双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー(辛酸なめ子)

第6回 インスタやスマホから距離を置いて
ピースフルに 後半

 インスタ離れをして3ヶ月ほど経ちました。といっても、アップしなくなったくらいで、人様の投稿はたまにチェックしています。自分で投稿しなくなっただけでも気楽になりました。何か特筆すべきものを見つけたら投稿して、誰かに認められたい、そういったことにエネルギーを使わなくなったからでしょう。たとえ総エネルギーの5%とかでも、日々積み重なると大きいです。インスタへの思いが薄らいだからか、インスタを立ち上げるとよくフリーズしたり、落ちることも増えました。スマホは人間の精妙な心変わりも感知しているのでしょうか。
 エネルギーへの節約以外に良かったことは……
 自分の撮った写真は自分で独り占めできる。体験も自分のものとして心のアルバムにしまえる。という点です。プライベートを皆に無理矢理シェアする必要はなく、自分だけの大切な思い出にできます。
 そして、他の人のインスタの投稿も距離を置いて見られるようになりました。以前は、この人はパーティに呼ばれているのにどうして呼ばれなかったのか、とか、彼女はおしゃれな家でお子さんもいて家族と幸せに暮らしているのになぜ私は……と、つい同じフィードで比較してしまっていました。それが、ちょっと離れた上空から、というと上から目線みたいで感じ悪いですが、俯瞰して眺めている感じです。もしくは自分がもうあの世にいて現世を見下ろしているような……。これで人と比較して羨望や嫉妬を抱くことも少なくなりました。
 経済的には、もともとそんなにお金をかけて投稿していなかったので変化ありません。最近「SNS負債」というワードを聞きます。SNSで身の丈以上のセレブライフを演出していたら借金を抱えてしまったという実例があるそうです。芸能人ではGENKING氏など。インスタの背景に写り込ませるために70万円のアートやブランドの40万円のぬいぐるみ、おしゃれな家具を次々購入。多いときでは月300万円も出費していたそうです。その時の写真を見たら、人形のような虚無的な瞳をしていました。ここまでやりきると、中毒から脱した時に達観できそうです。貧乏性の私はわざわざお金をかけるなんてできませんが、インスタ離れで、貴重な時間を少し取り戻せただけでもよかったです。
 ただ、完全な節約ではありません。というのは、癖でついスマホを触って見てしまうからです。SNSから離れられても、スマホ依存からは脱していません。最近「スマホ健忘症」も話題ですが、マルチタスクで複数のデバイスを立ち上げて使っていると、記憶力のみならず集中力やIQが落ちる、というのは結構前から言われてきました。わかってはいるのですがやめられず、私は忙しいときやPCが重いときなど、アンドロイドとiPadを同時に立ち上げて、3画面を交互に見て作業していました。しかし2015年のスタンフォード大学の研究によるとマルチタスクでIQが15ポイント低下したという恐ろしい結果が。たしかに年々バカになっている自分を如実に感じています。この原稿を書いている間にも緊急の用もないのに何度もスマホの画面を付けてLINEやツイッターを見てしまいました。最近、ある工場を取材したのですが、工場で働く人々は就業中は私物は預けてスマホも見ないで平気だということに、驚きと尊敬の念を抱きました。中毒から脱するためには、しばらく工場で働くとか、効果ありそうです。
 さしあたってスマホの利用時間を自動計測するアプリを入れてみました。一週間の平均値は、1日2時間半。スマホを付けた回数は一日79回という結果に。無意識のうちに結構使用しています。使っているアプリはグーグルクロームやメール、ときどきLINEなど、仕事中心で、インスタ使用時間はおかげさまでかなり減少しました。しかし2時間半は想像以上で、たぶん現代の若い人はもっと多いと思いますが、そうするとほとんど魂の分霊をスマホに吸い込まれているような状況かもしれません。人格やエネルギーがスマホに吸収され、代わりに人工知能が自分の脳に入り込んでくるような……もしかしたら現代人はアンドロイドに変化しつつあるのでしょうか。これがもし進化というものなら、おとなしく身を任せるしかありません。
(第7回へつづく)

バックナンバー

辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

  • 双葉社
  • 小説推理
pagetop