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FP(ファイナンシャル・プランナー)住職の丸もうけ人生相談(高橋 泰源)

第17回

 こんにちは。好きなゲーム機はWii U、FP住職の泰源です。
 では、例によって、ご相談をお聞きしましょう。

51.長患いで入退院を繰り返しています。今すぐ命の危機が迫っているわけではないのですが、万一の際に備えて遺品の整理をはじめたいと思います。特にパソコンに保管してある画像、動画、メールなど、配偶者や子供に見られるとちょっとまずいものがいろいろあります。どのように整理すればよいでしょうか。(60代・男性)

 この相談をFP住職の私にしてきたところがなかなかに深いですよね。ご相談にお答えしながら、その理由も考えていきましょう。

 パソコンやUSBメモリ、あるいはクラウド上に保存された、故人が遺したデータのことをデジタル遺品と言います。ファイルの内容としては画像、動画、音声、文書、サイトにログインするためのIDとパスワード等があります。

誰がどう困るのか

 では、データの持ち主さんが何も手を打たずに亡くなると、何が困るのでしょうか。

 パソコンやスマホにログインできなくなり、その結果、証券会社や金融機関の口座や知人の連絡先などを遺族が認識できず、

・葬儀に呼ぶべき人がわからない
・財産の全貌を把握できず、相続協議がとどこお
・有料サービスの解約が遅れる

 などの不利益が生じます。

 また、ログインできたらできたで、

・遺族などに見られたくなかった動画や画像、音声を見られたり聞かれたりしてしまう
・遺族などに知られたくなかった趣味や嗜好を知られてしまう

 などの問題が生じます。

どうすりゃいいのさ

 では、どうすればいいのか。
 前者(ログインできない問題)については、ログイン用のIDやパスワードをご家族に公開しておけば問題ありません。私は自宅で書き仕事をしているのでPCは自分専用ですが、ご家庭によっては1台のPCをご家族で使いまわしている場合もあるでしょう。そのようなときはご自身のアカウントにログインするIDとパスワード、および各種会員制サービスのIDとパスワードをとりまとめてメモし、ご家族に渡しておけばよろしいと思います。
 この手間を惜しむと、万一の際に、専門の業者によるパスワード解除費用が数万円かかることがあり、非常にバカバカしいです。
 あるいは、ご家族がそれぞれ利用されている各種サービスのログインIDやパスワードをひとつのExcelファイルにまとめておき、USBメモリにも退避しておく。当然のことながらそのExcelファイルにも読み取りパスワードを設定しておき、家族で共有しておく。ここまでしておけばとりあえず安心ですね。って、まあ、そんな仲の良いご家族、そうそういませんよね。

 次に、後者(本人不在の羞恥プレイ)です。本題ですね。

「僕が死んだら……」

 という名前のフリーソフト(windows版)が公開されています。
 これは、ご遺族がそのプログラムを起動すると、ご遺族への別れと感謝のメッセージが画面に表示され、その裏側で、特定のディレクトリ内のファイルがすべて削除される、というなかなかに優れたソフトです。

 テスト用のディレクトリとファイルを作成したうえで作動テストもできますし、個人的にもちょっと使ってみたくはあります。
 ちなみに「死後の世界」というなかなか物騒な名前のフリーソフトもあり、同様の機能を提供しています。こちらはデータの削除日の指定方法を、

・「年月日」
・「今日から○日後」
・「当該アプリケーションの最終起動日から ○ 日後」

 という形式の中から指定することができます。

 いずれも、PCのデスクトップにアイコンを貼っておけば、プログラム名がプログラム名ですので、ご遺族がクリックして起動してくれるかもしれません。しかしながら、気づかれなかったらそれでアウトですし、「死後の世界」のほうはPCに悪さをするような怪しげなネーミングととれなくもなく、アイコンごと削除される可能性もあります。2時間ドラマのダイイングメッセージではないのですから、ここは丁寧に、
「僕が死んだら『僕が死んだら……(もしくは『死後の世界』)』というプログラムを起動してね」
 と、生前に頼んでおきましょう。

 ちなみに、どちらもフリーソフトですから、公的機関やPCのメーカーやマイクロソフトやアップルが動作保証をしているわけではありません(まあ動作がうまくいかなくても、そのときに自分はこの世にいないので、構わないっちゃ構わないのですが、それを言い始めたら今回の相談は成立しないですね)。

 また、亡くなる前にご本人もしくはご家族がうっかりプログラムを起動したら、その時点で当該ディレクトリのファイルは全消去されるわけです。さらに、ご家族の中で複数の方がこれらのフリーソフトを使ってたりしたら、生前から大混乱でしょう。

 別の方法としては、気の置けない、なんでも話せるご友人とクラウド上に共有ファイル置き場を作っておき、どちらかが亡くなったら、残ったほうがクラウド上のデータを自分のPCに移動させる、もしくは消去する、とかでしょうか。
 しかし家族には見せられないファイルを見せられるご友人ってのも、ありがたい、というか、有り難いというか、なかなかですね。

サービスの寿命のほうが心配

 ご自身のデジタルデータを処分したり、SNSから離脱したりする段取りを請け負うサービスもいろいろあるのですが、なかなか軌道には乗っていないようです。
 人生の最期(ライフエンディング)に関わる総合ポータルサービスとしてYahoo!JAPANが2014年7月14日に開始した「Yahoo!エンディング」のうち、「生前準備」機能は2016年3月で終了しています。このサービスはYahoo!ユーザーの課金サービスの終了やメッセージの削除等を行うものだったのですが、理由は不明ながらまさに短命で終わったことになります。

 これはおそらく、PCやスマホのヘビーユーザーである世代が、まだ自分のエンディングを明確に意識する年齢にさしかかっていないためと思われます。あと20年ほど経って、私(50代後半)くらいの者が自分の後処理について考えるようになったとき、状況がどうなっているか、が問題ですね。
 ちなみにFacebookには「追悼」という機能があります。あらかじめ「万一の際の追悼アカウント管理人」を指名しておき、その管理人がFacebookに申請することによって、亡くなった方のFacebookページに「追悼」と表示され、そのタイムライン上でご友人たちが思い出を語りあえるという仕組みです。
 なんともFacebookらしいサービスと言えますね。しかし個人的には、追悼アカウント管理人まで指名しておき、準備を整えて旅立ちながら、自分について思い出を語ってくださる方が居なかったらどうしよう、と思うと心配で、雲(クラウド)の上、天国から見ていてもなかなか成仏できない気がします。

おひとりさまのデータ処理

 配偶者さんやお子さんがいない、いわゆる「おひとりさま」の場合は、デジタルどころかすべての遺品の処分が気になるところでしょう。司法書士さんや行政書士さんなどの専門家と「死後事務委任契約」を締結して、事後の処分の一切合切いつさいがつさいを委任することを検討されてはいかがかと思います。

 ちなみにこの「死後事務委任契約」ですが、将来認知症になった場合の財産管理等を委任する「任意後見契約」とセットで締結しておくことにより、スムーズに遺品全般の処理をしてもらうことができます。今回の相談とは少しずれますので、別の機会に詳しくご説明します。


#死期はついでを待たず。死は前よりしもきたらず、かねてうしろに迫れり。人皆死ある事を知りて、待つこと、しかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるがごとし  (徒然草)

 死は順番に来るものではなく、前からやってくるのでもなく、後ろから突然迫ってくる。誰でも死ぬことはわかっているが、思いもよらないときに急にやってくる。海の遠浅は遥か先のほうまで続いているように見えていても、潮は急に満ちてくるものだ。

 まともな医療行為などなされなかった中世ですから、現代以上に「死」は唐突にやってきたのでしょうね。今で言う「終活」的な人生の棚卸しも日常的にしていたのかもしれません。
 我々も、終活の一環として、アナログ、デジタルにかかわらず、この世における足跡をとりまとめ、不要なものは処分しましょう。もしくは処分しやすい形にしておきましょう。兼好法師の文章は我々にそんなことを示唆しているのかもしれません。

*ジョブズだって言ってたじゃない明日死ぬと思って今日を生きなさいって

52.家内がおりながら、サークル活動で知り合った同年代の独身女性と恋愛関係になりました。その女性にも少しだけ遺産を渡したいのですが、どうすればよいでしょうか。(70代・男性)

 70代になっても異性への恋愛感情を持ち続ける。なかなかお盛んですね。恋愛に年齢制限はないですし、結構なことだと思います。ただ、何度か申し上げている、

#不邪淫(よこしまな関係を持ってはならない)

 という仏教の教えはお忘れにならぬよう。どうしてもお気持ちが奥さんよりもその女性に傾いて戻りそうにないなら、奥さんに真実を話して別れることも視野に入れてみるのをお勧めします(ここだけの話、僧侶の離婚は珍しくありません)。

 さて、いかにすれば愛人さんに遺産をあげられるか、考えてみましょう。ここからはFP的な視座でのお話になります。

・生前贈与する

 生きているうちに愛人さんにお金をあげる方法です。年間110万円までの贈与は贈与税非課税となります。それ以上贈与すると、もらった人は贈与税の申告をしなくてはいけません。
 ですから注意点としては、お金をあげた人でなく、もらった人がきちんとそのお金を管理することです。そうでないと、相談者さんが相続税を抑えるために、形の上だけで贈与して財産を減らしているのではないか、と税務署に疑われるからです。
 ちなみに現金でなく宝飾品や自動車、マンションなどでも金額換算した合計が年間110万円を超えると、もらった人に贈与税申告の義務が生じます。税務署に見つからなけりゃいい、とか、そういう問題ではありません。税法も法律です。法律はきちんと守りましょう。

 贈与税とは別に、今回の場合は、たとえば銀行口座への振り込み等によってお金を送ると、奥さんにその出金履歴が知られたときに「あなた何よコレ!」などと大騒ぎになる可能性があります。相談者さんの口座の入出金を奥さんがどれだけチェックしているかは存じませんが、よく考えて自己責任で実行してください。
「奥さんにばれないようにお金を愛人に渡すには」などという設問はFP試験にも出てきませんので、私も語るべき正解を持ちません。

・遺言で渡す

 遺言で「財産のうち〇〇銀行〇〇支店の預金を□田△子に譲る」と書くことです。法定相続人に財産を移転させることを「相続させる」と呼びますので、法定相続人以外に対して「相続させる」と書くことはできません。したがって「愛人に相続させる」という遺言は、厳密には書けません。

 ですので「譲る」とか「遺贈する」とかの表現を使っていただくとして、もうひとつ気をつけなくてはいけないのが「愛人に財産を譲る」という遺言の正当性です。
 民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」とうたっています。愛人契約をして月々お金を渡す、とか、人の命を奪う代わりに報酬をもらう、とか、麻雀でお金を賭ける、とか、そのような契約はそもそも無効だから、その契約を破っても(お金を払わなくても)、契約を破られた(お金を払ってもらえなかった)ほうの人は裁判を起こしても負けます、という意味です。

 で、「愛人に遺産を遺す」という遺言がこの民法90条に触れ、「公序良俗違反でアウト(無効)!」となる可能性があります。
 あくまで一例ですが、以下の点がポイントとなります(微妙な部分ですので、詳細は弁護士さん等にご確認ください)。

 <別居期間>
 別居期間が長いことは、夫婦関係が実質的に破綻していることを認識づけるため、長期間になるほど不倫相手への遺言が有効になる方向へ傾きます。

 <交際の継続性>
 愛人さんとの交際が死亡するまでほぼ継続しており、死亡の前後で関係性が変化していなければ、お相手との関係が“愛人のような金銭目的の関係ではなく、恋愛関係である”ことを認識させ、公序良俗に反しない(=遺言が有効となる)方向に働きます。

 で、この遺言が「公序良俗に反しない・有効」となると、次に遺産分割協議が始まります。ここで愛人さんは、奥さんやお子さんたちと話し合いのテーブルにつくことが求められます。ただ、せめて遺留分は侵害しない範囲での遺贈にとどめておかないと、奥さんやお子さんから遺留分の減殺げんさい請求を起こされて、とんでもない泥沼の争いになる可能性があります。

 はい? 遺留分ってなんだ? 遺留分の減殺請求ってなんだ?

 これは失礼しました。相続の法律用語のご説明をしていませんでしたね。

遺留分とは
 遺産相続をする際に遺言があると、遺言の内容によっては、法定相続人であっても十分な遺産を受け取れなくなることがあります。たとえば父親が愛人に遺産をすべて相続させる遺言を残したら、配偶者や子供などの相続人たちは遺産をもらえなくなってしまいます。
 このようなときに、不利益を受けた相続人が主張できるのが、「遺留分」、つまり最低限の取り分です。
 遺留分は、遺言に優先します。民法では、遺言によって相続人の相続割合を決定することを認めていますが、同時に「遺留分に関する規定に違反することができない」とも明示しています。
 遺留分の基本的な割合は以下の通りです。

・親、祖父母などの直系尊属のみが相続人の場合、直系尊属の遺留分は本来の法定相続分の3分の1
・その他の場合は、遺留分は本来の法定相続分の2分の1
・兄弟姉妹には遺留分はない

遺留分の減殺請求とは
 遺言によって不利益を受けた相続人が、内容証明郵便等により、他の相続人に対して「遺言の通り遺産を分けるとすると俺の遺留分が侵害されている、俺はもっともらえるはずだ、話し合いに応じろ!」という意思表示をすることです。
 遺留分減殺請求に応じてもらえない場合は、家庭裁判所で話し合う「調停」、それでも応じてもらえない場合には、裁判を起こす「訴訟」という方法があります。
 上でお話ししたように、兄弟姉妹には遺留分はありません。そのため、兄弟姉妹は遺留分減殺請求を行うことができません。

 だいぶ面倒くさくなってきましたが、もう少しだけ。今回の場合、奥さん、お子さんとも「本来の相続分」は遺産の2分の1ですので、その半分、つまりそれぞれ4分の1が「最低限の取り分」となります。

 ですから「遺留分を侵害しない遺言」を書くなら、たとえば、
「愛人に50%、奥さんとお子さんにそれぞれ25%遺産を譲る」
 と書けばいいわけです。

 しかし、そんな極端な遺言を残して、ご家族はどう思うでしょうか。愛人さんも「キャー嬉しい」とか思うでしょうか。
 今回ご相談者さんは、「奥さんとの関係も大事にしながら愛人さんにも遺産を」という、アラブの大富豪みたいな目論見もくろみをしているのですよね。よく言えば博愛主義、悪く言えば虫が良すぎ、だと思います。

 一夫多妻制の国ではない以上、奥さんか愛人さんか、どちらを取るかきちんと決めて、今すぐにそれを伝える、ということでいかがでしょうか。

 老婆心ながら、あっちフラフラこっちフラフラしている間に、両方から三行半をつきつけられることのなきよう。

*人間はどこかひとつの方角を向くようにしかできていません

53.職場の上司が不道徳きわまりない男です。先日は勝手に私の名前を使って接待の伝票を切っていました。そもそも本当にお客さんと行ったのかどうかも怪しいもんです。そんなインチキ伝票を切らされるこっちはたまったものではありません。こういう公私混同男をどうやって懲らしめたらよろしいでしょうか。(30代・女性)

 いましたねえ、こんな上司。私も会社勤めが長かったので、いろいろな「変な人」「ずるい人」を見てきました。

・お客さんを接待したことにして仲間内での食事代を会社に請求する
・私的に飲みに行った帰りのタクシー代も残業で遅くなったことにして会社に請求する

 何より怖かったのは、そういう人が少なからず周りにいたので、自分の善悪の物差しがゆがみ、やっていいこととよくないことの線引きが見えなくなってきたことです。
 たとえば、会社の利益が大量に出た年度などは、法人税を払うくらいならお客さんを接待したことにして仲間たちで飲み食いして親睦を深めたほうがいいじゃないか、そんな意見もあるかもしれません。
 しかし、それならば堂々とそういう目的で飲食して会議費として会社の経費を消費すればいいだけの話。会議費で納まらないなら自腹切れよ、です。

 さあ、では今回の相談者さんはどうすればいいでしょうか。

 今回のような「個人的なズル」であれば、上司または人事部長にかけあうか、勤務先の会社のコンプライアンス室への通報がセオリーとなります。

 これがもっと大々的な、たとえば「社内検査のやり方が法的基準をクリアしていない」とか、「衛生上問題がある状況で製品が作られている」とか「労働基準法上、問題のある働き方をさせられている」とかの違法行為で、上司に伝えてもらちが明かないようであれば、監督官庁などの行政機関に通報してください。「公益通報者保護法」により、通報者の立場は守られます。
 今回はもっとチマチマした行為のようですので、まずは直属の上司に告発する。問題児が上司なのだったらコンプライアンス室へ。その際、できるだけ細かく、それまでの言動を客観的にまとめる。ペン型のICレコーダーとかを利用して暴言妄言もうげん不道徳発言を録音しておく。
 ただこれらの証拠集めは、あくまで上司もしくは社内機構に訴えるためのもので、SNSや動画サイトを使って世界中に公開すべきものではありません。相談者さんも会社の一員ですし、SNSに一度あげたら取り返しがつかない事態を招くこともご承知おきください。

 私の場合は自分の上の課長が問題児だったので、部長に伝えて公私混同をチェックしてもらいました。その問題児はその後、関連会社に出向した後に素行不良で注意され、ほどなくフェイドアウトしていきました。

 と言いながらも、目的が「けしからん奴をやっつける(追い落とす)」だとすれば、それはちょっと違うよね、とも思うのです。私の場合も、問題児に公私混同を改めてほしかっただけで、消えてほしかったわけではありません。

 僧侶で作庭家さくていか枡野俊明ますのしゆんみよう氏は、『傷つきやすい人のための図太くなれる禅思考』という著書の中で、このような場合の対処法として、

・怒りの内容を紙に書いてみる。書くことによって、内面に充満している「怒りの出口」が開かれ(怒りを外へ逃がすことができ)る

 と語っています。

#悟無好悪

 さとれば「こうお」なし。禅語です。

 ものごとをあるがままに見れば、好きとか嫌いとか感じないようになる。人とて同様です。
「あの人はケチな人だ」
「あの人は図々しい人だ」
 それ以上の「嫌いだ」とか「許せない」とかの感情を持たずに、適度なつきあいで済ませてしまうようにする。とりあわない。
 職場の同僚だと難しいかもしれませんが、仏教、特に禅宗ではそんな風に「受け流す」ことを勧めています。

 もうひとつ。

#七佛通戒偈しちぶつつうかいげ  (法句経)

諸悪莫作しよあくまくさ
衆善奉行しゆぜんぶぎよう
自浄其意じじようごい
是諸仏教ぜしよぶつきよう


どのような悪事もはたらかず
いろいろな善行を行い
それによって自分の心をきよらかにする
それが、諸々の仏が説く教えである

 こちらは広範こうはんな宗派に読まれている経典の言葉です。「いかに懲らしめるか」というより、自分がよい行いをしましょうよ、と勧めています。まあ、そうでしょうね。「よい行いとは、悪事を告発することだ!」という理屈もなくはないですが。普通に考えたら「そんなやつは放っておいて、利他、つまりほかの人のためになることをしましょう」という意味です。

 はい? 物足りない?

 そうですか。では、「現世で悪行を重ねると死後に地獄に堕ちる」という仏教思想もご紹介しておきましょう。

 仏教では、五戒や十善戒などの「人として守るべき戒律」があり、これを破ると、死後に地獄に堕ちる、という教えがあります。

「五戒」は、以下の5つです。

・不殺生戒(生き物を殺してはならない)
・不偸盗戒(ものを盗んではならない)
・不邪淫戒(よこしまな関係を結んではならない)
・不妄語戒(嘘をついてはならない)
・不飲酒戒(酒を飲んではならない)


 今回の問題児は「相談者さんが参加していない飲み会を、相談者さんが参加したことにして伝票を切った」という嘘をついています。なにしろ問題児ですから、何度となく同じ手口を使って会社の金で飲み食いしているかもしれません。この戒律を守っていない人間は、受苦無有数量処じゆくむうすうりようしよ」という地獄に堕ちるとされます。
 そこでは、罪人の体の中に無数の虫が発生し、その毒が体をむしばんでいきます。その後、罪人は灼熱しやくねつの炎であぶられ、最後はその焼け焦げた部分にさらに毒草を植えられる、と言われます(諸説あり)。

 いかがでしょうか。問題児の体から毒草が生えてくる光景を想像して、多少は溜飲りゆういんが下がったでしょうか。古代インドの経典ではかなりえぐい描写をしてきますね。
 口直しをしておきましょう。

*あの人は本能のままに生きている人間なんだよただそれだけだ

 では今回はこのへんで。また15日後にお会いしましょう。  
(第18回へつづく)

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高橋 泰源Taigen Takahashi

密教系寺院の住職、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP ®認定者。大学在学中に僧侶資格を取得。専門分野は宗教法人の税務・資産運用。宗教法人経営者としては「寺院の真摯な運営」、宗教者としては「人々の心身の安寧」を志向し、埋葬と瞑想と妄想の日々を送っている。

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