双葉社web文芸マガジン[カラフル]

碧と花電車の街 / 麻宮ゆり子・著

イラスト/河野真歩

(承前)

「すみません、お世話になります」
 頭を下げると、「いいのよ、ゆっくりしていってね。おやすみなさい」と久美ちゃんのお母さんがにっこりして襖を閉めた。
 富江さんに殴られたあと、高校へ行った。それからアルバイトにも行ったのだが、どうしても家に帰ることができなくなってしまった私は、久美ちゃんの家に泊めてもらうことにしたのだ。泊まることについては、久美ちゃんのお母さんが私の家に話しに行ってくれたらしい。
 三畳の部屋に二人分の布団を重ね敷きして久美ちゃんと入った。綿の詰まった布団は厚くてずっしりと重たい。足元には湯たんぽが入っていたので温かかった。
「こういうの久しぶり、修学旅行みたい」
「急にごめんね。ぜんそくは大丈夫なの?」
「うん。今は平気」
 すぐ隣にいる久美ちゃんは胸より上を布団から出して微笑んでいる。高校生になってから彼女は急に大人っぽくなった。ほどいた黒髪がうねるように艶を放ち、目尻やくちびるはぽってりとしたピンク色。胸も優しいまるみを帯びている。私は思わず、自分の平面に近い胸を見下ろしてしまった。
「なんだか最近、お母さんにも富江さんにも、いらいらして仕方がないんだ。自分のことがよくわかんないの」
「そっか。でもわかるよ……私もそうだもん」
「えッ、ほんと?」
 思わず久美ちゃんの方に向き直る。
「うちのお母さん、すっごく口うるさいから、いらいらする」
「久美ちゃんのお母さんが……? 優しそうだけど」
「あんなの外の人にだけ。内弁慶で家族にはうるさいんだよ。『私はあんたのことを思って言ってるの』ってよく言うんだけど、そんなの嘘。自分がいらいらして八つ当たりしてるだけだって、わかるもん」
 私は久美ちゃんの辛辣しんらつな「お母さん評」に驚いて、ぽかんとしながら聞いていた。
「そこに私の反抗期が重なって、毎日家のなかが戦争みたい。だから今日は碧ちゃんが泊まりにきてくれて、ほっとした」
「反抗期……。私もそうなのかな?」
「そうじゃない? そういう時期でしょ、私たち。碧ちゃんのお母さんは、うちのお母さんみたいにガミガミ言わないから、偉いと思うよ」
「ううん。なんにも言わないから逆にむかむかするの、私の場合」
「私からしたら、頭ごなしにあれこれ言われるほうが嫌だけどなあ。うちはお母さんがうるさくて、私も負けじと言い返して、それで最後にずっと黙ってたお父さんが、なにかひとこと言って場が収まるって感じかな」
「ふうん」
「碧ちゃんのお母さんは外で働いてるから、どっちかといえばうちのお父さんに近いのかも。あとね、ガミガミ言うのは性格もあるけど、文句言っても許してもらえるっていう甘えもあるんだと思う。だってさ」
 久美ちゃんは顔を近づけて声をひそめた。
「うちの向かいのお店のご主人なんて、お酒を飲んで奥さんに仕事の愚痴ばっかり言って、たまに暴力も振るってたみたいなんだけど……、なんせその奥さんがすごくおとなしい人だから高をくくってたみたい。でも結局ね、その奥さん、子供を連れて黙って出て行っちゃったの」
「えッ」
「今のは極端な話だけどさ、文句ばっかり言われて、甘えられる方も大変なんだって。碧ちゃんのお母さんはもしかしたら、仕事の愚痴や文句を聞かせたら碧ちゃんがかわいそうだってわかってて、あえて言わないんじゃないかな」
 確かに、私は小さい頃から仕事の愚痴を聞かされたことがない。それなら武藤先生の「お妾さんの誘い」についても口にしないだけで、お母さんなりに考えていることがあるのだろうか……。それでも、少しは私に相談くらいしてくれたっていいのに、と不満に思ってしまう。おまえにはまだ早いと、子供扱いされている気がしてしまう。
 久美ちゃんが私の眉間に二本の指をあてると、横に広げた。
「あ、ごめん。力入ってた?」と、ひたいをゆるめる。
「ねえ、高校を出たあとの夢は今も映画監督なの?」
 うんと頷くと、久美ちゃんが天井を仰いだ。
「そうかー、日本初の女監督だ。すごい」
「久美ちゃんは女優さんでしょ?」
 高校で彼女は演劇部に入っていた。背も高く、舞台映えのするはっきりした目鼻立ちをしているので、主役に抜擢されたこともあるのだ。
「女優なんて、まさか」
 久美ちゃんが笑った。私は上半身を起こす。「なんで? やめちゃうの? 発声だってきれいだし、もったいないよ」
「そう言われるのは嬉しいけど、続けていこうとは思わない。むしろ碧ちゃんみたいに、はっきりやりたいことがあるほうがすごいと思う」
「そうかな?」
「そうだよ。碧ちゃんのお母さんはじっと黙って働いて、がんばりやだもん。あんな女の人、普通いないよ。お母さんの影響を受けてるんじゃない?」
「別に受けてなんかない。お母さんのことは言わないで」
 また苛立つ気持ちが蘇ってきた。横になって背を向けると、久美ちゃんが後ろから「ごめん」とおどけたように言って、頭上の電気を消した。
 窓の外では風が、口笛に似た淋しい音を立てている。
「あのね」と久美ちゃんが囁いた。「私、今好きな人がいるの」
「えッ。――誰?」
 また久美ちゃんの方を見た。けれど見えるのは、闇に溶けるような彼女の後頭部の髪だけで、表情がわからない。
「同い年の人なの。ほら、台風で亡くなった私の親戚の子……いたでしょ」
「うん」
「その子の同級生。亡くなった親戚の子の思い出を、その人と話しているうちに、少しずつ仲良くなったの」
「……もしかして、ずっと付き合ってたの?」
 久美ちゃんの頭がこくりと頷いた。
「……ごめんね、言ってなくて。お母さんにはないしょだよ。高校を出たらたぶん、私、その人と結婚すると思う。それでこの家を出て行くの。それが私の夢。どう思う?」
「う、うん……」私は動揺する気持ちを押し隠しながら伝えた。「たぶん……悪くないと思う。変な男の人じゃなければ。だけど、結婚する前に一度会わせてね」
「うん、わかった。今日は碧ちゃんに話せてよかった」
 しばらくして、久美ちゃんの安堵したような寝息が聞こえてきた。
 彼女も私の知らないうちに、知らない場所へ旅立とうとしている。
 そう思うと、嬉しさよりも裏切られたような淋しさの方が勝るのだけど、そこはぐっとがまんした。だって友達だから……。

 久美ちゃんの家から高校へ行った晩、アルバイト先でまかないを食べながら一平さんに聞いた。
「最近、平野さんってお店にきますか?」
「あれ? そういえば昼もこないなあ。時刻表をもらってから全然だわ。忙しいんかな?」
 一平さんは、平野さんがくれた壁に貼ってある時刻表を見た。
 仕事を終えても家に帰る気が起こらないし、いったいどんな顔をして帰ったらいいのか、わからない。仕方がないので店を出たあと、私は、平野さんのアパートの前の空き地へ行ってみることにした。
 子猫が死んでいた場所に、店から失敬したお出汁用の花かつおを供えて、手を合わせた。
 振り返ると、平野さんはいない。暗闇にオンボロのアパートが建っているだけだ。
 ――平野さんが犯人だなんて、そんなこと、あるわけがない。
 自家用車のあふれる道路で、彼がいかに気を遣って運転しているか、私はよく知っている。突然飛び出してきた子供を轢きそうになったときは、慌ててブレーキを引き、それから車内のお客さんに頭を下げていた。切符を受け取るとき、お金を忘れた子に「今日はいいよ」とこっそり伝えていたことだって知っている。お年寄りが乗っていると、車内を映すミラーをさりげなく気にしながらハンドルをにぎっていることだってあった。
 野球帽をかぶっている人なんて、大須にはいくらでもいる。私だって夜の映画館へ行くときにかぶっているくらいだし……。
 肩の力を抜いてアパートの階段の下まで行った。
 すると、どこからか、かすかに子猫の声が聞こえてきた。初夏に産まれた子猫は秋頃になると活発に歩きだす。そして親猫から捨てられることも多いのがこの季節だった。あたりをうかがってみたが、子猫の気配はない。
 一瞬、猫の幽霊かと怖気立った……。
 しかし、どうやらその声は、見上げるアパートの壁の奥から聞こえてくるようだった。
 まさか……と思いながら足音を忍ばせ、階段を上がり、平野さんの部屋の前に立つと、磨りガラスの窓をおおうカーテンの隙間から、わずかに灯りが洩れている。
 また、静けさのなかに子猫の声が混じった――。
 私は、自分でも驚くほど躊躇せずに、目前のドアをノックしていた。
 けれど何度叩いても反応がない。
「平野さん、私――碧です」
 はっきりそう言うと、鈍い音を立てながらドアが細く開いた。なにか思い詰めているような、卑屈そうな目がのぞく。
 風呂に入らずに寝ようとしていたのか、髪がぼさぼさな平野さんからは、たばこを煮詰めたような匂いがした。慌てて灰色のシャツをズボンに押し込んでいる。
「驚いた、誰かと思って……。どうしたの?」
「突然すみません。市電の将来のことをお話ししたいと思って……。あの、なかに入れてもらえませんか」
「もう遅いし、ちょっと……。今日までずっと休みが取れなくて疲れてるんだ。ごめんね」
 平野さんはいつもより腰を曲げているから、目線は私と同じくらいの位置にある。彼はしきりに背後を気にしているようだった。
「腰……、どうかしたんですか」
「ああ。ずっと立ちっぱなしで運転してるから、痛くってさ」
 そう言って少しだけ背筋を伸ばす。
 みゃあみゃあー、と部屋の奥からかすかに声がした。
 子猫だ――。
 私はドアの縁に両手の指を差し込むと「入れてください!」と、力ずくでこじ開けようとした。「だめだって」と平野さんが抵抗する。「なんでですかッ」と無理を通そうとすると、平野さんが断言した。
「きみは年頃の女の子だろう。こんな時間に部屋に入れて、もし周りから変な誤解を受けたら、僕はきみの将来を汚すことになる」
「え」
 自分でもわかるほど頬が熱くなった。思わず手を引っ込める。
 その隙を狙うように、ぱたんとドアが閉まった。
 
 平野さんが子犬と子猫を殺した犯人だったら、どうしよう……。
 彼は確かに山高さんが下駄をぶちあてた、腰のあたりをかばっていたような気がする。
 でも、違うかもしれないし……。
 それらの思いつきに、「きみは女の子だろう」という言葉がふんわりとかぶさってくる。
 胸が苦しい。疑いの数々を、一つひとつ必死に打ち消しながら歩いた。
 家に着くと、布団に横になっていたお母さんに、
「今は話したくない」
 とだけ一方的に伝え、自分の布団を台所の部屋へ移動させた。それから私は掛け布団をめくり、頭からすっぽりとかぶってしまった。
 襖が開く音がして、その向こうに立っているらしいお母さんが言った。
「それなら私も黙ってるわ。ただ、朝の洗濯もののことは、富江さんに謝っておきなさいね」
「……」
「碧、返事は?」
 口を閉じたまま、寝返りを打つ。
「わかった。あなたがそういう態度なら、私にだって考えがあります。――今にみていなさいよ」
 はッとして、布団から顔を出したときには、もう襖は閉まっていた。
 今にみていなさいよ、なんて……突き放すようなことをお母さんから言われたのは初めてだった。そわそわとした動揺が走る。
 だけど今はそれどころではないのだ。布団のなかで私は無理に頭を切り替えた。
 あなたの家に子猫がいることを知っている、と、私は平野さんに訴えたつもりだった。だから彼は――考えたくないことだが、もしも子猫を殺した犯人なのであれば――今晩は、子猫をあやめることはしないような気がした。そうあってほしかった。
 亡くなった子猫のうつろな目と、石のように固く、冷たくなった身体を土に横たえたときの手触りを思い出しながら、両手で自分の顔をおおった。
 その手を私は強く握りしめる。
 やっぱり……犯人が平野さんであっても、誰でもあっても、生まれたばかりの子猫を殺すなんて許せない。

 翌日の高校の帰り道、ちょうちん看板の下をくぐったところで、向こうからやってきた小学生の男子が、私の隣を歩いていた男の子に息を切らしながら伝えた。
「なんかの犯人が捕まったって。警察がきて、浪越なみこし公園に人が集まってるぞ!」
「うわ、ほんとか」
「ほんなもんで怪人もいる!」
 並んで走り出した男子二人の横を、私はあっという間に全力疾走で追い越した。
 あの女速ェー、という少年たちの声が風のように後ろへ遠ざかっていく。
 鞄を抱え、人だかりを避けながら走り続けると、急発進したせいか、心臓のポンプが爆発しそうだった。自分の荒い息使い以外は、たちまち、なにも聞こえなくなる。
 たくさんの店の前を通り、いくつもの路地を駆け抜けて、浪越公園の近くまで行くと、すでに膨れ上がるような人だかりができていた。世間ではテレビが普及し始めたとはいえ、大須の住人で家にテレビがある人など、まだ少ないはずだ。そんな彼らにとって突然立ち会った事件の野次馬見物は、格好のなぐさめであるにちがいない。
「猫と犬に毒を食わせて殺したらしいんだわあ」
「子供が殺されたんだにゃあか?」
「猿と子供とったんだに」
「どえりゃあことやらかしたらしいんだわ」
 口ぐちにのぼる話題は錯綜しているようだった。すみません、ごめんなさいと言いながら人ごみをかき分けて進むと、交番のおまわりさんと、地面に膝をついてがっくりと首を落とす手足の長い若い男の後ろ姿が見えた。――平野さんが昨晩着ていたのと同じ、灰色のシャツを着ている。
「やめて――――――ッ!」
 大人たちがいっせいに私の方を振り返った。さっと道が開く。平野さんのすぐ後ろまで手を伸ばし、求めるように駆け寄ると、切に願うように、彼の少し後ろで膝を折った。
「やめてください! お願いします。きっとなにか理由があるんです! 将来も有望な人で、普段は仕事にも一所懸命なんです。だから、余計に、思い詰めて……こんな……ことを……」
 もう、息と声が続かなかった。胸を押さえてあえいでいると、ふらりと目の奥が一瞬白くなった。
 それから……、わずかに振り返った男の人と目が合って、ぎょっとした。
 青い顔をした男の人は――平野さんではなかった。
 ぎょろりと目を見開き、恐れるような視線を私によこす。
 けれど、確かに、どこかで……見覚えのある顔だった。
「スクープだ! うら若き少女が若い男の将来を憂えて心からの嘆願! これだッ」
 叫んだ男は、私と犯人の男にカメラを向けると、何度もフラッシュを焚いた。強い光の向こうにいるカメラマンは「名クロ」の腕章を巻いている。だがその人は、神谷さんではない。
「なんだ、きみは犯人の関係者か。それなら話を聞かせてくれないか」
 警察官が私に尋ねてくる。犯人と呼ばれた男は手首を縛られ、臆病そうな目で私を見上げていた。
 ――神谷さんは? それに山高さんは……? 
 必死に見回したが、私たちを見下ろす人々のなかに、知っている顔がいない。
「留吉ッ」と鋭い声がどよめきを切り裂いた。
 バスローブを羽織った紅玉さんが呆然とした姿で立っている。興業中に慌ててやってきたのか、両手にサンダルを持った足もとははだしで……爪に色を塗った商売道具のきれいな足が泥だらけだった。そしてふと、男の後ろにいた私を認めると、ぎょっと息をのんでいる。
 ――留吉?
 あッ、と思い意表を突かれた。
「大奥」の裏口から顔を出していた、若手芸人の留吉さんだ。私が出前をしたきしめんを、紅玉さんからご馳走してもらっていた……見習い芸人の留吉さんだ。
「とにかく二人ともくるんだ」
 最初に話しかけてきたのとは違う警察官に、ぐいと腕をつかまれる。すると、また別の声があがった。
「この子は関係ありませんよ、放してあげてください!」
 平野さんだった。
 彼の後ろには……怯えた表情を浮かべた、かわいらしい女の人が立っている。彼女は平野さんの背中に隠れるようにして、手には小さな籠を抱えていた。赤いリボンの結ばれた籠のなかからは、甲高い子猫の声がする。
 不安そうな彼女に、「サチコさんは向こうで、この猫といっしょに待ってて」と平野さんが言った。それは初めて私が平野さんから聞くような、勇気にあふれた、優しい声だった。
 ――もしかしたら、この女の人に子猫をプレゼントするために、平野さんは空き地で捨て猫を探していただけなのかもしれない。それで、平野さんは拾った子猫を、アパートの大家さんに見つからないように隠していただけなのかも……。
 そんなことをやんわり悟ったあと、紅玉さんを目で追った。
 力のゆるんだ警察の手を振りほどき、私は紅玉さんの前まで歩いて行く。
「紅玉さん……、あの、ごめんなさい」
 しかしなにも言わずに私の横を素通りしていった紅玉さんは、留吉さんの前まで行くと、彼の両肩をつかみ、顔を寄せながらその肩を激しくゆさぶった。
「なにやってんだ留吉ッ! あたしはあんたに期待してたんだ……。それなのに……それなのにさあ……」
 悔しそうに涙を落とす紅玉さんの向かいで、留吉さんは少しうつむいている。その顔には羞恥まじりの、迷惑そうな色さえ浮かんでいた。
 ぽつぽつと雨が降ってきて、騒ぎに飽きた野次馬たちが少しずつ四方へ散り始めた。
 留吉さんを連れて行こうとした二人の警察官が、彼を両脇からしっかりと挟み込んだ。
「犬や猫ごときでなんなんだよこの騒ぎは。そんなもん、ほっといたらどうせ死ぬだろう。こんなことで俺の将来がつぶされてたまるかよ!」
 そう毒づきながら連行されていく留吉さんは、ひょこひょこと腰をかばうような歩き方をする。紅玉さんは留吉さんの背に手を添え、優しくいさめるようにしながら、警察官とともに行ってしまった。
 いつの間にかそばに立っていた平野さんが、困ったように話しかけてくる。
「あの……碧ちゃん。濡れるよ」
 その言葉に口を結んで何度か頷くと、私はとぼとぼと一人で歩いた。
 平野さんといっしょにいた、かわいらしい女の人は、彼がさっきまで着ていた上着を頭からかぶり、子猫の入った籠を両腕で抱えてひさしの下でたたずんでいる。
 私は顔を前に戻すと、はげしい雨でけぶる前方を見据えながら、一歩ずつ足を進めた。 
 仕事へ行かないと。お金を稼がないと。それでいつかこの街から出て行くんだ。
 そんな思いが重たい秋の雨とともに、私の頭に降ってきた。

(第14回につづく)

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麻宮 ゆり子Yuriko Mamiya

1976年埼玉県生まれ。2003年、小林ゆり名義で第19回太宰治賞受賞。
13年、第7回小説宝石新人賞を受賞し、翌年、受賞作を表題作にした『敬語で旅する四人の男』を刊行。16年『仏像ぐるりの人びと』を上梓した。

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