双葉社web文芸マガジン[カラフル]

無心セラピー / 辛酸なめ子・著

第11回 暑さを乗り切る方法 前編

 心を整えるためにはまず体を整えないと、と今年前半の体調不良で痛感しました。体調が悪いと病院よりも神仏頼みになってしまいます。
 先日、掲示板でインパクトの強めのポスターを見つけました。「ほうろく灸」というもので、参加者が本堂で頭に皿を乗せ、その上でもぐさが燃えているというシュールな光景。夏バテや頭痛を封じる効果があるとされているそうです。江戸時代から続く民間療法だとか。写真を見た瞬間、ここに行かなければという思いにかられ、数日後、浅草の外れの長国寺へ。住所は千束になり、吉原とも近いです。遊女カルチャーに思いを馳せつつ、吉原の風俗店名をさり気なくチェック。「プレシャス」「プレジデントクラブ」「ビッグマン」など景気の良い名前が多いです。長国寺は寛永の時代に開山された、由緒ある法華宗のお寺。隣には毎年酉の市で参拝する鷲神社が鎮座しています。お参りしたら無料のお茶コーナーまであって下町の人情に感じ入りました。
 長国寺の境内では、あじさい祭が開催。珍しいあじさいが100種類ほど展示されています。あじさいは有毒植物と聞いたことがあり、遠巻きに眺めていたら、老女があじさいの育て方を教えてくれました。「種をまいて育てるのは大変だけど、ヨーグルトの空き容器に挿し木を入れると簡単よ。鉢に植えるとカタツムリが入ってくる」とのこと。庶民的なアドバイスに和みます。
 ほうろく灸は随時受付していてご祈祷料は2000円。都心の別のお寺では3000円だったので安いです(このお寺まで浅草からタクシーに乗ってしまいましたが……)。
 同じ時間に受ける人たちと待合室で待機し、時間になったので本堂へ。ひとり一枚、呪文のようなものが書かれた紙と、ほうろくと呼ばれる素焼きの皿を渡されます。こちらの皿が結構な重さ。
 恰幅がよくて病魔退散させてくれそうなお坊さんが、ほうろく灸について簡単に説明してくださいました。
「ほうろくを頭に乗せて、もぐさに火をつけて百会を刺激します。百会のツボは自律神経を調整します。10分から15分お経をあげます。熱くなったらご自身で調節してください」
 そしておもむろに始まった読経。皿を頭上に乗せて両手で支えます。これが結構きつくて、時折傾くとお寺のスタッフがなおしにきてくれるのですが、周りの方々はほぼ微動せず、ずっと両手を上げ続けています。ほうろくリピーターなのでしょうか。頭上のもぐさも結構熱いですが、それよりも腕が痛くて、熱さにフォーカスしないままお経は佳境に。お坊さんの太鼓と読経が激しくなり、私は一番前の真ん中に座っていたのですが、大柄なお坊さんに真言を大声で唱えながら目の前に巻物をかざされました。悪霊退散されそうです。病気のもとの邪気を滅するような力強い術。太鼓が鳴り響き、若いお坊さんが前に三人並んで、火打ち石を鳴らしたり九字を切ったりする調伏姿に中二心的に萌えました。その後の優しい講話とのギャップも良かったです。
 儀式後は全員に葛としょうが入りの薬膳きゅうり汁がふるまわれました。かなりおいしくて癒されました。本堂を出ると、おそろいのTシャツ姿のおばさん方が延々と踊っていました。半ばトランス入ったような女性たちを見ていたら、盆踊りも無心になれそうで魅力的です。
 ほうろく灸の効果はというと、想像以上にすっきりして体が軽くなりました。やはり邪気がたまっていたのでしょうか。頭の芯のもやもや感もなくなりました。毎年の新しい習慣になりそうです。
 それにしても一年を通し、大祓や朝顔市、酉の市など寺社の儀式に結構捧げています。実際効いているかどうかははっきりわかりませんが、これは自分にとって保険みたいなもの。ほうろく灸はきゅうりの汁物だけでなく、御札やあじさいのお守りまでいただけて結構リターンが大きいです。なんて、俗な考えがよぎったことを反省いたしました。

(第12回へつづく)

辛酸 なめ子Nameko Shinsan

東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。芸能界やスピリチュアル、オカルトなど多数のジャンルを独特な目線で描き人気を博す。『辛酸なめ子の現代社会学』『大人のコミュケーション術』『おしゃ修行』『魂活道場』など著書多数。

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