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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第13回 おすすめ酒 洋酒編⑥

スコッチのシングルモルトは、さまざまなタイプがあっておもしろい。おもしろいが、誰にでもすすめられるものではない。
 日本ではウイスキーといえば水割りか、ソーダ割りのハイボールにして飲むのが一般的だ。シングルモルトはそういう飲み方に向かない。ストレートで飲んでこそ、その強烈なクセや味の深みが楽しめるのだが、日本人の多くはキツい酒をそのまま飲むのは体質的なこともあって苦手だ。だいたい酒が強くても、あの風味を受容できなければ全然楽しくないだろう。マッカランのようなクセの少ない、キレイな味のものだけ飲むというのならまた話は別だが、それではあまりおもしろくない。
 一方、水割りやソーダ割りにも合うのがブレンデッドのスコッチだ。種類も豊富で、何よりお手頃。昔、ボクのバイト先の店が揃えていたような銘柄が、一本千円台で買える。あの頃のあこがれのウイスキーが、今では安酒扱いだ。でもスコッチはスコッチ。本場物には違いない。
 だいたい日本では、ブレンデッドよりもシングルモルトを飲む方が「通」でカッコイイ、みたいな風潮があるが、ブレンデッドこそスコッチの主流であり、王道なのだ。ヨーロッパの外れの島国のクセの強いローカルな酒が、現在のように世界中で愛飲されるまでに発展したのは、バランスが良く洗練されたブレンデッド・ウイスキーがあったればこそである。
 一本千円台のブレンデッド・スコッチは、家飲みにはうってつけ。いつも同じ国産ウイスキーのハイボール、では芸がない。本場のいろいろな銘柄を次から次へ試してみて、味や香りの違いを楽しむのも一興だ。気に入ったものがあったら、同じ銘柄のもっと上のランクのものを飲んでみるのもいい。熟成年数やブレンドする原酒の種類や量が違えば、もっと複雑で深い味になる。
 国産ウイスキーは、近年の海外有名コンテストでの相次ぐ受賞と「マッサン」の影響で大人気。スコッチでもシングルモルトはマニアっぽい人間を中心に安定した地位を築いている。どうもスコッチのブレンデッドだけが蚊帳の外に置かれているようだ。しかし、これが全てのウイスキーの基本。安価で気軽に飲める今こそ、もっと飲まれていいと思う。

 ウイスキー以外の蒸留酒でもウマくておもしろいものはいろいろある。ボクが気に入っているヤツでは、まずは「ブランデー」。
 ブランデーは盲点の酒だ。これで連想するのは、高級クラブでネエちゃんはべらしてイヤらしい余裕の笑みを浮かべるオヤジ。趣味の悪い絵のかかった応接間や居間のもう一つの飾り。趣味の悪いネクタイをして、デカい顔で気どっている裕次郎。金魚鉢みたいなグラスを持って眉間にシワを寄せる裕次郎。
 この、スコッチにも勝る昔の庶民のあこがれだった酒には、しょーもないイメージしかない。でもね、飲んでみるとなかなかイケるんですよコイツが。原料がブドウなので、ウイスキーよりも飲みやすい。それに何といってもその芳醇な香り。ブランデーの魅力は香りにある。だから、クイクイといかずに、香りを楽しみながらゆっくりと飲む。ストレートが苦手な人でもマイペースでやれるのだ。
 暗いバーで、もしくは自宅の部屋を暗くして、ブランデーグラスから立ち上るふくよかな芳香を嗅ぎながらチビリチビリやると、他の酒を飲んでいる時とは違う、ちょっと優雅な気分になれる。このブランデーもいろいろ銘柄があって、本当に良いものは実に蠱惑的な香りと味がする。バーに行く時があれば、一度試しに何か飲んでみるといい。食わず嫌いだったことに気付くかもしれない。
 一般的にブランデーといえば、ブドウが原料のものを思い浮かべるが、果実原料の蒸留酒はみなブランデーだ。その中にアップル・ブランデーがある。有名な「カルヴァドス」もそれだ。リンゴ(一部、洋梨が使われるものも)から作られたカルヴァドスは、甘く華やかな香りとまろやか且つ深みのある味。ブドウ原料のものより一般ウケするブランデーだ。ウイスキーのストレートや普通のブランデーがダメな人でも、これが好きな人は多い。女性にもおすすめの蒸留酒だ。
 もちろんこれもピンキリで、熟成年数が長いものの方がよりまろやかで芳醇。若いカルヴァドスはキツい感じがするが、それがキリッとして良いという人も。カクテルに使ってもいい。まだまだ種類を置いている店は少ないけれど、愛飲家が増えている酒だ。
※次回の配信は10月10日の予定です。

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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