双葉社web文芸マガジン[カラフル]

猫でござる~江戸にゃん草紙 / 柏田道夫・著

双忍そうにん蚤取のみとり屋おたま猫小僧成郎吉ねここぞうにやろきち
そして白猫しろねこ志乃しの しのびばたらき

 初夏の風は心地よい。
 緑の香りをまとっていて、ほおまげでていくだけで、青い空を見上げて胸いっぱいに空気を吸い込みたくなる。
 なのに誰も心地よい空なんぞ見上げていない。懐手ふところでうつむいたまま、大きなため息をついたりしている。
 成郎吉なろうきちとすれ違った年かさの女房は、「お先まっくら、まっくら」とつぶやいていた。顔色も真っ黒というほどではないにしろ、すすけている。明日あたり死にそうな病人みたいだ。
 人は不安や憂鬱ゆううつを背負ってしまうと、おてんとさまを拝むことも忘れてしまうようだ。
 誰がこんな世の中にしているのか?
 まつりごとにはうとい成郎吉だが、真っ先にあいつの顔が浮かぶ。
 鳥居耀蔵とりいようぞう
 昨年の夏にお玉と三年ぶりに再会し、おかしらの命令で、双忍となって南町奉行所に忍び込んだ。
 あの折に、世の人を震え上がらせていた奉行の鳥居と会った。
 鳥居の飼い猫の真田丸さなだまると、成郎吉の相棒のクロを追いかけていた鳥居は、ただの間抜けなおっさんで、妖怪と怖れられている奉行には見えなかったが。
 鳥居を奉行に据えた老中の水野忠邦みずのただくにが、好きにやらせているとかで、次から次へと禁令を出し、江戸の隅々すみずみに眼を光らせている。政をつかさどるといった立場になると、庶民なんぞ、上から押さえ付ければ、すべて世の中丸く収まると思い込むようだ。
 忍者ながら暢気者のんきものの成郎吉でさえ、そんなことを思う。つらつら考えながら、両国橋りようごくばしを渡って東両国の広小路ひろこうじに足を向けた。
 ずっとここを避けていた。両国橋は使わざるを得ないのだけど、なるべく見世物みせもの小屋が建ち並ぶ広小路のほうには足を向けないようにしていた。今日はやむをえない。
 四年前に戸隠村とがくしむらから逃れ、玉本小吉たまもとこきちという軽業一座かるわざいちざの座員にまぎれ込んで江戸に来た。ここで相棒のクロと出会った。
 一座の頭の小吉と、そして猫舞ねこまい一座の看板娘の千鳥ちどり。この二人の女を思い出すだけで、成郎吉の胸がちくりと痛む。
 二人の一座はそれぞれ、日本のあちこちを旅してまわるのだが、いつ何時、東両国に戻っているか分からない。
 人は過去を捨てたと思っても、身体からだに彫った刺青いれずみみたいに消すことはできない。さらしで隠してもまくればあらわになる。
 成郎吉自身、忍者の身分を捨てようとしたが、結局、その技で盗人稼業ぬすつとかぎようだし、お玉と再会したことで、忍ばたらきをしている。
 しているのか、させられているのか……?
 思考をぐるぐる巡らせていて、思わず立ち止まり、口をあんぐりさせた。
 陽の光こそまぶしいが、熱気はかけらもなく、閑散としている。半分破れた葦簀よしずがだらしなくぶら下がり、人も数えられるくらいしかいない。わずかに講釈とあやつり人形、子ども芝居といったのぼりが掲げられているだけだ。
 矢場やばや妖術、軽業といった看板は、葦簀の向こうにうち捨てられていた。
 成郎吉が座員をやっていた頃は、鉦太鼓かねたいこや呼び込みの声に、客たちの歓声が渦巻うずまいていた。見世物一座の幟が風にはためき、色とりどりの看板絵やビラであふれていた。それでも「締め付けがきつくなって、昔に比べたら」と小吉座長はこぼしていたのだが。
 両国橋東詰の出し物は総じていかがわしい。お上が真っ先に取り締まったのだ。
 奉行所の捕り方たちに娘浄瑠璃語むすめじようるりかたりが一斉に捕まり、なわつながれて牢屋送りになったのはいつだったか。
 玉本一座の小吉は、ぱだかに下帯、半纏はんてんという衣装で舞台を飛び回っていたし、クロを成郎吉に託した千鳥は、三味線しやみせんの音に合わせて猫を踊らせていた。
 ここで開帳していたら、浄瑠璃語りと同じ目に遭っていただろう。
 ――二人はどこにいて、今なにをしているのだろう?
 殺風景なありさまを見て、成郎吉は小さくため息をついた。
 その後で、腹の底からむらむらと怒りが沸いてきた。
 昨年の天保てんぽう十三年は、矢継やつばやに禁令が出された。博奕ばくちの厳禁や富士講や題目講だいもくこうの禁止、浄瑠璃三絃さんげんの女師匠が弟子を取ることも禁止、揚弓場ようきゆうばの女が矢を拾うこともけしからん、ということになり、両国のみならず、盛り場から弓場が消えた。初物の売買まで同じく禁止。好色本や人情本はもちろん、役者や遊女、芸者らの一枚刷り錦絵にしきえも禁止された。
 成郎吉はしかし怒りを抑えつけ、指定された葦簀の陰へと廻った。
「ようやく来たね」
 と声がして、成郎吉の前に女が立った。
 弁慶格子べんけいごうしの着物に黒の博多帯はかたおび、髪はあねさんかぶりの手拭てぬぐいで、そのあたりの商家のおかみさんとしか見えない。
 一月ひとつき前の夜、彦根ひこね藩邸内で最初に会った時は、薄桃色の長襦袢ながじゆばん一枚だった。次の夜は、短い筒袴つつばかまにふくらはぎがむき出しの忍装束しようぞく
 お玉が猫いらずを売った時は、三味線を抱えた鳥追い女だったという。
 彦根藩井伊いい家のくノ一、伊賀徒行いがかちのおたか。
 成郎吉は黙ったまま、おたかの前に立った。
八十吉やそきちは?」
 おたかは井伊家を裏切ったという男の消息を聞いた。
「生きているよ」
「どこに隠した?」
 成郎吉は躊躇ためらった末に答えた。
「……お玉の家だ」
「ま、あいつはどうでもいいが……」
 とだけ告げて、おたかはあの夜のようなうるんだ瞳で、成郎吉を見上げた。
 思わず成郎吉は視線を切る。また吸い込まれて、いいようにされそうだ。
 八十吉は浅草あさくさ菜飯屋なめしや「め川田楽がわでんがく」の板前で、実際は井伊家の“”という忍だった。姉と偽って八十吉と店をやっていたおことも、同じ江戸に潜入していた忍。
 裏切ったという二人は、彦根藩のかみ屋敷に連れて行かれた。成郎吉は八丁堀はつちようぼり同心の岡倉市平太おかくらいちへいたから八十吉の捜索を命令された。
 そして成郎吉は、待ち構えていたおたかの誘いに乗って、この女を抱いた。
 その翌夜、成郎吉は八十吉を連れ、彦根藩邸の牢を抜けた。
 おたかはこれを阻止しようと、配下の忍とともに二人に襲いかかったが、成郎吉たちを助けるべくお玉、そして白猫志乃が現れ、殺し合いになった。
 おたか配下の忍は倒され、成郎吉は傷ついた八十吉を抱えて逃れた。
 今、八十吉はお玉の家にひそみ、傷を治している。
 この出来事よりも四年前、戸隠村で猫目ねこめ一族が、おたか率いる伊賀徒行と戸隠忍者たちに襲われ壊滅させられていた。成郎吉がにんとなり、追跡のためにお玉が戸隠村を出た直後のことだ。
 この折、おたかと志乃との間に何かあったらしいが、成郎吉は詳しくは聞いていない。
「にゃろきち、で、あんたとお玉ってくノ一が、南町奉行所から盗んだ密書はどこ?」
 おたかは両手を開きながら一歩近づく。紅を薄くいた唇が、成郎吉の顔から一寸先に迫り、甘い息がかかる。
「お頭が持っている。どこに消えたのかは分からない」
「志乃とかいう真っ白女は?」
「おれが聞いても、あの人は何も教えてくれない……お玉にも」
「使えない忍だね。いいモノ持ってるのに」
 おたかはスッと手を成郎吉の股間に伸ばした。成郎吉はとっさに身を引いた。
「志乃はもうひとつ“吉光よしみつ”を隠し持っている。その気配は?」
「ない。知らない」
 “吉光”は真田家に伝わる宝刀だと聞いたことがある。それを志乃が持っているというのは、成郎吉には初耳だった。
 おたかはふんと鼻で笑うと、成郎吉から離れた。
 成郎吉は肩から力を抜いた。
「頭領、どうします?」
 おたかは成郎吉の眼を見つめたままで、背後に尋ねた。
 ぶら下がった葦簀の陰から、ひとりの男が現れた。
「!」
 成郎吉は思わず唇をんだ。
 剃刀かみそりの眼の男――、あの夜、井伊家上屋敷の植え込みに立っていた男だ。
 今日ははっきりと顔が見える。歳は二十五から三十手前か。細い眼だけでなく、眉も鼻筋もあごの線も、のみで削ったように鋭角だ。
 成郎吉よりも五つ、六つ上に過ぎないのに、格の違いを見せられているようだ。
 笛を鳴らすような細い声で男は告げる。
「このまま探れ」
「………」
 成郎吉は答えなかった。いや、返答など許されない迫力に押し黙ったのだ。だが、それではあまりに情けない気がした。
「断る、と言ったら」
 男はツイと成郎吉の前に立つと、ダラリと下げていた手を上げた。
 一瞬の出来事だった。男の手が下がる前に、成郎吉は喉仏のどぼとけを押さえて膝を折っていた。刺されたように痛い。
小柄こづかだったら死んでた。よかったね、命が延びたよ。あんたはどうせ、そういう男さ。八十吉と同じだ」
 うずくまる成郎吉の背中に、おたかは手を置いた。
「あ、あんた、は?」
 男の顔を見上げて、成郎吉はようやく声を絞り出した。 
「知らなくていい」
「知りたいか?」
 おたかと男の声が重なった。
 こっくりと成郎吉はうなずく。
「しゅぜん」
 ポツリと男が告げると、おたかは「えっ」と目を見開く。
長野主膳ながのしゆぜん、この名を覚えておけ」
 男はニヤリと笑い、背中を向けてスタスタと歩く。
 おたかは成郎吉を一瞥いちべつし、長野主膳と名乗った男を追いかけていった。
 成郎吉はふうと大きく息を吐いた。
 ――俺はやっぱり裏切り者なのか? 
 それが成郎吉という忍の宿命なのか?
 江戸に来たばかりの時と同じ場所で、成郎吉は自分に問うている。
 同じ抜けるような青い空を、麻布あざぶの家で、お玉はぼんやりと眺めていた。
 ――私はどうしてしまったのだろう……?
 と自分に問いながら。
 前から飼っている二匹の猫、茶トラのちゃわんと、白のが、お玉が適当に振るひもにじゃれて、絡み合っている。
 ここにもう一匹、キジトラの凶暴猫が加わって、ちゃわんととくりを追い出した。
 シャモジだ。
 め川田楽で、板前の八十吉と、姉だとされていたお琴に飼われていたあの猫だ。大福みたいな真ん丸な顔で、シャモジはフギャと鳴いて、お玉を見上げた。
「あんた、腹が減ったのかい?」
 とお玉は紐を置いて立ち上がる。
 すると、はりの上から遊ぶ三匹を眺めていた黒猫が、ニャッとひと鳴きして降りてきた。成郎吉の相棒猫のクロ。
 浅草三間町さんげんちようの成郎吉の長屋にいたクロとシャモジを、お玉が預かっていた。
 成郎吉の長屋の隣には、め川田楽で働いていたおけいが住んでいた。井伊家の伊賀徒行には知られているはずで、いつ踏み込まれるかしれないからだ。
 シャモジの好物という鰹節かつおぶしのかかった淡雪豆腐あわゆきどうふを、お玉は置いた。
 ムシャムシャとシャモジが食べる。隣にもうひと皿を置くと、クロが顔を突っ込む。
 ちゃわんととくりには、いつもの猫まんま。
 四匹の猫が並んで食事をしている。そのなごむ姿を見ていると、心がほっこりしていく。
 ただ、喜んでもいられない。四匹のうちのメスの二匹、とくりとクロのお腹がいくぶんふくらんでいる。
 一月ほど前の同じ頃にはらんだらしい。あと一月もすれば、二匹とも目出度めでたくご出産の運びとなるだろう。しかも二匹とも初産ういざんなのだ。
 お玉はしげしげと、ご飯を食べるクロととくりを眺める。食欲が増している。
 とくりの腹の子の父親は、隣にいるシャモジだろう。今でこそ落ち着いたが、シャモジはずっとさかっていた。
 もしかしたら、シャモジに触発されたちゃわんの血も入っているかもしれない。メス猫は複数のオス猫と交尾して、同時に孕むことがある。猫目一族の猫の世話役から、お玉たち忍は、そんなことまで教わっていた。
 だが、クロの腹の子の父親は誰か?
 シャモジやちゃわんへの接し方を見ていると、二匹のどちらかとはとても思えない。クロが許す相手は、浅草の長屋近辺にいた猫でもない気がした。
 そのことを成郎吉に問うと、成郎吉はひどく動揺して「あ」と口をおおった。
 思い当たるオス猫がいるらしく、お玉が追及しても、なぜか成郎吉は口を閉ざした。
 クロを撫でていた時ふいに、成郎吉の心に浮かんだ猫が思い当たった。
 井伊家の上屋敷で、くノ一のおたかが抱いていたあの猫。ビロードの毛と緑色の眼を持つ美しい猫だ。
 成郎吉はあの屋敷で捕らえられ、一日牢にいたという。一緒に忍び込んだクロの行方は分からず、見つけてきたのは志乃だ。あの夜、クロはビロード猫と共にいたに違いない。
 それぞれの飯を食べ終わった四匹は毛繕けづくろいを始める。クロは自分の定位置の梁の上へ。
 お玉の腹がククとかすかに鳴った。
 香ばしい味噌みその焼ける匂いが、鼻をかすめていったからだ。
「できたぜ。待たせたな」
 と台所から、二つのぜんを持った八十吉が入ってきた。白い歯をお玉に見せて笑いかける。
「あ、うん、ありがとう」
 自分の頬がポッと赤くなるのが分かって、お玉は思わず目をそらす。
 八十吉は「イテ」と、傷がようやくふさがりかけた脇腹をかばいながら、膳をお玉の前に置いた。
「あ、ごめんなさい」
 とお玉は慌てて受け取る。
 膳には八十吉が看板料理としていた焼きたての木の芽田楽と、菜のおひたし、油揚げの味噌汁と、湯気をほわりと上げる白飯が載っていた。
 赤くなった頬は、熱々の田楽のせいだと言わんばかりに、お玉は頬張った。香ばしさをまとって、本当に舌も焼けそうな豆腐が、口の中でほろほろと砕けた。泣きそうになるほどに、当たり前でおいしい。
 そんなお玉を、八十吉は眼を細めて見ている。信じられない思いで、お玉はまた眼を伏せた。たくさんの町娘たちが憧れたであろう端正な男の顔が、自分だけに向けられているなんて。
 春のなったばかりの頃、お玉は成郎吉に頼まれて、め川田楽のシャモジの蚤取りをした。その時に八十吉から、この木の芽田楽と卵田楽を食べさせてもらった。
 あまりのおいしさに、お玉の舌はとろけてしまった。今思うと心も。
 その時には、八十吉が井伊家の忍で“木の葉”という江戸の潜入役とは、思いも寄らなかった。たかが田楽を、これほどに極める忍者がいるだろうか?
 八十吉は“木の葉”の役を放棄し、抜け忍となろうとしたという。板前として生きることに喜びを見出したからだ。姉と称して潜入していたお琴に、その思いを必死に説いた。そしてようやくお琴は納得して、八十吉についていくと言った。
 それは偽りだった。
 お琴は頭であるおたかと繋がっていた。八十吉と共に拉致されたが、すべて筋書きどおりだったのだ。今は彦根藩の屋敷のどこかに潜み、次の指令を待っているのだろう。
 抜け忍となった成郎吉は、みずから危険を冒しても八十吉を救おうとした。敵の忍者は殺す相手に過ぎないのに。
 八十吉が作ったこの田楽を改めて味わい、お玉も戸隠の忍の教えにそむいたのだ。
 そして、お玉とて激しく葛藤かつとうした。成郎吉と違ってお玉はずっと、情なんぞで動かされない忍であったから。
 なのに、脇腹に受けた傷で高熱を出し、苦しむ八十吉の看病をしていて、お玉はいつしか自ら“熱”を発してしまった。恋という熱だ。
 そしてある夜、忍のおきてを解いて、八十吉と情を通じてしまった。

 お玉も成郎吉も、十二歳くらいから猫目一族の忍として、性の技を覚えさせられた。男女の区別もなく、相手を陥落かんらくさせ、情報を引き出すための閨房けいぼうの術だ。
 お玉は忍の修行の中で、これを最も苦手としていた。いつまでもうまくならず、くノ一として失格の烙印らくいんを押されかけた。
 お玉の教育係は、木地師きじし与平よへい夫婦で、与平がお玉の最初の男だった。それから何人かの男と女に抱かれた(というよりも、そう仕向けた)のだが、それは常に任務としてだった。
 ちなみに双忍となる成郎吉とは、ただの一度も一線を越えていない。それが双忍の掟だからだ。
「よう、いい匂いがしてるな。俺にも食わせてくれ」
 という皮肉交じりの声がした。ひどくしわがれている。
 鴨居かもいに手をかけて、ひょいと現れたのは、その成郎吉だ。
 のどに白い膏薬こうやくを貼っている。
「どうしたの?」
 お玉は内心の動揺を悟られまいと尋ねた。
「あ、何でもねえよ、何でも」
 と成郎吉は喉に手を当てた。何か様子がおかしい。
 梁からニャッと声を上げて、クロが降りてきた。
 残りの三匹はそれぞれ涼しい場所で、毛繕いに余念がない。
「成郎吉さん、今焼くよ。座ってくれ」
 気まずい空気を吹き飛ばすように、八十吉は明るい声で立ち上がった。
「クロ、変わりないか? ねえちゃんたちにいじめられてねえか?」
 と成郎吉はクロを抱き寄せる。
 お玉は成郎吉の横顔を見つめた。
 ふっと、成郎吉に聞けば教えてくれるのだろうか? と思った。
 女と男の心の機微きび、生まれて初めて好いた男に、女はどう接すればいいのか?
 そう思った時、お玉の心が揺れた。風に柳の枝がそよぐほどに。
 幼い頃からずっと一緒だった成郎吉は、お玉にとって、一度も男ではなかったのだろうか?
「どうした?」
 お玉の視線に、成郎吉はクロから顔を上げて、人なつこいいつもの笑みを向けてきた。
(第40回へつづく)

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柏田 道夫Michio Kashiwada

1953年東京都生まれ。青山学院大学文学部日本文学科卒。脚本家、小説家、劇作家。95年、第2回歴史群像大賞、第34回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2010年、脚本を手掛けた映画『武士の家計簿』が大ヒットを記録する。近著に『しぐれ茶漬 武士の料理帖』 (光文社時代小説文庫)、『矢立屋新平太版木帳』 (徳間文庫)。

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