双葉社web文芸マガジン[カラフル]

FP(ファイナンシャル・プランナー)住職の丸もうけ人生相談(高橋 泰源)

第4回

 こんにちは。好きなロックバンドは頭脳警察、FP住職の泰源と申します。

 ではさっそく、今回も衆生の皆さまからいただいたご相談にお答えしていきます。

9.妻に先立たれて15年、久しぶりに好きな女性ができました。10歳年下です。再婚を考えているのですが、兄と義妹と息子と娘と孫に反対されています。遺産の取り分が減ることを気にしているようにも思えますが、どうしたらいいでしょうか。(70代・男性)

 なかなかアクティブな人生をお過ごしとお見受けします。たいへん結構です。仏教では不邪淫ふじゃいんといって、よこしまな性関係を持つことを禁じておりますが、今回のご相談者さんは(たぶん)独身でおられますし、「ドン・ファン」というニックネームを持っているわけでもなく、先方の女性と気持ちが通い合っているのであれば、再婚されることに仏教的な問題はありません。
 念のため繰り返しますが、先方のお気持ちは確認済なのですよね?

・食事はごちそうになるが、介護はご免こうむりたい
・外で会うのはいいが、同居はきつい
・実は財産目当てである

 先方がこういった本音を隠しているようでなければ、前向きに話を進めてもよろしいかと思います。
「あなたは私の介護をすることを希望しますか?」
「あなたは財産目当てですか?」
 などと英作文みたいな文章で直接聞くわけにもいきませんので、そこは長年生きてきた中で培った会話のノウハウで、うまいこと本心を聞き出すか、本性を見抜いてください。
「うちは両親とも最後認知症だったから、俺もそのうちそうなるかもな」
「死んだ親父の借金が結構あってさ、最近やっと返す目途が立ってきたところだ」
 とかなんとか。

 一応そこはクリアできた(=先方に邪心がないことが確認できた)として、話を進めます。

1/2か1/4かの純粋な勘定

 お兄さんたちが反対しているのは、具体的にはおそらく以下のいずれか、もしくは両方の要因であろうと思います。

1)高齢になってあなたが新たな配偶者を持ち、周囲にとっても新たな親戚ができることへの違和感
2)あなたに万一の事態があり、相続で財産を分けることになった際に、新たな配偶者が財産を手にし、その分お子さんたちの財産が減ることへの純粋な損得勘定

 まず1ですが、これはもう、気にせずに、新たな配偶者として彼女さんを迎えるか、相談者さんの一存で判断してしまってよろしいかと思います。残り少ない、いや、下手したらあと30年! 近くあるかもしれないあなたの残りの人生。それをいかに充実したものにするか、これからの人生で最も長く時間を共有したい相手は誰か、ご自身で考えればよろしい。

 問題は2ですね。仮に相談者さんにお子さんが二人(息子さんと娘さん)おられ、万一の場合は法定相続分通りに遺産(土地や建物を含む)を分けるとすると、以下の比率になります。

1)配偶者がいない場合
  息子・娘が1/2ずつ分ける
2)配偶者がいる場合
  配偶者が1/2、息子・娘が1/4ずつ分ける

 たとえば遺産が3000万円あったとすると、配偶者が出現することにより、息子さんと娘さんの手にする遺産が、それぞれ1500万円から750万円に半減してしまうことになります(各種の税額控除は考慮していません)。
 差額の750万円で何がどれだけ買えるか、と考えると、人間の哀しい性、不満がでてきてしまうのもやむを得ないところではあります(ここで「万物はくう」「こだわるな」などと仏教思想をふりかざすのはさすがに無理筋だと、私でも思います)。

「子供たちに全部相続させるよう、遺言を書いておけばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、相続人には遺留分と呼ばれる、民法で定められている「一定の相続人が最低限相続できる財産」があり、その権利を主張すれば今回の場合、配偶者は法定相続分の半分、つまり財産の1/4は相続できます。
「人生の最終段階だけちょっと看ておいて、遺産を手に入れようとするとはふてえやろうだ」と思う方もおられますが、太かろうが細かろうが、民法でそのように決まっていますので仕方ないですね。婚姻届けが役所に提出され、受理されればその時点で夫婦となります。2時間ドラマみたいですが、万万が一、婚姻の翌日に不幸があったら……。すごいことになりますね。

 ついでに、もう少し財産規模が大きく、相続税、つまり税金が絡んでくる場合のこともおさらいしておきましょう。相続税の基礎控除(相続税が課税されない財産の範囲)は、

3000万円+法定相続人の数×600万円

 つまり、配偶者が誕生することにより、600万円だけ、相続税が課税されない財産が上振れするのです。
 たとえば被相続人(亡くなった方)の課税遺産総額が6000万円だったとしたら、

・配偶者なし(相続人は子供二人)……基礎控除は4200万円、したがって1800万円が相続税の課税対象、相続税額は180万円(子供一人あたり90万円)

・配偶者あり(相続人は妻と子供二人)……基礎控除は4800万円、したがって1200万円が相続税の課税対象、相続税額は120万円(同・30万円)

 子供にとってみると、配偶者が誕生したことにより、相続税額はそれぞれ60万円安くなります。法定相続分通り相続すると仮定すると、相続税分を差し引いた子供一人あたりの遺産の取り分は、

・配偶者なし……3000万円-90万円=2910万円
・配偶者あり……1500万円-30万円=1470万円

 いかがでしょうか。相続人が増えると基礎控除額が広がる分、多少税金は安くなりますが、それ以上にもらえる遺産がほぼ半減してしまいますね。基礎控除枠を広げるために配偶者の誕生を歓迎する、なんてことはなしですね。

 話がそれましたが、お子さんたちにしてみれば、感情の部分以上に勘定の部分で、納得しがたい部分があろう、ということがおわかりいただけたかと思います。

誰が為に金は遺る

 では、相談者さん、どうしましょうか。
 率直に言って、平素からお子さんと疎遠であるならば「お前たちには世話になれないから」と言ってさっさと実績を作ればいいと思います。そうでなく、関係も良好で、孫を連れて頻繁に遊びに来ており、今後の学費に関してもあてにされている気配バリバリである、といった場合は、お子さんたちに生前贈与等で財産を渡したうえで、「お前たちにもできるかぎりの援助はするが、自分はある女性とこれからを生きたいと思っている」とにおわせるなど、ある程度外堀を埋める必要がありましょう。

 まあ、あてにされていようがいまいが、相談者さん自身のこれからの人生ですから、「子供や孫より彼女だ!」とのお気持ちが強ければ、ご自身で割り切ってしまえますよね。籍を入れることにより彼女さんとの絆がより固くなり、幸せへの階段を昇れると確信されるのなら、それもよし。ただ、お子さんお孫さんとの仲が疎遠になるリスクを少しでも回避したいのならば、たとえば彼女さんとは一緒に住んでも籍は入れない、いわゆる内縁関係にとどめておく手はあります。

 ちなみに現行の民法では、被相続人の内縁の妻や夫が法定相続人として相続権を取得することはできません。ですから、遺言を利用してそれなりの規模の遺産を彼女さんに残すようにする――あたりが落としどころですかね。
 もちろん、遺言の内容はあらかじめ、お子さんたちにも彼女さんにもしっかり告げておく。そうすると、この遺言はリトマス試験紙みたいなもので、「彼女さんが財産目当てかどうか」をあぶりだせます。
 結果、良くも悪くも「離別」を招く可能性がありますが、それはそれで、あとあとの財産トラブルを回避したと思えば、すっきりするのではないでしょうか。

 長くなったのでこの件はこの辺で。また似たような相談が出てきたときに、さらに考えることにしましょう。

 最後に。相続対策を考えるうえで最も大事なことは、「税金を低く抑えること」ではなく、「後に残される方たち全員が争うことなく、気持ちよくあなたを送れるような、心のこもったエンディングを考えること」です。よく考え、よく話し合ったうえで、判断してください。

*「最終章を俺と一緒に生きてくれ、骨拾ってくれ」「入籍してくれ」


10.会社から早期退職を勧奨されています。退職金が多少割増しになるようなのですが、老後のことを考えると応じたほうがいいものか、はかりかねています。どうしたらいいでしょうか。(50代・男性)

 これもFPとしてはよく聞かれる質問ですね。お釈迦様や空海さんや最澄さんや親鸞さんや日蓮さんが早期退職について言葉を残しているとは思えませんので、これに関しては100%FP目線でお答えしたいと思います。相談者さんは50代ということですし、退職後に本格的な転職はしないという前提で話をします。

 では例によって、メリットとデメリットを列挙するところから始めましょう。

辞めて得るもの失うもの

メリット:
1)割増退職金がもらえる(ことが多い)
早期退職というのは会社側がコストカットを行うために設ける制度ですので、「退職してくれるのならおまけをつけましょう」という意味で通常、退職金が割り増しされます。

2)失業保険がもらえる(ことが多い)
多くの場合自己都合ではなく定年退職扱いとなるので、45歳以上60歳未満で、雇用保険への加入年数が20年以上なら、失業保険が最長で330日受給できます。

3)自由な時間が増える
やりたいことをやれる時間が十分に取れるのは素敵なことです。働くためだけに生まれてきたのではないのですし、体もバリバリ動くでしょうから、趣味にスポーツにボランティアに、いろいろ楽しみましょう。あるいは、長年温めていたビジネスモデルの実現に向けて具体的なプランを練っても。

デメリット:
1)定期的な収入がなくなる
退職というのは仕事を辞めることですから当然といえば当然ですが、「退職金におまけをつけても、その社員に賃金を払い続けるよりトクだ」と雇用者が判断したわけですから、逆に言えば、「(雇用者にとっては)収入のことだけを考えるなら勤め続けるほうがいい」という捉え方もできます。そして、年金保険料や健康保険料など、収入がなくなっても原則国に支払わなくてはならないお金が、この国には存在します。加えて住宅ローンや教育費の支出があれば、退職金を含めた貯金はあっという間に減っていくと覚悟しておいたほうがよさそうです。新たなビジネスを始めるにしても、当初は持ち出しになるでしょうし、楽観的な未来予想図は描かぬほうがよいかと。

2)年金額にも影響する
国民年金に上乗せしていた厚生年金への加入期間(年数)が、早期退職することにより、定年まで働いた場合に比べて少なくなる。そうなると年金の支給額が下振れする、ということです。老齢厚生年金だけでなく、万が一のことがあった際に支給される障害年金や遺族年金の受給額にも影響が出ることに注意してください。

3)家庭での居場所に苦労する
奥さんやお子さんがおられるのなら、勤めを辞めて毎日家に居ることで、どのような立場に置かれるか、想像してみてください。想像したくないかもしれませんが。趣味やスポーツは出費を伴いますので、家に居づらくなったら公共図書館や公園に行くことになりますが、これらの場所もまたなかなか、50代男性が毎日は行きずらい場所です。「〇〇さんのご主人、今日も公園に居たわよ」なんて近所のうわさになったりして。

資産の四散を試算

 これを踏まえて、いちばんの心配事であろう、「老後にお金がなくならないのか」という点を検証するため、以前にもご紹介した「ライフキャッシュフロー」を試算してみます。縦軸に金融資産の残高、横軸に年齢を取り、何歳くらいで金融資産が底をつくかのイメージを把握する図表なのですが、今回は日本FP(ファイナンシャル・プランナーズ)協会のサイトにある「ライフプラン診断」を使って試算してみます。

https://www.jafp.or.jp/know/lifeplan/simulation/

世帯主 :50代 男性
世帯主 :自営業
配偶者 :あり
配偶者 :専業主婦
子ども :2人
世帯年収:200万円
生活費 :20万円/月
住居費 :5万円/月
貯蓄額 :3000万円

 退職金込みで3000万円の貯蓄があり、生活費は月20万円、まったく働かないのもなんなので世帯年収は200万円、等々のパラメータで試算すると「89歳で貯蓄が底をつく」という、なんともリアルな結果が出ました。もう少し貯蓄を増やしてもいいのですが、日本FP協会のシミュレーションでは入力できる最大の貯蓄額が3000万円でした。

 もちろん相談者さんが今後どんなライフスタイルを選択するかなどによって試算結果は大幅に変わりますが、「危ない橋を渡りたくなかったら、勤め続けるほうがまあ安心だよね」くらいの答えになります。なんとも面白みのない答えで恐縮です。

 住宅ローンや教育費にだいたいの目途がついており、転職先が決まっているなど、退職後のビジョンがある程度見えているのであれば、踏み出すのも悪くはないでしょう、といったところです。
 念のため申し上げますが、FPというのは、「お金の悩みや心配を解決する専門家」なので、「相談者さんが長期間にわたりお金の心配なく生活が送れるためには、何をどうすべきか」を最優先で考えることになっています。「将来のことなどわからないんだから考えるだけ時間の無駄、今までもどうにかなってきたんだから、この先もどうにかなるんだよ!」という方はどうぞ夢に向かって突き進んでください。どうにかなるかもしれないし、どうにかならないかもしれません。

#自業自得正法念経しょうぼうねんぎょう

 良きにせよ悪しきにせよ、自分のとった行動の報いは自分に返ってくる。日常においても仕事を通して「必要とされている人のために尽くす」「困っている人の助けになる」などの目標を持ち、それに向かって地道になすべきことをなしていけば、のちのちいい結果を得られるのでは。FP住職としては真剣に、そう思います。

*最終日職場でもらった花束は今日までの俺を葬る棺に


11.週8日は泥酔してしまいます。どうすれば大人のスマートな飲み方ができるでしょうか。(30代・女性)

 あなた、今酔っぱらってますね。一週間は普通7日ですからね。酒が抜けてから改めてお話ししましょうか。あ、でも私もいろいろ忙しいので、ここに書いておくことを後でご覧になってください。

 仏教の戒律に五戒ごかい(現世において守るべき五つの戒め)があります。

不殺生ふせっしょう むやみに生き物を傷つけない
不偸盗ふちゅうとう ものを盗まない
不邪婬ふじゃいん よこしまな関係を持たない
不妄語ふもうご うそをつかない
不飲酒ふおんじゅ 酒を飲まない

 ということで、「酒は飲むな」が住職としてのシンプルなお答えではあります。

 ではなぜ、飲んではいけないのか。
 お釈迦様の弟子で、その法力をもって毒龍を降したサーガタは、六群比丘ろくぐんびくらの勧めに従ったコーサンビー国王に酒を振る舞われ、泥酔し、道に倒れて吐きまくり、醜態をさらします。この事件以来、お釈迦様は出家者が飲酒することを禁止しました。火炎を吐き散らす毒龍を降すほどの神通力もかたなしです。
 お釈迦様はサーガタを、「今の如きは小龍をも降伏することあたわず。いわんや、よく大龍を降伏せんをや(=今のサーガタは大きな龍どころか小さな龍でもやっつけられない)」と非難し、飲酒にはデメリットがあることを示したのちに、「これより以降、出家者は酒を飲んではならない」と戒律を制定されています。

 そしてこの時、お釈迦様はご丁寧にも「酒が引き起こす十の災い」をまとめています。

・顔色が悪くなる
・体力が減少する
・視力が減退する
・怒り散らす
・生業に支障をきたす
・病気になる
・争いを引き起こす
・悪評が立つ
・智慧が減少する
・死後、地獄・餓鬼がき・畜生いずれかに生まれ変わる

 日本仏教の巨人たちの言葉も見てみましょうか。

「凡人は狂酔して善悪をわきまえず」(弘法大師)

「まことはのむへくもなけれとも、この世のならひ」(法然上人)

 上は「凡人は酒を浴びるほど飲み、ことの善悪を判断できない状況に陥る」
 下は「本当は飲むべきではないけれども、この世の暮らしのならいだから(仕方ない部分もあるよね)」
 といった意味でしょうか。真言宗、浄土宗それぞれの宗派の、世俗との距離に関する微妙なスタンスの違いが見えて興味深いです。

危機管理能力への疑義

 私は酒はほとんど飲まない、というか体質的に飲めないタイプなので、ついつい飲んじゃう人の気持ちはまるでわからないのですが、年がら年中飲んだくれてる人には、
「酔っぱらってる時に地震が起きたり、財布やスマホをひったくられたり、家族が事件や事故に巻き込まれたりしたらどうすんのかね」
 という素朴な疑問を抱くことはあります。そういうシミュレーションを脳内でしてみたらどうですかね。いや、脳内ではだめですね。ご家族や友人と実際に訓練してみる。もちろん飲んでる時に、ですからね。したたかに飲んだ後で一大事が起こった時、きちんと対応できるのか。模擬的にイベントを起こしてもらう。
 むしろ悪酔いしそうですが、そのうちに、リミットを外さない、スマートな飲み方を会得できるのではないですかね。知らんけど。
「世の憂いを忘れるために飲むんじゃい」と反論されるかもしれませんが、そのような飲み方はせいぜい20代から30代の前半まで。ご自身が独身、親も健康な時の特権ではないかと、個人的には思います。
 そのうえでまだ「週8飲んだくれたい」というなら、自己責任でどうぞ。もう一回言います。

#自業自得

*飲んでたから仕方ないとか言ってたら見放されても仕方ないから


 では今回はこのへんで。また15日後にお会いしましょう。
(第5回へつづく)

バックナンバー

高橋 泰源Taigen Takahashi

密教系寺院の住職、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP ®認定者。大学在学中に僧侶資格を取得。専門分野は宗教法人の税務・資産運用。宗教法人経営者としては「寺院の真摯な運営」、宗教者としては「人々の心身の安寧」を志向し、埋葬と瞑想と妄想の日々を送っている。

  • 双葉社
  • 小説推理
pagetop