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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第19回 酒器を楽しむ④

たとえば唐津焼。昔から「備前の徳利、唐津のぐい呑み」が最高の組み合わせと言われているせいもあり、酒器に興味のある酒飲みには人気が高い。本当はこの言葉は古備前と古唐津、目ン玉が破裂するほど高価な骨董のことなんだけど、確かに唐津焼のぐい呑みは現代でも魅力的だ。
 陶器の中では薄手の作りで、釉薬もしっかりかかっているから口当たりも良い。厚めの磁器という感じ。口唇に違和感なく酒が飲めるし、味もよくわかる。さらに特筆すべきはそのバリエーションの豊富さ。白いのやら黒いのやら柿色のやら色の混じっているのやら。さらに釉と炎が作り出した複雑玄妙な………ああメンドくさい、とにかく素朴ながらその侘びた風情が味わい深い……てな感じです。
 さらに伊賀焼とか信楽焼とか志野焼とか織部焼とか、キャラの立ったヤツが目白押しなのが陶器のぐい呑み。ボクは基本的に、酒の味をシンプルに楽しみたい時は磁器の盃を、味ではなく気分を楽しみたい時は陶器のぐい呑みを使うことにしている。まあ、しばらくしたら酒も器もいろいろ出して、結局グチャグチャな飲み方になるのだけれど。

 盃とぐい呑みの次は徳利。
 徳利は磁器が良いか陶器が良いか。これは意見の別れる所ではあるまいか。普通に考えると陶器が優勢かと思われる。盃やぐい呑みと違い、いくら分厚くてもゴツくてもかまわない。いや、かえって重厚感がうれしい。手酌もヒョロい磁器の徳利だとわびしそうだが、ドッシリした陶器をわし掴みにして酒を注ぐのは余裕と大物感が漂う。「備前の徳利」だったらなおさらエラそーな気分になれる。
 しかし磁器の徳利も有利な所がある。それは「燗上手」ということ。元々「燗徳利」だったので当然だが、薄くて「石もの」の磁器は、分厚くて「土もの」の陶器より熱伝導が良く、すぐに燗がつく。陶器は燗をつけるには向いてない。備前など、高温焼き締めで透水性がないとはいえ釉薬がかかってないので、酒を入れてそのまま熱燗にしたりすると、どうしても微妙な匂いがつく(チロリなどで燗をして、それを入れるのならOK)。だいたい、ずんぐりした体型の陶器の徳利だったら、口の小さいヤカンや燗付け器(後述)に入らない。どこでも素早く燗ができ、すぐさま飲むことのできる磁器の徳利のフットワークの軽さは、ポイントが高い。
 ボクの場合、寝酒にちょいとやる時は磁器徳利、ゆっくりゆったり飲みたい時はチロリと陶器徳利。まあ、どっちにしろ酒を追加したり他の徳利出したりして、結局グズグズな飲み方になるのだけれど。
 徳利とぐい呑みの選び方は同じ。見た目以上に持った時の感触。いくら外見が気に入っていても、手で触っていてつまらなければ、すぐに飽きてしまう。逆に手がキモチ良く感じるものは、ずーっと長くつき合える。陶器は女……あっしょーもないこと言いそうになった、あぶないあぶない。
 とにもかくにも、相性の良いマイ・盃、マイ・ぐい呑み、そしてマイ・徳利を見つけることができれば、家飲みも味覚だけでなく視覚と触覚も楽しめる、つまり三倍気分が良くなるというわけです。いいかげんな計算だな。


※次回の配信は1月25日の予定です。

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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