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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第21回 酒器を楽しむ⑥

古いガラス徳利は、磁器徳利と同じようにひと目でわかる特徴がある。こちらの場合はガラス本体の不完全さだ。
 明治になってようやく一般的になった日本のガラス製造は、大正、昭和初期にかけて発展途上だった。その未熟さ、拙さが、この時代だけの独特の味わいのあるガラス製品を生んだのだ。
 ガラスの徳利の製造法は大まかにいうと二種類。吹きガラスを型の中で行なう「型吹き」と、内側も外側も型を使った「型押し」だ。
 型吹きの徳利はガラスの厚みが場所によって違ってたり、シワやスジが入ったりして、ゆがみのあるものが多い。でも、戦前の建物の窓ガラスがゆがんでいてもそれが興趣となるように、徳利のそれもおもしろみとなる。
 さらに表面が微妙に波打っていたりして、今のクリスタルガラス製品のようなシャープで冷たい感じがしない。ガラスのくせにトロリとして温かみがあり、なでていても気持ちがいい。
 そして、その表面には磁器の徳利と同じように、たいてい絵付けがしてある。たぶん、焼物の絵付け職人がこっちもやっていたのだろう。エナメルなどの顔料で、鶴や花とかをササッと描いてある。地が透明なだけで、磁器の徳利とそっくりだが、たまに和風でない花とか模様を見かける時もある。西洋の絵やデザインを見ることも多くなって、職人もそれまでと違ったものを描きたくなったのかもしれない。そいつを試すには伝統的な焼物よりも、ガラスがやりやすかったのだろう。ヘンな徳利だが、これはこれで個性がある。
 絵付けのガラス徳利の弱点は、磁器と違って釉(うわぐすり)で覆われてないから、どんどん絵が剥げていくこと。日用雑器で人の扱いも荒い。絵が、描かれた当時のままに残っているというのはありえないので、良品に出会えるのは運しだいの古道具ではある。
 型押しのガラス徳利の方は、型吹きよりも複雑な成型ができる。だから、いろいろな外形や装飾模様のものが存在する。なんでこんな形なのか?どういうつもりでこんな模様つけてんだ?と考えてしまうようなヤツも時々ある。しかし、本体の形だけで個性があるので、絵付けとかしなくてすむ。つまり、作られた当時と変わらないものが手に入るのだ。
 型押しガラスはプレス製品なので、大量生産できて安い。だから、酒屋が白酒を売る時の入れものにしたり、得意先への景品に使ったりもした。そういう徳利は横腹にナントカ酒店とか書かれていて、それはそれで想像力をかき立てられておもしろい。
 商品や景品として使われるようなガラス徳利は常識的な形だけれど、それ以外ではよくわからないものがある。重心がやたら低くて口だけ長いものとか、まん丸いボール型とか、ミシュランのキャラクターのミシュランマンみたいなのとか、ひょうたん型で外側に大小のイボがビッシリ付いてるのとか。
 どうも、プレスガラスがおもしろくていろんなモン作っちゃった、としか思えない。今までにない徳利を生み出したかったんだろう。大正末期から昭和初期のモボとかモガとかいって浮かれてた時代の産物に違いない。
 まあ、とにかく今の時代のガラス徳利よりもずっと楽しいものであるのは確かだ。なにしろどの徳利にも気泡が入っている。気泡だらけで、普通酒を入れても発泡酒のように見えるヤツまである。もちろんわざとじゃなくて、技術が未熟だからで、ただのポンコツ酒器。
 でも、今のシンプルでオシャレなだけのガラス徳利にはない深ーい味わいがある。ヘコんでいたり、首が曲がったりしたヤツでも百年近く残っているのは、それがわかる人々が大事にとっておいたからだ。ポンコツにはポンコツの良さがある。
※次回の配信は3月10日の予定です。

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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