双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー(辛酸なめ子)

第23回 贈答ヒーリング 前半

 いつの頃からか、人にちょっとしたものをさしあげることで、ひと時の充実感を得られるようになりました。ふだん自己評価が低めだからか、何かをあげた時に喜ばれたり、お礼を言われることで、自分の存在価値が得られた感じがするのです。
 でも、ある時、毎回お菓子とか手土産を渡していた仕事相手の人に
「なめ子さんは、気が利く人だと思っていましたが、もしかして自分が気持ちが良いから手土産をくれるんですか」と言われて、見抜かれたようでハッとしました。
 だいたいおっしゃる通りかもしれません。人に何かプレゼントすることで、まず、好意や歓心が得られる(気がする)、というのと、受け渡しの間だけその場の空気を自分のものにできる、というのと、しばらく承認欲求や満足感に浸れる、などといった良いことがあります。100万円を100人にプレゼント企画をぶち上げ、フォロワーという人気票を増やしたZOZO TOWNの前澤社長の気持ちもちょっとわかります。
 ただ、人間は勝手なもので、人に何かあげたことはいつまでも覚えているのに、もらったものはすぐ忘れてしまいがちです。以前、友人に「この前のお土産、使ってくれてる? 」と聞かれて、何をもらったか思い出せず、ムッとさせてしまったことなどあります。
 私は人に何かさしあげたら、ちゃんと使っているかなど確認はしないで、できるだけ恩着せがましくしないように心がけています。むしろプレゼントさせてくれてありがとうございます、という気持ちでいたいです。実際、誰かに感謝されることで心の安定を得ているのですから……。
 年末年始や入学の時期など、小さいお子さんや親戚の子などに金品をあげないとならなくて、大変だという方は多いでしょう。でも、逆にあげる相手が誰もいないとしたら……それはそれで淋しいです。私など、子どもだけでなく姪や甥もいないので、この年までお年玉をあげたことがありません。子ども時代にもらいっ放しです。何か社会に還元しなければと焦ってきます。
 10年ほど前から毎月途上国の子どもをサポートしていて、一人目はパラグアイの少女を学校卒業まで援助させていただき、今は二人目でウガンダの少年です。辛いことがあった時、その少年の写真を見て、世界のどこかに私に感謝してくれている人がいる、一人でも味方がいる……と思うことで勇気づけられています。また、しっかり仕事して、送金を絶やさないようにしなければ、というモチベーションにもなります。結局自分が得られるものの方が大きいです。
 また、女性はある程度の年齢になると、やたら人にものをあげたくなるのかもしれません。カフェで隣のマダムが女友達に「これ、京都で買ったちりめんじゃこなのよ~」などと紙包みを渡して満足げにしているシーンをたまに目撃します。知り合いの男性が「あげたがりおばさんっているよね~」とげんなり気味で語っていたので、やたら押し付けがましいのはうざがられてしまうようです。私の実感では、三十を超えたあたりから、会食の席の終盤に、手土産交換が行われることが多くなり、何も用意していないと気まずいことになってしまうので油断できません。食事会に参加する場合は、事前の人数確認がマストです。先日の会食では、1人だけ何も用意していなかった人がいて、かえってその人に申し訳ないという思いになりました。それと同時に、自分一人が何も持っていかなかった場合を想像すると恐ろしいです。何もさしあげるものがない時用に、クオカードでも常備しておいた方が良いでしょうか?
 ふと思い出したのは、子どものころに読んで潜在的に影響されている気がする小説「幸福な王子」(オスカー・ワイルド)です。博愛の心を持つ王子の像が、貧しい人々に自分の体を覆う金箔や宝石を与えていくという自己犠牲のストーリー。最後はみすぼらしい姿になって打ち捨てられますが、神様が見つけて天国へ引き上げられるのです……。あらすじだけでも泣けますが、人に何かあげることで善行マイレージを積み、最終的に天国に行きたい、という思いが自分の内にもあるのかもしれません。
 
(第22回へつづく)

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辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

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