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おとな酒 第二部 / 山科けいすけ・著

第1回 飲むべき酒①

酒は嗜好品で趣味の飲料。なので当然、自分の好みのモノを飲めばよいわけで、どんな肴でも酎ハイ、どんな時でもビールだけ、というような人もいる。それを他人がどうこういうのは大きなお世話である。
 しかし、しかしである。「酒を楽しむ」という観点からすれば、そういう飲み方はとてももったいないと思うのである。
 肴や場所や気候が、そのときどきで違うように、酒もその場に合ったいろいろなモノを飲んだ方がより楽しいと思うのである。
 酸いも甘いも噛みわけた、それなりの年配の人が、「俺はコレしか飲まない。それが俺の酒の楽しみ方だ」というのはシブいが、「酔えりゃあいいんで、飲みやすくて慣れたモノを飲む」などとぬかすオヤジはいけない。そんなのはオンナコドモ(単なる言い回しで、女性を軽んじているわけではございません)の飲み方だ。酒を、酔うための道具としか見ていない。かくいうボクも二十代半ばまではそうだった。だけど様々な経験を重ねて、おとなの酒の楽しみ方を知ったのだ。
 そもそも「おとな」の飲むべき酒とは何か?毒々しい色をした、甘くて酸っぱいナントカサワーでは断じてない。ボクが考える「おとな」な酒はいくつかあるが、それぞれ重要度が違う。重要度の高い順にあげてみようと思う。
 まず断トツに重要な酒。というか必須の酒。それはもちろん日本酒である。誰が何といおうと日本酒である。日本人が日本酒飲まんでどーすんだ!という単純な保守的意見ではない。日本には和食があるから日本酒なのだ。
 和食といえばショウユ、ミソ、そして出汁(だし)。巷の呑み屋の酒の肴に、この味つけは欠かせない。そしてこれらにベストマッチするのが日本酒である。そりゃあ同じ土壌と文化の中で育まれてきたのだから当然だ。
 さらに和食の主役、魚。その語源が肴であるというほどのメイン肴。日本酒は、この魚の持つ生臭さを消し、うま味をいっそう引き立ててくれる。魚との相性がこれほど良い酒は世界でも類を見ない。
 なのに日本酒の消費量はビールはもちろん、焼酎や日本酒以外の醸造酒(ワインなど)、リキュール類(酎ハイなど)よりも低い。どーなってるんだ日本人!
 別にいいんだよ、ビール飲もうが焼酎飲もうが何飲もうが。ただ、もっと日本酒を飲むべきだといいたい。酎ハイ飲みながら刺身を食べるとか、ワインで寿司とかを見ると、ボクはゲンナリする。酎ハイなら合うのは肉系ではないか。焼鳥やモツ焼きではないか。ワインだって一部のものは一部の寿司に合うかもしれんが、もっと完璧に合う日本酒というものがあるのに、なぜそれを飲むのか。ワイン飲みながら寿司食いたかったら、パリやニューヨークの寿司屋に行け!セレブってんじゃねーぞこのやろう!!
 いや、最後は感情が高ぶって本筋からずれてしまったが、何をいいたかったかというと、和の食には和の酒を、それが「おとな」の美しい飲み方だということです。
 じゃあ焼酎はどうなんだ?あれも和の酒だろう、といわれるとちょっと困る。
 確かに九州、沖縄の焼酎(泡盛)文化圏では、日本酒より焼酎が一般的だ。鹿児島の居酒屋に何軒か入ったことがあるが、日本酒はほとんど置いてなかった。ボクも焼酎しか飲まずに料理を食べた。うまかった。酒と料理が調和していた。
 しかし、これは料理の素材や味つけのせいでもある。つけあげ(さつまあげ)、とんこつ(豚の骨付き肉のみそ煮込)、がね天(サツマイモの千切りを揚げたもの)、魚の煮付けも甘味が濃い。だいたい醤油自体が砂糖が添加された甘くて濃厚なもので、本州とは違う。九州の他県の醤油も、鹿児島ほどではないが甘い。焼酎文化圏は、料理の味つけもまた少し違うのだ。
 だから焼酎が全ての和食に合うかというと、疑問符をつけざるを得ない。少なくとも京風の料理や寿司には、あまり合わないと思う。でも、焼酎には焼酎のよさがある。それは後述するが、誇るべき和酒であることはまちがいない。

※次回の配信は2月25日の予定です。

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山科けいすけKeisuke Yamashina

漫画家。1957年東京都生まれ。
1983年、「週刊ヤングジャンプ」にてデビュー。
1994年、『C級さらりーまん講座』で第40回文藝春秋漫画賞受賞。
2011年、『C級さらりーまん講座』『パパはなんだかわからない』などサラリーマンを描いた一連の作品で第15回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。

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