にも使える。
 そして武器にも。お玉はこの手拭いに水を含ませて帯に下げていたのだ。
 これを居合抜きの間合いで繰り出した。
 勝三郎の構えた刀に、濡れた手拭いが一瞬にして巻き付き、繰り出された剣は、勢いのまま飛ばされた。
 勝三郎は空になった手のひらを呆然と見ている。
 お玉は右手のくないを目の前に上げた。我に返り、脇差しに手をかけた勝三郎の額を狙っている。
「それまで! 勝負あった!」
 くないを投げようとしたお玉の腕、脇差しを抜きかけた勝三郎、間を割って入ろうとした岡倉の身体が、ぴたりと止まった。
 三人の眼が同時に声の主に注がれる。
「先生!」
 岡倉が叫び、勝三郎が息を呑んだ。
 庭石に男が座っていた。
 白髪混じりで痩せているが、引き締まった筋肉が着物を透かして見えるようだ。
 まだ五十には届いていないようだが、仙人を思わせるたたずまいだ。それもそのはず、膝の上に猫がいて、フハハァと大きなあくびをしている。まだら模様で額に傷!
 岡倉と勝三郎は並んで正座し、頭を下げている。男が誰なのかはお玉にも分かった。
 千葉周作。
「せ、先生、こ、これは……」
 青い顔で押し黙ったままの勝三郎に変わって、岡倉が言い訳を始めようとしている。
 それを無視して千葉先生は、お玉に人なつこい笑顔を向けてきた。
「お前さんは戸隠の忍かい」
 お玉は曖昧に頷き、くないを懐に納める。
「いいものを見せてもらった。礼を言う」
 先生はまだらを抱えると、ゆっくりと立ち上がる。
「……その猫」
「うん、名前は菊姫だったな。柳原の土手を散歩しておったら、こいつがひょっこり現れてな。“ついてこい”というので、来てみたらお前らが立ち会いをしておった」
 お玉のところまで来ると、千葉先生は、抱いていたまだらをひょいと渡した。
 あっけにとられてお玉は、自分の両手が抱えている猫の顔を見る。
 フニャアアゴとひと鳴きして、まだらは小さくあくびをして、にやりと笑った。
 頭の中がつかの間真っ白になって、まだらが何と言ったのか分からなかった。
 神田一帯を束ねているメス猫の新門辰五郎ではなく、そのあたりの町娘然とした顔。
 まだらはお玉の手の甲についた水滴をぺろりとめた。

(第9回につづく)

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柏田 道夫Michio Kashiwada

1953年東京都生まれ。青山学院大学文学部日本文学科卒。脚本家、小説家、劇作家。95年、第2回歴史群像大賞、第34回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2010年、脚本を手掛けた映画『武士の家計簿』が大ヒットを記録する。近著に『しぐれ茶漬 武士の料理帖』 (光文社時代小説文庫)、『矢立屋新平太版木帳』 (徳間文庫)。

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