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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第14回 おすすめ酒 洋酒編⑦

蒸留酒で、「スピリッツ」と呼ばれるものがある。本来、醸造酒を蒸留してできた酒は全てスピリッツなのだが、日本では酒税法の関係もあってウイスキーやブランデーや焼酎は除外され、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラなどのことを指す。
 ボクも若かりし頃はジンやウォッカにはよく世話になった。労働者の酒なので安くてすぐ酔える。安ウイスキーのようなエグさがなく、シンプルでドライ。そのままでも飲みやすい。
 ジンはあのジュニパーベリー独特の香り(よく松ヤニの匂いといわれていたが、松ヤニがどんな匂いなのか未だに知らない)がクセになる。シンプル過ぎるウォッカは冷蔵庫でキンキンに冷やしておき、飲む時にライムジュースで香りづけした。
 マンガ家になりたての頃、徹夜の時はこれらのロックを飲みながら仕事をしていた。若い時はアルコールが入るとかえって眼が冴え、眠気覚ましになったのだ。三十過ぎたら、もうそんなマネはできなくなったけど。
 今だとスピリッツで好きなのはラムだ。ラムはヘミングウェイが愛飲したダイキリやモヒートなどのカクテルのベースとして知られているが、単体としてはジンやウォッカと比べるとマイナー感は否めない。
 カリブ生まれで原料がサトウキビということもあり、ボクも長いことラムは南の島の酒、ビーチリゾートあたりで飲む酒、というイメージをもっていた。街場のバーでもカクテル用に一、二種類置いてあるだけだった。だからノドが渇いた時にソーダ割りかモヒートを飲む程度のつきあいだった。
 しかし、実はこの酒はもっと深ーい酒だったのだ。ラムはマイナーどころか世界中のさまざまな地域で造られており、その銘柄の数はジンやウォッカの比ではない。なんと四万を超える(ラム専門バーの主人談)という、スピリッツ界の王者なのだった。
 ラムはカクテルによく使われる透明なホワイトラムの他に、薄い褐色のゴールドラム、濃い褐色のダークラムがある。基本的に色のついているものは、ウイスキーやブランデーのように樽熟成されたもので、ラム特有の甘い香りが強く複雑な風味とコクがある。
 さらにラムは地域によって、造り手によって、製法が違ったりするので、とにかくバラエティが豊かだ。すっきりドライなライトタイプから香りも風味も濃厚なヘビータイプまで、実に多種多様なものが存在する。ストレートやロックで、それぞれの個性を味わうのは楽しい。ラム専門のバーも増えてきて、ファンも多くなっているようだ。新しもの好きの日本人だから、これからラムは流行るかもしれない。混んでいるバーが嫌いなボクはちょっと心配している。


 蒸留酒のことばかり書いたが、洋酒の代表といったらビールとワインだろう。でも、どちらもメジャー過ぎる。その歴史だって数千年単位だし。
 ビールはもう、何でも好きなもんを飲めばいいんです。冷たいヤツをゴキュゴキュ飲んでプハーッてやって「あーウマッ」っていえれば幸せ。これはビールのうちでもラガービールってヤツですね。
 すぐに腹が膨れる、大量には飲めないという人には、深い風味をゆっくり味わいながら飲むのが似合うエールビールがある。イギリス人がパブで、ずーっと大きなグラスを持ってチビリチビリやってるヤツとかがそれだ。醸造法の違いだけど、めんどくさいから省く。エールビールの代表はベルギーのビール。さわやかでとても飲みやすいものから濃厚なヤツまで、さまざまなビールがある。
 ビールも世界中で造られているので、いろいろ試せばいい。他の酒と違って気軽に飲めるし。日本のクラフトビール(地ビール)も、レベルが上がっておいしい酒がいっぱいある。
 さて、ワインだけど、ワインのことはよくわかんない。ワインを好きか嫌いかと問われれば、そりゃ好きです。和食をめぐっては日本酒の敵だけど、洋食はワインがなければ始まらない。でも、あまりにも深過ぎる。ワインの話はお金持ちのワイン通にまかせて、ボクとワインとの関わりだけちょっと書いときます。
 ボクとワインの初めての出会いは新幹線の中。中三の修学旅行で京都に向かう途中、ボクたちのクラスのいる号車のドアが開き、入ってきた奴がいた。小学校の時に同じクラスだったIだ。Iは社内をキョロキョロ見渡していたが、窓際に座っていたボクを見つけるとヅカヅカこっちに歩いてきた。そして隣に座ってボクの級友を「おう、どけ」と言って追っぱらい、ボクの顔の前に水筒を突き出した。昔よくあったアルマイト製のふっくらした水筒だ。
「ワインだ、飲め」

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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