双葉社web文芸マガジン[カラフル]

おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第18回 酒器を楽しむ③

盃にしろ、ぐい呑みにしろ、それが何でできているかでまた違う。一番よく使われているのは陶磁器だ。でも陶磁器は陶器と磁器の総称で、二つは別のものだ。
 陶器は陶土(粘土)が原料の、ちょっとゴツイ、素朴な感じの焼き物。ザラザラ、デコボコした地肌をそのまま出していたり、その上にいろんな色の釉薬がかかっていたりする。陶器は陶石が原料で、硬質で表面が滑らか。きれいな白色で、その上に絵付けをしてあるものが多い。爪ではじくと、キン、と金属音がする。白くて薄い焼き物は概ね磁器。原料の違いから陶芸の世界ではそれぞれを「土もの」、「石もの」と呼んでいる。
 世間一般では盃は磁器のものが多い。洗いやすくて、手入れが簡単。店や日常使いにはとても勝手がいい。しかし磁器の良さはそれだけではない。硬度が高いので厚みを薄くできるのだ。口縁が薄いと純粋に酒の味そのものを味わえる。器が唇に当たる感触が酒の邪魔をするということがないからだ。酒が口中にスッと入り、スッと切れる。ガラスのごとき薄さと滑らかさ、清さは磁器ならではだ。
 さらに、磁器は自在に絵付けができるので、その多種多様な絵や文様が眼を楽しませてくれる。盃の内側に描かれていれば、酒を通して浮かび上がる花鳥風月などを眺めながらひと口、またひと口。外側ならば、酒を飲み干した後にひょいと指をひねって盃を傾け、味のある絵や文様をしばし見つめて、ふふと微笑み、そして指を返してまた酒を注ぐ。そんな「おとな」な酒の楽しみ方は、無色透明の冷酒グラスではできない。磁器の盃は機能性と風趣を兼ね備えた酒器だ。
 趣きといったら陶器の方も負けていない。いや、勝るところがある。なんといってもその質感。石を砕いたものからできる磁器と比べ、「土もの」の陶器はもったりとしていて暖か味がある。そして土の種類によって風合いも変わるし、釉薬も多彩。その土と釉が炎によってさらにさまざまに変化する。磁器のような繊細、高度な絵付けはできないが、人の技と自然の力が融合された陶器は、器そのものの存在感がすばらしい。もちろん大量生産品のことじゃないですよ。
 でも、陶器の良さをより味わえるのは、盃よりもぐい呑み型だろう。陶器の酒器はその素朴で味のある外見と共に、触感が魅力であるためだ。土の感じがそのまま出た地肌や、ボッテリと立体的な釉薬部分、微妙にゆがんだ形などの手触りを楽しみながら酒を飲むには手の平で包みこめるぐい呑みが一番だ。
 ちなみにボクの持っている陶器のぐい呑みで最たるお気に入りは備前焼。ゴツくて重く、表面がザラついているけど、手の中に握りこむと抜群の安定感と野性的な触り心地。場所によって少しずつ違うザラつきを指の腹でさすっていると、いつまでたっても飽きることがない。酒の味も焼締め(釉薬をかけずに高温で焼いた陶器)の風味とモッチリした口縁の感触により、ちょっと変わっておもしろい。ボクはハズレな酒は熱燗にしてこのぐい呑みで飲む。ぐい呑みの個性と存在感で、酒が飲みやすくなるのだ。視覚と触覚で楽しむ陶器のぐい呑みは、磁器のものよりバラエティに富み、個性的なものがたくさんある。

※次回の配信は1月10日の予定です。

バックナンバー

山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

  • 双葉社
  • 小説推理
pagetop