双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー(辛酸なめ子)

第35回 地球クリーニング 前半

 自分の身の周りを掃除し、きれいにするのは精神衛生上とても良いです。空間の乱れは心の乱れ。人は一生身の周りを片付け続けなければならないのです……。それは重々承知しているのですが、家は大量の本や資料で片付けても片付けても追いつきません。また、先日は久しぶりにクローゼットを整理し、古着を某大手ファッションサイトの買取部門に送ったところそのうち10点以上が0円という査定が出てしまい、心が折れかけました。自分の部屋の掃除はいったん保留にして、外界に目を向けていこうと思います。
 「自然をリスペクトして、地球や海をきれいにすることに取り組むべきです」最近、アメリカ人サイキッカーのレーネンさんにアドバイスされた言葉が心に残っていました。このところ天変地異、異常気象や地震が続いているのが心配でした。レーネンさんいわく、地球が怒っているので、もっと環境について考えた方が良いそうです。「人間は自然をコントロールしようとしているけれど、そうではなく、人間は環境のケアをするために存在していると思った方がいい。人間は地球の番人になるべきです。小さなことから、ゴミ拾いからでもやったほうがいいでしょう」
 そんな話を聞いてしばらく経ったある日、銀座の交差点の脇の茂みでバイク乗りの男性が、ゴミを拾っているところに遭遇。その自然な行動がとてもかっこよくて、私も何か地球に良いことをしたいという思いが芽生えました。地球の怒りを鎮めるためにも、きれいにする活動がしたいです。ただ、ひとりでゴミ拾いするのは、不審者と思われないか心配で、何かボランティア団体に参加したいと思い検索。NPO団体にたどりつきました。「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに2002年から街のゴミ拾い活動を行っているgreen birdという団体です。ある日の午前に、ひとり参加してみました。待ち合せ場所の表記が「旧コンドマニアの裏」とあったので、チャラい団体だったらどうしようと思いながら待ち合せ場所に行くと、運動部らしきマッチョな学生団体や若い女性、美容師風の男性など数十人が集まっていて、年齢の幅も広く、単独でも参加できる感じでした。団体の若い男性がその日のチームリーダーだったのですが、わりとイケメンな方で、善行をしていると顔立ちが整ってくるのでしょうか……。そんなことを考えながら、緑のゼッケンを身につけ、トングと袋を持って表参道へ。マッチョな男子学生が「先週に続いて参加しました。今日もたくさん吸い殻を拾いたいです」と意気込みを語っているのが聞こえます。大人数でやるからこそ、競い合ってたくさんゴミを拾えそうです。スポーツ感覚でゴミ拾いを楽しめます。
 吸い殻専用の袋、燃えるゴミ用の袋、燃えないゴミ用の袋をそれぞれ持って、トングで拾っていきます。リーダーが、交差点や駅前、駐車場など汚れているポイントに引率しながら、道中「今話題のタピオカのカップが落ちてるよ。燃えないゴミの人〜」などと声をかけてくれます。私はタバコの吸い殻を重点的に拾いました。普段ひとりだったら吸い殻が落ちていても目に入っていないですが、意識すると視界にどんどん入ってきます。最初はちょっと汚い感じがしたのですが、拾い続けるうちに無心になって、できるだけ多く拾いたいというゲーム感覚になっていきました。燃えるゴミの袋を持っていた若者は、明治神宮のおみくじとかUSBケーブルとか珍しいものを拾っていました。私は喫煙所や駅前に座っている人の間にも入って黙々と吸い殻を拾い続けました。外国人観光客がいたりすると、日本人の清潔度を見せつけるように。ちょっと淋しかったのは、喫煙所で喫煙している人など無表情でタバコを吸い続けていて、一言くらいねぎらう言葉をかけて欲しかったです。都会人は冷たいです……。でも、最後に参加者の男子大学生に「持ちますよ」と、ゴミ袋を持ってもらったのは老婆心がだいぶ満たされました。
 1時間半くらいゴミ拾いをして、最後、吸い殻数を計測。ひとりずつリーダーに本数を聞かれて「124本です」「次!」「76本です」「次!」「119本です」と、点呼に答えて本数を報告。体育会系っぽいです。ゴミ拾いは永遠に終わらない部活のよう。私が拾ったのは160本で結構いい数字かと思ったら、180本とか拾っている男子学生がいました。合計で1971本。「今までで一番多いですが、喜べません。それだけポイ捨てをしている人が多いということです」と、リーダー。一週間でこれだけ増えたそうで、モラル意識が問われます。
 でも、皆でゴミ拾いしたあとの表参道は拾う前と空気が変わっている気がしました。波動が上がったというか……。そしてゴミ拾いしている間は、気持ちがずっとポジティブだったことにも気付きました。終わった後のすっきりした感と多少のドヤ感を含めて、ゴミ拾いの心への良い効果を体感。正しく自己承認欲求が満たされて、自分が存在している意味があるように思えてきました。自己評価や自信が足りなかったのが、少し復活したようです。落ち込んだりもやもやしている時にゴミ拾いはきくことがわかりました。男子大学生にまみれて精気を吸収できたというのも大きかったです。
 
(第36回へつづく)

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辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

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