双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー(辛酸なめ子)

第7回 幼女の無心さを取り戻す 前半

 「記事を読みました。ゲスかったです(笑)。これからも功徳の名を借りたゲスを積んでいってください」
 ツイッターで来た感想に、「ググググ……」と、思わずゲスな笑い声をあげてしまいました。すっかりスレてしまった自分。いつからこうなってしまったのか、日頃の雑念や、邪心、陰謀論、ネットのゴシップなどが積み重なって、無心とはほど遠い状態になっています。いっぽうで聖者の本を読み、スピリチュアルな体験をして浄化もされているはずなのですが、浄化とケガレが常に混在し、妙なバランスを保っています。人間に生まれたからには、聖も俗も体感したい、というのは詭弁でしょうか……。
 でも、幼稚園くらいまでさかのぼれば、こんな私もピュアな心を持っていました。質素な家庭環境で、与えられたものを素直に受け入れ、何のジャッジもせず、無心で遊び学んでいました。自戒の思いをこめて、幼稚園時代の日記を引っ張り出してみました。
 マイメロディの日記帳。ビニールのカバーが収縮してしまっていて年月を感じます。ひらがな多めですが、以下に抜粋させていただきます。

1/14
 きょう、ようちえんでまめひろいをした。まめひろいというのは、おはしでまめをつかんでカップのなかにいれて。カップのなかのまめがおおくとれたひとがかちです。わたしは14こと14こと10ことりました。74ことれた人がいました。その人ははしもとまいちゃんという子です。

 これは今でもうっすら記憶にあります。不器用だったので箸で豆を移すのが苦手でした。器用に豆を移していた橋本さんは、きっとその後も人生も順調そうです。

1/19
 きょう、はがぐらぐらしてとれた。よなかのことです。はがとれた。とおかあさんにいった。だけどもってなさいといった。のみこまなくってよかった。
 
 歯の生え変わりについて書かれた文章。何十年か経つと、生え変わった歯もだいたい虫歯に侵されていくことをこの時は知りませんでした。

1/22
 きょうレコードふきこみをやった。いくつふきこんだと、おもう? みっつふきこんだ。もっきん、ガボット、かごめかごめ。大きくなったならなりたいもの。そんなにやったの。だからつかれちゃった。そのつぎのひは、たこあげたいかい。たくさんつかれるわ! わたしはおおきくなったら、アナウンサーとバレリーナ。アナウンサーというのはテレビにでている人よ。

 レコードというところに時代が。音大付属の幼稚園だったので、曲を演奏したり歌って吹き込む、という行事があったようです。そしてなりたい将来の職業は、JY(女子幼稚園児)にありがちで夢見がちでした。誰に向けて書いているのかわからない、質問調の文体は何なのでしょう、守護霊に話しかけていたのかもしれません、

1/23
 きょう、ようちえんでたこあげたいかいをひらいた。そして、どのくらいあがったとおもう? すっごくたかくあがったとおもうの。大がくせいのおにいさんもてつだってくれたの。

 凧揚げ大会で知らないお兄さんが手伝ってくれて、一番高く上がったという思い出。人生は、どこからか助けが来るもの、と幼心に刷り込まれた体験でした。大人だったら知らない男性が寄ってきたら警戒してしまいますが……。

1/31
 きょう、ゆめをみた。そのゆめは、はなの子ルンルンといっしょにやまをのぼって、なないろのはなを一つ、みつけた。そのいろはななしょくだ。ひとつのはなにいろんないろがついている。では、バイン。
 
 当時大人気のアニメキャラが夢に出てきたという他愛ない話。でも今でもよく夢の話をツイッターとかに書いているので変わってないかもしれません。

2/10
 きょう、ゆうがたパンのみみをそとになげたら、とりが2わ、きた。そしてぱんくずをよろこんでクククチチチといいながらたべていた。2わのことりはひよどりみたいだった。まだ、だけどパンのみみはのこってた。またことりさんがあそびにくるといいな。まえ、ことりにえさをあげたら、おれいにやねのうえから、むしをおとしたの。こんどもそうゆうこと、あるかな?

 幼稚園児のピュアさが行間からにじみ出ています。鳥にパンの耳をあげたら、お礼に虫をもらった。子どもでないと気付かなさそうです。いつの間にか感受性や心の豊かさを失ってしまったようです……。

 幼稚園児の日記を久しぶりに読んで、自分の心の曇りが少し浄化されたようです。幼少時の日記をお持ちの方がいたら、人生の節目に改めて読むのはおすすめかもしれません。育ててもらった思い出はほとんど忘れていたりしますが、日記で当時、遊んだりかまってもらっていたことがわかって、改めて親に感謝することができます。子育てしている方なら、さらにありがたみが実感できると思います。
 ちょうど、千葉在住の友人から「息子の保育園入園式に一緒に来ませんか?」という誘いが来たので、園児にまみれてさらに心と体の若返りを目指したいです。
と、無料のエステみたいに考えている下心がすでにスレた大人かもしれませんが……。
(第8回へつづく)

辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

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