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FP(ファイナンシャル・プランナー)住職の丸もうけ人生相談(高橋 泰源)

第18回

 こんにちは。好きな時代小説は司馬遼太郎の『ふくろうの城』、FP住職の泰源です。
 では、例によって、ご相談をお聞きしましょう。

54.老後にタイかフィリピンあたりに移住したいのですが、妻は今一つ乗り気でないので、まずは単身で前乗りすることも考えています。気を付けることなどあれば教えてください。(60代・男性)

 老後の海外暮らし、いいですねえ。私のように住まいが仕事場(寺)と一体化していて引っ越しは事実上不可能な人間にとっては、正直、かなりうらやましいご相談ではあります。ちょこっとだけですがスキューバダイビングもたしなみますので、なおさらです。しかも単身で行かれる可能性もあるなんて(小声)! 多少やけっぱち気味ですが、ご一緒に考えてみましょう。まずは海外暮らしのメリット、デメリットから。

メリット
・生活費が安い
・気候や食文化など、自分の気に入ったエリアを選べる
・国内でのわずらわしい近所や親戚との付き合いから解放される
・レジャー楽しみ放題

デメリット
・治安や医療面が不安
・知人友人が少ない
・言葉が通じない
・為替レートの変動によって生活費が上下する
・帰国・出国の都度、旅費がかかる

 移住先は世界中にあるのですが、相談者さんのご意向にしたがってアジアで考えると、やはり何といっても、日本では考えられないような低コストで大きな家に住め、レジャーも楽しめるエリアが多い、というところが大きいと思います。人気の御三家はタイ(バンコク、プーケット)・フィリピン(セブ島、ダバオ)・マレーシア(クアラルンプール、ペナン島)で、邦人が多く住んでいますので日本料理店も豊富で、現地の人々も親日的と言われます。

 次に、お金まわりの気がかりなことを考えます。

年金はもらえる?
 国民年金や厚生年金の保険料をきちんと支払い、受給資格がある方であれば、海外に居住していても年金はもらえます。「年金の支払いを受ける者に関する事項」という書類に海外の銀行の受取口座を記入して提出します。なお入金される通貨は基本的に円でなく、ドルであったりユーロであったり現地通貨であったり、居住国によって決まっています。詳細は日本年金機構のWebサイトを参照してください。
 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20150129.html

 一方、年金受給世代でなく、「まだ保険料払っとるわ」という方の場合。
 20歳以上65歳未満の海外に居住する日本人(第2号、第3号被保険者を除く)は国民年金の加入者ではなくなりますが、任意加入して保険料を払い続けることはできます(その分、後でもらえる年金が増えます)。

所得税は?
 日本国内でアパート経営をしており、本人は居ないのに国内で家賃収入がある、などという場合は、日本の税務署に所得税を払わないといけません。
 この場合、代理人として納税管理人を指定して、その人が納めることになります。ご家族を指定するのが一般的ですが、税理士などにも頼めます。法人も納税管理人になれます。

住民税は?
 住民税は毎年1月1日時点での住所のある自治体から課税されますので、「1月1日をまたいで1年以上海外に滞在する人」が海外転出届を提出すると、その年の住民税は基本的に非課税となります。居住者認定については自治体の個別判断の余地もあるようですので、詳細はお住まいの市町村にお尋ねください。

健康保険は?
 海外居住者となって国内に住所がなくなると国民健康保険の被保険者からは外れるため、現地で民間の保険に加入するなどしてください。
 国内に住所をおいたままの渡航であれば、海外で治療を受けても、2年以内に所定の書類を提出することで海外療養費が還付されます。
 いろいろ条件がありますので、詳細は国民健康保険のWebサイトを参照してください。
 http://www.kokuho.info/sikyuu-kaigai.htm

留守宅の管理は?
 なにしろ「移住」ですから、国内の家は空くわけです。売るか、貸すか、そのままにしておくか。もちろんキャッシュフロー(手元のお金)のことを考えたら売るのがベストではありましょうが、物騒な世の中、世界のどこにいても何が起きるかわかりません。何かあったときに、また何もなくても一時帰国したときの落ち着き場所として、当座はそのまま残しておくことをお勧めします。移住先が本当に気に入って、もうつい棲家すみかも海外でいいや、ということになれば、その時点で売却を考えてはいかがでしょうか。
 留守宅の管理については、お子さんなりご親戚に頼んでももちろんいいのですが、最近は留守宅管理サービスなるビジネスもかなり普及しているようです。週1回程度、留守宅に入って郵便物の回収、清掃、風入れ、植木の水やりなどをやってくれるそうです。

現地での生活をイメージしてみる
 例えばタイだと、バンコクは大都会で大気汚染や交通渋滞が懸念されますし、逆にプーケットは国際的なリゾート地で毎晩がお祭り。東京と沖縄みたいなものですから、選ぶべきは国だけでなく地域。海外に行って何がしたいのか? 昼は? 夜は? ご家族は? やりたいことを書き出して、目的にふさわしいエリアを絞り込んでいきましょう。

ちょこっと住んでみる
 当然、旅行で行くのと住むのとではまったく勝手が違ってきます。さすがに「(行ったことのない国に)いきなり移住しよう」と目論もくろむ方はいないと思いますが、まずは2週間程度、ステイしてみることをお勧めします。下見ツアー、ロングステイ体験ツアーなどと銘打ったプランも多数ありますので、探してみてください。また国内の主な都市にはロングステイサークルという集まりがあり、帰国者や移住予定者が親睦や情報交換を行っていますので、そちらに顔を出してみるのもいいでしょう。

介護移住
 今回の相談者さんとは関係なさそうですが、足腰が弱ったり認知症になったりで介護が必要になった親御さん等を海外に連れていく、いわゆる介護移住をする方もいます。特にマレーシアは介護関係のコストが安く、日本の介護保険制度が使えないことを差し引いても安く上がるという情報もあります。温暖な気候も手伝って、お年寄りの健康状態が回復することもあるとか。

直近の情報を
 ちょっと前には積極的に外国人を受け入れていた国が、不動産価格の高騰や失業者の増加などにより移住者の受け入れ基準を厳しくし始めた、という話もあります。ネットや書籍で情報収集する際には必ず発行の日付を確認し、できるだけ最新の情報を得るように努めてください。

海外生活に向いている人・いない人
 会社勤めをしていた20年ほど前、私の同僚がロンドンに赴任しました。でも当時、その奥さんは昼間、ずーっと家で「ロマンシングサ・ガ」というロールプレイングゲームをしていたそうです。余計なお世話ではありますが、その話を聞いたときに、なんともやりきれない気持ちになりました。
 ゲームはどこでもできます。せっかくの海外暮らし、現地の文化や歴史に親しみ、人々とも積極的に交流したいですよね。
 日常会話程度の英語に加えて現地の言葉も少しずつマスターしていけば、交友関係も、通えるレストランのレパートリーも広がります。
 このご時世、スマホやPCがあれば情報収集や暇つぶしに苦労はしないでしょうが、まずは画面ではなく、人と向き合うことを心掛けてみてはいかがでしょうか。
 総じて、海外生活には「人と話すことを億劫がらない人」「明るく元気に話せる人」が向いているのでしょうね。なによりも求められるのは「明るさ」そして「コミュニケーション能力」でしょう。

前乗り
 さあ、最後に、問題の「前乗り」です。
 ご主人は海外に移住して「ゴルフとビール三昧ざんまいの生活」を夢見ているのに対し、奥さんは親しい友人が大勢いる国内に残りたい。「お互いに気を使わないで済むし、俺だけ行くか。カミさんはあとで呼び寄せてもいいし」なんて考えて、まず単独で海外移住するというプランは、あまりお勧めできません。FP的に申せば住居費があっちとこっちと2倍かかります。
 ですがそんなことより、お互いに羽根を伸ばしすぎてご夫婦の心理的距離も広がり、夜遊びのリミッターも外れて大暴れ。やがて離婚に至るケースが多々あります。そしてご主人は現地の若い女性と仲良くなり、その一族の経済的な面倒をみることになったり、あるいは財産を取られた挙句捨てられたり、などという話もちらほら。
 最近では「困窮邦人」なんていう言葉も生まれるほど、海外移住した後ひどい目に遭う方も増えているようです、もちろん悪い人ばかりではありませんが、相談者さんが奥さんを残して単身で移住した場合、この罠にはまらない保証はどこにもありません。

#人のわろきことは、よくよく見ゆるなり。我が身の悪きことは、覚えざるものなり
蓮如上人御一代記聞書れんによしようにんごいちだいきききがき


 読んで字のごとく、人の悪いところは目につきます。外国の人ならなおさら。交通機関も待ち人も時間通りに来なかったり、頼んだものがなかなか届かなかったり。反面、自分の欠点はなかなか自覚できないもの。普通にものを頼んだつもりでもえらく威嚇的な物言いになっていたり、ちょっとした言葉遣いや動作が海外では悪印象を与えるものであったりしているかもしれません。

 郷に入っては郷に従え。現地には現地の伝統文化や、時間の流れや、生活方式があります。「なんていい加減な国なんだ!」などといきり立たず、のんびりと、今そこにある時間を楽しんでください。

*その街があなたに住んでくださいと言ったわけじゃないあなたが合わせろ

55.今年もまた、ひいきの野球チームは負けが先行しています。そして、負け試合の帰りは必ずメンタルが荒れてつい飲みすぎてしまいます。翌朝の二日酔いで毎回後悔しているのですが、夜になるとまたヤケ酒……。負け試合でも荒ず、健全なメンタルを保つにはどうしたらいいでしょうか?(30代・男性)

 そうですか。
 私も、もう大昔ですが高校時代に、関東に住んでおりながら、当時福岡に本拠を置いていた「クラウンライターライオンズ(現在の埼玉西武ライオンズの前身)」を、尋常でない熱量で応援しておりました。大学の第一志望は無謀にも九州大学に定め、感度のいい中波のラジオを買って福岡の放送局にダイヤルを合わせ、ナイター中継を必死に聞き、試合経過に一喜一憂しておりました。結果、チーム同様、自らの学業成績も低い水準で安定し、まったく無駄な放熱をしただけで終わりました。余談ですが、私が高3の冬にクラウンライターは西武への身売り・埼玉への本拠地移転を発表しました。私が九大に受かっていたら、あるじ無き博多に行くところでした。

 さあ、今回のご相談ですが、仏教の出発点は、初期の仏典に記されている、

#一切皆苦いつさいかいく

「人生は思うようにならない」という観念を知ることから始まります。ここでいう「苦」は、「苦しみ」ではなく、「思い通りにならない状態」と解釈するのが一般的です。その「苦」の代表的なものが「生老病死しようろうびようし」で、生きること、老いること、病むこと、死ぬこと。これらは自らがコントロールできるものではありません。世の中のすべてのことは、なるようにしかならない。希望したように運ぶものではない。拙僧はこの観念を実践的かつ可視的に理解するために、自分の小遣いで株式投資もしております。

 こんなエピソードをご存知でしょうか。
 大昔、インドのある村の女性が幼子おさなごを亡くし、悲しみに身も心も壊れんばかり。死を受けれられず、死んだ赤子を抱いて「この子を生き返らせて」と叫んだのです。それを見たお釈迦様は、こう言いました。

「この村の家をまわって、けしの実をもらい、私のところへ持ってきなさい。ただし、これまで一度も死者を出したことのない家のけしの実でなくてはいけない」

 もうおわかりでしょう。身内をうしなったことのない家族など、いません。悲しみは均等に、すべての人にやってくるのです。もちろん喜びも。

 野球の勝敗もまたしかり。大逆転負け、自滅、大敗、惨敗。これらは長いシーズンの中で、どのチームにも発生するものです。試合の流れを思い出したくもない、スポーツニュースなど1秒も見たくない。そんなときは、ひいきチームがその日敗れた相手チームの、大逆転負け、自滅、大敗、惨敗の試合の映像を動画サイトで探して、見る。いや、相手をディスるわけではなく、どんな勝ちも、どんな負けも、あらゆるチームに降りかかっている、という当たり前の事実を再認識するわけです。

 え? うちのチームは負けが多すぎる? 早々にクライマックスシリーズ出場に目標を切り替えた?

 心配ご無用。2012年以降ずっとBクラスでいる球団など、どこにもありません。勝ったり負けたりするから野球は面白い。天空からの俯瞰的ふかんてきな視野、すべてを達観するかのような神目線、いやほとけ目線で、トップアスリートたちの競演を楽しみましょう。彼らのハイレベルな技術とファイティングスピリットに、精一杯の拍手を送りながら。

#且緩々しやかんかん

 師匠に矢継ぎ早に質問をするお坊さんに対して師匠は一言、「且緩々(ゆっくりやりなさい)」と弟子をたしなめた、といいます。禅語です。

 気持ちがざわざわ、ざらざらするときは、ゆっくり深呼吸して、コーヒーでもれ、気持ちを落ち着けましょう。ゲームを振り返ると、負け試合でも、自軍の走者の進塁を助けたり、相手の得点を食い止めたりした、地味ながらも光るプレーのひとつやふたつ、こっちのチームにもありましたよね。応援をしている相談者さんより、仕事にしている選手のほうが、たぶん野球に対して真剣に向き合ってます。選手をおとしめるようなヤジやツイートはつつしみましょうね。

*ずっと勝つチームがあったらそんなのはスポーツじゃなくエンタメだから

56.いわゆるセフレと呼ばれる“彼氏でない”異性の友人がふたりほどいます。ひとりは土曜日に相手の家で、もうひとりは日曜日に自分の家で会っています。やましいことはなにもしていないと思っているのですが、女友達はあまりいい顔をしません。私はよろしくないことをしているのでしょうか。(30代・女性)

 ふーん。今風のチャラい相談のように見えて、人間の根源的な生き方にも関わってくる問題のような気がします。

 まずは、以前にも一度ご説明したのですが、相変わらず聞かれる「坊さんは異性と交わっていいのか」という質問にお答えします。

 おおまかに言って、仏教は「上座部じようざぶ仏教」と「大乗だいじよう仏教」というふたつの流派に分かれます。前者はタイやミャンマーの僧侶のよりどころとなっている仏教で、お釈迦様の教えに忠実に、俗世間とは一線を画した生活を行っています。戒律は厳しく、女性の身体に触れたり、淫らな言葉をかけたりすることは厳禁です。結婚などとんでもない、という世界です。

愛欲の海に沈んだ聖人たち
 お釈迦様は「スッタニパータ」という経典でこう述べています。
「われは昔、悟りを開こうとしたときに、3人の女性を見た。それぞれの心中に、ある者は、愛執あいしゆうに満ち、ある者は嫌悪に満ち、ある者は貪欲どんよくに満ちていた女性を見たので、かれらと淫欲の交わりをしたいという欲望さえも起こらなかった。糞尿に満ちたこの女が、そもそも何ものなのだろう」
 なんともひどい言いようですが、悟りを開いてしまえば、女性と交わりたいという気持ちなど起こらないのだ、とおっしゃってます。

 一方、我々の国の仏教は大乗仏教と呼ばれています。
 江戸時代までは、浄土真宗の僧侶のみ肉食、妻帯が認められていましたが、1872年(明治5年)に政府から「僧侶が肉を食べたり、妻を持ったり、髪を伸ばしたりは勝手にしてよい」という法令が発令されました。なぜこんな法令が出たかというと、「僧侶を俗化させて弱体化させたかったから」という説が有力です。一方、寺にとっても妻帯して子孫を残し、世襲により長期的な寺院経営の安定が図れ、檀信徒さんにも安心してもらえるというメリットがありました。

#まことに知りぬ。悲しきかな、愚禿鸞ぐとくらん、愛欲の広海に沈没ちんもつし、名利みようり太山たいせんに迷惑して、定聚じようじゆの数に入ることを喜ばず、真証のさとりに近づくことをたのしまざることを、恥ずべし、いたむべし、と 『教行信証きようぎようしんしよう・信巻』(親鸞しんらん

 本当に身をもって知った。悲しいことに、この親鸞(愚禿鸞)は愛欲の広い海に沈みこんでしまい、名誉欲や利益欲の大きな山に踏み入り、まどって、浄土で仏になることが約束された人々の仲間に入ることをうれしいとも思わないし、真実のさとりに近づくことを快いとも思わない、恥ずかしいことである、悲しいことである。

 凄いですね。さすが他宗派に先駆けて肉食・妻帯を実践した親鸞さん。お釈迦様の対極と言えるかもしれません。欲まみれを隠そうとしない。ここまで自らのメンタルの弱みをあけすけに告白し、反省している。
 性欲に限らず、この世の中のさまざまな欲にまみれ、迷っているのが人間の姿なのです。
 というわけで、大乗仏教は上座部仏教に比べて戒律が緩やかです。かくいう私も明治時代の政令のおかげで妻帯し子をもうけ、いつ命絶えてもただちに長男が次期住職に就任できるような手立てを整えているわけです(別にドヤってるわけではありません)。

 では、修行者や仏教徒でない一般の人の性行為は仏教的にどうなのか、というと、お釈迦様は、正当な方法で節度を保ちつつ行うよう教えています。執着することなかれ、というわけです。正当な方法ってなんだって? ちょっとここには書けません。いろいろググってみてください。

 ですから、正直「お好きにどうぞ」という答えになります。ただ、仕事に差し支えるほどの愛欲まみれの日々を送ることは当然、お勧めできません。動物じゃないんだから、ほかにいろいろやること、ありますよね。

 あと、将来彼氏ができたときに、自分にはそういう用途限定の友人がいる(もしくはいた)ということを相談者さんはきちんと言えるのですよね? そうでなかったら、なにがしかの後ろめたい気持ちを持って生きている、ということになりますから、ちょっと考えなおしてもいいかな、と。


*食欲と睡眠欲と性欲でできてる人は魅力的だろうか

 では今回はこのへんで。また15日後にお会いしましょう。  
(第19回へつづく)

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高橋 泰源Taigen Takahashi

密教系寺院の住職、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP ®認定者。大学在学中に僧侶資格を取得。専門分野は宗教法人の税務・資産運用。宗教法人経営者としては「寺院の真摯な運営」、宗教者としては「人々の心身の安寧」を志向し、埋葬と瞑想と妄想の日々を送っている。

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