双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー(辛酸なめ子)

第38回 教会ヒーリング 後半

 教会で讃美歌を歌ったり祈ったりすれば心が清められるかもしれない、そんな願いを胸に、四谷の教会に引き続いて今度は銀座の教会へ赴きました。日本基督教団銀座教会はプロテスタントなので個人的にはカトリックよりなじみがあります。また、ちょうど数週間前、こちらでキリスト教の学校をテーマにしたイベントがあり、礼拝堂にも入ったのでなんとなく縁を感じていました。スケジュールを調べると毎日のように礼拝などが催されているようでしたが、日曜日の礼拝が充実している予感です。
 ある夏の日曜日、ちょうどミッション系の女子高生が教会に入っていく後ろをついていきました。一緒に入ると母親と思われそうなので適度な距離を開けながら……。入り口で、はじめての人は記名するように言われましたが、再訪問だったのでそのまま中へ。年齢層が高くて、まじめで敬虔な方々が集っている印象です。前の席のシルバーヘアの女性が、若い男性に何回目だとか、青年会には参加しているのかとか、質問していて、一見の客が来ても大丈夫だったのかという思いがよぎりました。実際、最初に座ろうとした席は「ここは礼拝当番が座ります」と、またもや異分子であることがバレて、席を追われる羽目に……。
 おとなしそうなおじいさんの隣に座ったのですが、このおじいさんはただものではなく、礼拝中に朗読する言葉や讃美歌などだいたい暗記していて、それぞれの椅子の前の「礼拝のしおり」を一切見ていませんでした。プロ信者かもしれません。
 私の方は聖書も讃美歌も祈りも、パンフなどを参照しなければついていけません。中高はミッション系で毎日礼拝がありましたが、前世といってもいいくらい昔なので全然覚えておりません。牧師のナビゲートで、立って歌ったり、また座って話を聞いたりを繰り返しながら、礼拝は足腰を鍛えるので老後に良いかも知れないと感じました。
 そして心を癒やすのはパイプオルガンの調べです。以前、オルゴールヒーリングを受けたことがあり、その時、オルゴールやオルガンの音色を身体に響かせるのは健康に良いことを知りました。礼拝ではそれが基本、無料で(任意の献金で)享受できます。今回の日曜礼拝ではなんと歌う箇所が五回もありました。他の参列者の方々も密かに楽しみにしているのではないでしょうか? 讃美歌タイムでは皆さん声が大きくなって朗々と合唱されていました。
 ここで思わぬトラップが。中高時代は普通に音符を目で追って歌えていた讃美歌が、何十年ぶりに楽譜と向き合ったので、音符が読めなくなってしまっていたのです。なんとなく音符を見て、これがドかなという感覚はあるのですが、なぜかほとんどの讃美歌が、和音で譜面に表示されていて混乱。ますますどの音なのかわかりません。
 ただこんな時は、中高時代の礼拝で培ったテクニックが。オルガンの音色を聞いて0.1秒後に合わせれば、音符が読めなくても、初見の歌でもなんとなく歌えます。讃美歌はテンポがゆっくりでメロディも繰り返しが多いので、譜面でリズムだけでも確認すれば乗り切ることが。そんな風に、おぼつかない感じながらも久しぶりに讃美歌を歌えて心が洗われました。
 礼拝で重要なのは、聖書の教えです。この日は民数記第22章の箇所が読まれ、若い伝道師の男性による解説がありました。礼拝で聖書を読んできたことがあっても全編は網羅されていないので、今回もはじめて読む箇所でした。その内容は、古代に現存したバラムという呪術師で預言者の男性が、ロバと会話するという、スピリチュアル好きにとっては心掴まれる話でした。バラムがイスラエルを滅ぼすために呪う仕事を引き受け、ロバに乗って進もうとしたら、神の使いに道を阻まれ、ロバは道から逸れて畑に入ってしまいます。怒ったバラムがロバをムチや杖で打つとロバが「私があなたに何をしたというのですか」と切々と抗議するという……こんなシュールで興味深いシーンが聖書にあったとは。礼拝に参加できたおかげで再発見できました。今さらですが世界史にも興味がわいてきます。バラムはロバに抗議され、前を見たら天の御使いが道を阻んでいたのでひれ伏したそうです。そしてその後、イスラエルを呪わず、祝ったとのことです。
 その後のお祈りでは、「私は日常の中で人を祝福するための道を歩んでいるでしょうか。あるいはバラムのように人を呪う道を歩んでいるでしょうか」という問いかけがなされ、ハッとしました。そして知らずのうちに人を呪っているかもしれない罪を許してもらえるよう、神に祈りました。
 短いながらも実りが多かった礼拝の時間。しかし最後まで油断できず、はじめて来てノートに記名した人の名前が読み上げられ、立ち上がって顔見せして拍手されるという展開が。名前を書かなくて良かったですが、挨拶をスルーしたことを神に許してもらえるでしょうか……。またもや罪人としての自分を実感しました。
(第39回へつづく)

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辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

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