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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第5回 おすすめ酒①

日本酒は完全に「飲むべき酒」だけれど、ここからは「おすすめ酒」であります。
 どう違うかというと、単なる個人的思い入れの差なので気にしなくていいです。
 まずは日本酒と同じく身近な和酒、焼酎。焼酎のどこが良いかというと、蒸留酒なのに食中酒として飲めることだ。
 世界的に見ても蒸留酒は食前、食後酒として使われるのが一般的(いつもウォッカ飲んでるロシア人みたいなのは別として)だから、焼酎もまた稀な酒なのだ。これは水割りやお湯割りで飲むという伝統があるからこそで、日本酒と通じるところがある。
 そして、肉類や油っこいもの、甘いものと相性が良い。焼肉、ホルモン、串カツなど日本酒にはちょっと厳しい相手も、蒸留酒特有のキレでさらりと受け流す。ビールもいいが、若い時と違って胃の弾力が衰えたオジサンは、食事中ずっとそればかりだと腹が張ってしょうがない。焼酎をチビチビ飲む方が、いろんな意味で体に優しい。
 よく知られていることだが、焼酎には甲類と乙類がある。甲類はサトウキビの糖蜜やトウモロコシなどの穀物を発酵させ、それを連続式蒸留器で蒸留したもの。アルコール純度が高く無味でクセがないので、チューハイや果実酒を造る時に使われる。乙類は単式蒸留で、原材料のイモや米や麦などの風味が残り個性がある。「本格焼酎」と呼ばれるのは乙類だ。
 本格焼酎で最も多くの銘柄があるのはイモ焼酎だ。独特のクセのある匂いは好き嫌いが別れるが、「あー焼酎を飲んでるなあ」と、しみじみ思わせてくれる。もし、これを家で飲むのなら「前割り」がいい。あらかじめ焼酎と水を好みの割合で混ぜておき、数日寝かせておくというやつだ。一週間ほどがベストらしいが、二、三日でもだいぶ違う。割ってすぐ飲むよりも匂いがやわらかに、味がまろやかになる。これを徳利に入れて燗をするとワンランク上のお湯割りになる。
 さらにカンペキを求めるならば薩摩伝統の焼酎用の酒器、「黒じょか」を使いたい。黒じょかは土瓶を押しつぶしてドラ焼きのような形にした、黒色の銚子だ。元々、そのまま弱めの炭火にかけて酒を温めるものだが、すでに燗のついた酒を入れて、普通の銚子のように使ってもいい。コップで飲むより、ずっと優雅な気分で焼酎が味わえる。ちょっと手間をかけると、さらにウマくなるのが酒というものなのだ。黒じょかはネットで二、三千円くらいで手に入る。
 鹿児島のイモ焼酎に対して、熊本の米焼酎、大分の麦焼酎が有名だ。米はイモのような強いクセがないので飲みやすいが、コクがある。熊本の人吉は米で造る球磨焼酎のメッカで、ボクは二度、鹿児島・人吉コースの旅をした。つまりイモ焼酎と米焼酎の本場のハシゴだ。
 鹿児島で焼酎が店の壁を覆い尽くす居酒屋に入った時もたまげたが、人吉で昼にソバ屋に入った時もちょっと驚いた。ボクは車でも運転してない限りソバ屋では日本酒を飲むのだけれど、メニューにはビールと焼酎しかなかった。それは別にいい。本場なのだから。一杯飲んでソバ食おうと、まず焼酎のお湯割りを頼んだ。
 出てきたのは空の大きめのコップと、お湯の入った小型のポット。そして二合徳利に口まで入った焼酎。ええ~~!?
 何か間違えて注文したかとメニューを見直したが、そこには「焼酎 五百円」としか書いてない。ご……五百円でコレ………。どう見ても東京の居酒屋で出る焼酎の三杯分以上ある。こっちの人はどんな時でも、最低これ以上飲むということか………。
 しょうかないから飲んだ。でもこの後、電車に乗って少し離れた所にある鍾乳洞を見に行く予定なので、ゆっくりしてられない。急いで飲んだ。しかもこの時のボクは、湯上がりだった。ソバ屋の前に温泉の銭湯があり、昼から入れるというので、ひとっ風呂浴びてきたところだったのだ。火照った体にお湯割りの焼酎は回った。とてもよく回った。
 一時間後、登り下りのキツい鍾乳洞の中を、よろけながら歩くボクがいた。ボクはこの旅で、ある教訓を得た。それはこういう教訓だ。
「焼酎は、昼酒に向かない」


※次回の配信は4月25日の予定です。

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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