双葉社web文芸マガジン[カラフル]

心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス(ルビー・ワックス)

Photo ©Steve Ullathorne

第3回
思春期の子どものための
マインドフルネス

【編集部より】  前回に引き続き、この記事は、書籍『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』(ルビー・ワックス著/上原裕美子訳)が刊行されるのを記念して、原書『A MINDFULNESS GUIDE FOR THE FRAZZLED』より、書籍に収録できなかった、育児疲れや産後うつなどで「FRAZZLED(心がヘトヘト)」な方のための章を抜粋、再編集したものです。なお、ところどころに著者の独白や回想が入ります。
 19世紀の著名な心理学者、ウィリアム・ジェームズは、こんなふうに書いています。
「さまよってしまう注意を自分で、しかも繰り返して引き戻せる能力は、判断力、人格、意思力の根幹となる。この能力を向上させる教育こそ、質の高い教育と言えるだろう」
(いいセリフね。私が言ったことにしたいくらい)

 ホントに、学校でぜひマインドフルネスを必修にしたらいいと思います。文法や作文、その他もろもろの科目(私は全部で落ちこぼれてたけど)のついでに、社会性と情緒にかかわるスキルも学べるなら、生徒が非行や、自己破壊的な行動や、薬物乱用に走ったりする確率は低くなるはず。精神的な病気も、自殺も、きっと減らせることでしょう。政府の偉い人がこれを読んで考えてくれたらいいんですが。
 若い世代が「自分が」「自分が」にならない生き方を学んでいけば、私たちの世代がわが物顔で踏みちらかした地球環境も、彼らが救ってくれるかもしれません。私が思うに、「感情知性(EQ)」を身につけるというのは、人間を含むほかの生き物とのかかわり方を学び、信頼関係を築き、そして――私が苦手な言葉をあえて出しますが――思いやりをもつことを意味しています。
 現代人はこのスキルが得意ではないため、どんなに賢くても、情緒面で発育不良ということがあるようです。頭がよくて世間的にも成功してるのに、周囲をひどくひっかき回して自分はまったく気づかない、なんてことになりがち(巨大詐欺事件を起こしたエンロン会長のバーナード・マドフや、インサイダー事件で有罪となった〝カリスマ主婦〟のマーサ・スチュワートも、その例かも)。
 現代の子どもは、よい成績をとるために、とにかく情報をたくさん詰め込まされています。暗記して試験に合格しさえすれば、内容を理解してなくても、おかまいなし。でも、過度なプレッシャーを受けた脳内でまっさきに焼き切れるのは、ほかでもない記憶力です。
 成績のために極限まで追い込まれ、試験が終わったら何も覚えてないのだとしたら、物事を学び、身につけ、将来に活かしていくことなんて、期待できませんよね。それどころか、脳が地雷となって、のちの人生で耐え難いプレッシャーがかかったときに、一気に爆発してしまうかもしれません。
【ちょっと私の回想を……】  私は歴史に興味があったんです――メソポタミア文明の知識を一夜漬けで暗記させられたあげく、試験で「D」をとるまでは。歴史が好きだなんて二度と言わなくなりましたし、メソポタミアは私の人生から永久追放。もったいないことですけど。ほかにも興味をもった科目はいろいろあったけど、結局は詰め込んだ知識を制限時間内で答案用紙に吐き出して終わりなんだ、と悟ったので、勉強への熱意は早々に消えてしまいました。
 こんな環境じゃ、心や頭が刺激を受けてすくすく伸びていくなんて、そんなこと起きるわけがありません。中学へ、高校へ、大学へ、ただ進学していくだけ。つねに「次のレベル」を目指すだけ。私もいろんな情報を浴びせられたけど、エッセイ1本書くにも、昔の知識を活かせたためしがありません。歴史も、数学も、外国語も、学生時代にさんざんだった科目は、今もちんぷんかんぷんです。
 合格していくだけの人生に学びはあるのでしょうか? 失敗しない人生が〝よい人生〟なのでしょうか? やってみて、失敗して、またやってみて、またつまずいていく先に、本当の実りがあるはずです。人生の最後にたたえるべきは、成果や成功ではなく、逆境の中でも挑戦しつづけてきたかどうかだと思います。
 新しい発明やイノベーションも、最初はかならず他人にバカにされるものです。自分にオリジナリティがないからといって、他人の独創的なアイディアにケチをつけたがる人はたくさんいます。だからこそ教育現場では、作文の誤字脱字ばかり気にするのではなく、自分の意見やひらめきを思い切り表現することを教えてほしいのです。
 モーツァルトが偉大なのは、「メソポタミア」というつづりを正しく書けたからじゃありません(メソポタミア人だって書けなかったはず)。答案用紙に書いて翌日には忘れてしまう知識の丸暗記ではなく、小さな頭で想像の翼を思い切りはばたかせることを教えていってほしいのです。重さを計るだけでブタが肥えていくわけではないように、試験をするだけで子どもが成長するわけがありません。
 ついでだから言いますが、学校は「失敗の技術」という科目を作るべきだと思います。失敗したときの向き合い方を、できるだけ早いうちに身につけておかなくては。何しろ、大きくなるにつれ、つまずく機会は山ほど出て来るのですから。学校を出たあとも自分が一番だと本気で信じ込んでいたら、いつか第三度熱傷レベルの大やけどをするかもしれません。
 高校で一番人気のチアリーダーだった子が、のちに人生を転落していくようなものだと思ってください。広い世界に出ていくための学びに背を向けていると、そうなってしまいます。いつまでも元気と生意気で押し通せるわけではないのです。かわいく笑ってるだけの戦略も、45歳じゃ通用しません。
《子どもたちへ伝えたいこと――卒業式祝辞から》
 うちの子が通った中等学校の卒業式で、なんと私が祝辞を読むことになりました。前年は俳優のダニエル・クレイグが祝辞を贈ったのですから、すごい落差ですけど。ともかく、私は「失敗を受け入れること」について語ろうと決めました。一部を紹介します。
 私は落ちこぼれでした。入学当初の成績はDだらけ。だんだんCもとれるようになったけど、家庭への通信欄に「この子は犯罪者的な気質がある」と書かれるような子どもでした。ある先生には、「ルビーの思考回路は、いつか牢屋行きになるタイプそのものです」と書かれたくらい。まぁたしかに、その頃の私の得意科目といったら、悪ふざけと、女子トイレでこっそりタバコを吸うことだったんですけどね。トイレの個室で、クラスメートの耳にピアスの穴をあける商売もしてました。
 授業を受けずにすむためならなんでもやりました。天井の照明器具の中に魚を放り込んだこともあります。学校中が生臭くなって、避難しなくちゃいけなくなったけど、臭いの発生源も犯人も最後までバレませんでした。理科の実験で爆発を起こして、学校をちょっと燃やしたこともあります。
 家庭環境に問題があった私は、勉強に集中する力がなかったので、英語の授業はかなり低いクラスに入れさせられました。お気に入りの詩を朗読するよう言われても、クラスじゅう誰も詩なんか知らなくて、ヒットソングの歌詞を朗読するのがせいいっぱい。大学進学適性試験(SAT)を受けたときも、あまりに点数が低かったので、母は採点機械が壊れてると思い込み、再受験させようとしたほどでした。でもね、私が解けなかった設問がどんなレベルだったか教えましょうか。
「仲間外れを答えなさい。サイ、イヌ、鷲、アーティチョーク」
 答えられませんでした。だって、違いがわからなかったんです。
 こんなにダメな子だった理由は、私が周囲に見放されてたからだと思います。たしかに私は問題児だったけど、学校というところに通う本当の目的は、好奇心をもって探求していくためではないのでしょうか。好奇心をもちつづけていれば、よい成績をとれなくたって、きっと輝いた人生を送れます。人間がほかの動物より優れているのは、好奇心と探求心が強いからです。それなのに、たくさんの人が、好奇心を使っていません。持ってるのに、使わずに腐らせています。疑問をもって問いかけていこうとしない人がどんなに多いことか――賢くて、IQがトップレベルの人でも、そうなんです。
 私に言わせれば、好奇心をはたらかせないなら、頭が悪いのと同じこと。生まれたときには好奇心をいっぱい持ってるのに、いつなくしてしまうんでしょう。小さな子はなんでも知りたがります。貪欲に、どんなことでも、とにかく探っていきます。それなのに学校に通うようになると、成績ばかり気にして、好奇心の火が消えてしまうのです。あっというまに。
 いい成績をとればいい大学に入れる、というのは私にもわかります。そうしたらステキな合コンにも行けるでしょうしね。でも、成績競争に夢中になったり、もっと悪いことに親から成績プレッシャーを受けすぎたりすると、すばしこいウサギをつかまえようとするみたいに、目の前の獲物をずっと追いかけてくだけで、欲しいものに永遠に手が届かない人生になるかもしれません。
 目標を達成したとしても、それは充実感のためじゃなくて、ただ競争に勝ちたいだけ。お金のためとか、親や誰かに見せつけたいとか、そんなことだけに頑張ってる人生は、いずれほころびるときが来ます。自分が本当に好きになれるものを見つけてこそ、人生は生きる価値があるのではないでしょうか。
 さいわい、この学校にいる先生方は、皆さんひとりひとりの好奇心に火をつけてくれたことと思います。私の場合は、何か別の地雷に火がついちゃったみたいで、ある時期を境に、テレビタレントとしての人生を続けられなくなってしまいました。2年ほどひどく落ち込んでいたんですが、そういえば心理学が好きだったと思い出して、「うつ王国」を脱出する最終便になんとか乗り込み、学校に入って心理学を勉強しました。このときは誰にも成績のことでうるさく言われたりせずに。
 私でも思い切った一歩を踏み出すことができたんですから、誰でもできるはずです。大事なのは、ちゃんと失敗して、ちゃんと立ち上がっていく力を身につけること。箱に押し込まれてきゅうくつだと感じるなら、自分で新しい箱を発明しちゃえばいいんです。
 最後に、私の大好きな言葉を紹介します。
「今回の人生は、ただのお試し。これが本番だったら、行先も行動もきっちり指示が出てるはず。だから今は試してみればいい」
 一瞬一瞬を、自分に素直に生きてください。
【実践編①】思春期の子にマインドフルネスを教えよう
 最近になってようやく、生徒にマインドフルネスを指導する学校も増えはじめています。女優のゴールディ・ホーンの提唱で始まった「マインドアップ」という教育プログラムが、アメリカでかなり成功して、ここイギリスでも導入されるようになりました。ほかにも、イギリスの教育現場でマインドフルネスを教える試みとして、教員によって発明された「.b(以下、ドット・ビー)」というプログラムが成果を出しています。
 このプログラムでは、実践的に指導できるよう、まずは教員自身が8週間のマインドフルネス訓練コースを受けることになっています。.bの対象は中等学校の生徒(11歳から18歳)ですが、初等学校(5歳から11歳)を対象とする「Pawsb.(ポーズ・ドット・ビー)」というのもあって、こちらはアニメや映画やゲームなどを使用します。
 なお、ウェブサイトで、エクササイズ内容をダウンロードできます。
 この本では、ドット・ビーのプログラムの中から、家庭で親から子に指導できるエクササイズをいくつか紹介します。親子対決にはならないよう注意してくださいね。
脳は聞き分けのない子犬  ドット・ビーでは、好き勝手に飛び回ってしまう思春期の思考回路を、聞き分けのない子犬にたとえています。子犬は大暴れしたり、キャンキャン鳴いたり、飼い主に飛びついてきたり、つま先にみついてきたり、基本的にはずっとはしゃぎまくり。飼い主におもちゃを運んで役に立とうすることもあるけれど、運んでくるのは古くなった歯固めとか、バラバラにちぎれた人形とか、そんなのばかりです。これは人間の頭をよく表しています――何か考えようと思っても、思考はしょっちゅう関係ないものを運んでくるのですから。
 プログラムでは、こんな問いを考えさせます。
「子犬を叱り飛ばして言うことを聞かせようとしたら、どうなるかな?」(答えはたとえば「犬は走って逃げてしまう」など)
「飼い主が子犬を無視してたら、どうなるかな?」(「えまくって、飛びついてくる」)
 飼い主が「ちゃんと集中しなさい」と命令しても、ワンしか言えない子にとっては、わけがわからないことでしょう。思考も同じです。むしろ子犬より大きな騒ぎを起こすこともあります。頭の中の落ち着きのない子犬を叱り飛ばすのではなく(余計に落ち着かなくなるだけ)、おだやかに、やさしく扱わなくてはなりません。
 親であるあなたが声をかけて導く形で、子どもにこんなエクササイズを体験させてみましょう。
エクササイズ① 注意を払う
 意図的に注意を払う練習です。まず、床にあぐらの姿勢で座ります。背骨を真っ直ぐにして、身体からだは固くせずに。つま先に意識を集中するよう促してください(一度に片足ずつがよいでしょう)。身体のいろんな部分に1カ所ずつカメラをズームしていく気持ちで、そこで生じている感覚を調べます。チクチクする? ピリピリする? 脈打ってたり、しびれてたりすることもあるかもしれません。
 身体の部分に考えることと、感覚を感じること、その違いを察する力が磨かれていきます。何も感じないならそれでも問題ないと伝えてください。少なくとも、何も感じないと気づいているのですから。
 細い光のビームを送る感じで、身体のパーツ一つひとつに注意を送ってみます。手(できれば指の1本ずつ)、足(足の指1本ずつ)、右膝、左肘、右の耳たぶ、左の目……。
 そして鼻。鼻孔から空気が出たり入ったりするのを感じます(出入りする空気は冷たい、それともあたたかい? 呼吸はゆっくり、それとも早い?)
 最後に、想像の懐中電灯で、身体全体を照らしていきます。息を吸って身体が膨らみ、息を吐いて身体が縮み、またふくらみ、縮むのを感じます。
 目を開き、しめくくりに全身のストレッチをしましょう。
エクササイズ② 2分間チャレンジ
 身体の中で一番呼吸を感じる場所に意識を集中するよう促してください。鼻、おなか、胸など。難しければ、呼吸を数えるだけでもかまいません。「吸って、吐いて」を1回と数えて、10回を1セットとして、好きなだけ繰り返します。目標は2分間、呼吸に意識を集中することです。気が散りはじめたら、子犬をやさしくしつける感じで意識を引き戻します。注意を定めて維持する練習です。
モンキーマインド  今度は、ぐちゃぐちゃになった頭に落ち着きを取り戻すことを学びます。頭の中は大自然だと想像してみましょう。1匹のサルが枝から枝へ、一心不乱に飛び移っています。思考もそんなふうに、この考えから、あの考えへと、落ち着きなく飛び回っています(これを「モンキーマインド」といいます)。イライラしたり、頭の中のサルを無理に抑えつけようとしたら、余計に暴れるだけだと気づけるようになりましょう。
エクササイズ③ 足は床、お尻は椅子
「足は床、お尻は椅子」を、子どもとの合言葉にしましょう。頭の中でサルが飛び回っていると気づいたときの応急処置です。身体にいかりを下ろして、注意を引き戻します。
 床か椅子に座って、床についている足、椅子に接しているお尻に、意識を向けてみましょう。靴下、靴、かかと、足の裏がどんな感触か意識します。それから、床や椅子に触れているお尻に集中します。懐中電灯(心の目)で身体全体を照らすと想像してみましょう。
エクササイズ④ 呼吸を意識する
 モンキーマインドのときに使うテクニックとして、呼吸に注意を払うのも有効です(ゆっくり吸って、ゆっくり吐く)。頭の中で飛び回るサルを止めようとか消そうとかせず、ただ観察します。しばらくしたら、サルは疲れてスローダウンしていくでしょう。思考も勝手に跳ね回っているだけで、深刻に受け止める必要はないと気づけるかもしれません。ただサルみたいに騒いでいるだけなのです。
反芻はんすう思考 「なんであたしだけパーティに呼ばれなかったの? きっとみんなあたしのこと嫌いなんだ。あたしだって自分のこと好きじゃない。だって、みんなに変人扱いされてるんだもん。のけ者にされる理由はきっと……」
 こんな考えがぐるぐる頭の中で渦巻いて、眠れなくなることがあります。考えがエンドレスで堂々巡りすることを、「反芻思考」といいます(誰でもそうなるときがあります)。
「反芻」という言葉は、もともと、牛が草を消化するためにずっと噛んでいることを指しています。延々とモグモグして、ようやく飲み込んだかと思うと、また口の中に戻してモグモグ。考えが堂々巡りになるときは、脳内で同じことをしているわけです。生涯ずっと、モグモグしっぱなし。
エクササイズ⑤ 寝ながら瞑想
 堂々巡りの思考で眠れなくなったときのエクササイズです。人に好かれない理由をあれこれ考えるかわりに、寝たままボディスキャン(注1)をやってみましょう。親は声かけだけじゃなく、並んで一緒にやってみてもかまいません。仰向けになり、腕は身体の横に。まず、呼吸を意識して、身体の中で呼吸を感じる場所に注意を向けます。長く、ゆっくり、深く呼吸をしながら、吐くたびに身体がベッドに沈みこむのを意識します。緊張はそのまま下に流れ落ちていくと考えましょう。身体全体を感じて、腕、足、胴体、肩、首、頭に意識を向けます。
 緊張してる部分があったら、そこに息を吹き込むと想像してください。呼吸が入り込み、そして出ていきます。入り込むときに、緊張してる部分に意識を集中し、出ていくときに、それを手放すと想像してみます。
 緊張が消えないなら、できるだけ意識を頭から遠ざけて、足のほうへ向け、内側から自分の足を感じてみます。息を吸い、吐くたびに、身体が満たされて重たくなっていきます。うまくいけば、そのままいつのまにか眠りに落ちていることでしょう。
  • 注1:身体の隅々まで1ヵ所ずつ順番に意識を移動させること。詳細は『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』第5章を参照
エクササイズ⑥ 「今この瞬間」を意識する
「今この瞬間」という場所を見つけ、いつでも好きなときにそこへ行けるようになるためのエクササイズです。意識を使わずに、決まった動作をこなす「自動操縦状態」になっているとき、そのことに子どもが自分で気づけるよう、声をかけてみてください。歯を磨いてるとき、お風呂に入ってるとき、ゲームをしてるとき、思考がどこに行ってるか意識したことがあるか尋ねてみましょう。自動操縦のほうがいいときもあるけれど、つねにそうであってはいけないことを説明してください。(「今この瞬間」や自動操縦については本書第2章を参照)
「今この瞬間」に行く直線ルートになるのは、身体感覚に意識を集中することです。音に耳を澄ます、チョコレートをじっくり味わう、花の香りを嗅ぐ、カエルに触ってみるなど……。
エクササイズ⑦ マインドフルに食べる
 ふつうにチョコレートを食べたあとに、本当の意味でチョコレートを味わえてるかどうか、問いかけてみましょう。カケラを飲み込む前に、もう無意識のまま次のカケラを口に放り込んだりしてなかったでしょうか。これはまさに自動操縦状態の食べ方です。
 そこで、いつもと違う食べ方に挑戦してみます。チョコレートでもいいですし、本人が好きなものなら、なんでもいいので、一口サイズの食べ物を手に取ります。それを初めて見たつもりで観察するよう促してください。色、輪郭、形はどうなってるか。鼻に近づけて匂いも嗅いでみます。わざとスローモーションの動作で、食べ物を舌に乗せ、歯で挟み、そして噛んでみます。噛みながら、その味のこまかな特徴をじっくり感じ、味わいます。「今この瞬間」にいる動作です。
 人生はチョコレートだけが詰まった器ではありません――苦いものもかならず入っています。そうした場面で、子ども自身がそのことを意識できるようになってほしいのです。そこで今度は、嫌いな食べ物を使ってみましょう(オリーブとか。私は10代の頃はオリーブが大嫌いでした)。
 マインドフルにチョコレートを食べたときと同じ動作をしてみます。味が嫌いでも、じっくり観察し味わいながら、「何かを好きではない」という気持ちはどういう感覚がするのか探ってみます。食べたくない、吐き出したい、という欲求がどれほど強いものか、実感します。たとえ面白くないことでも、その体験に対して心を開く練習です。
エクササイズ⑧ 「考えてること=事実」じゃない、と学ぶ
 子どもに「クラウド・スポッティング」という遊びを提案してみてください。クラウド・スポッティングとは、雲を観察することです。空を見上げて雲を眺めていると、快晴でも嵐でも、重たい雲でも軽い雲でも、みんな流れて過ぎ去っていくのがわかります。頭の中の思考もそれと同じだと理解するエクササイズです。
 雲ではなくラジオだと想像してみるのも有効です。ラジオなら、自分から切り離した音声として聞き、流しっぱなしにして、あまり注意を払わずにいることができます。「僕はバカだ、出来損ないだ、誰にも好かれてない、僕だけおかしいんだ」という考えが頭から離れなくなったとき、この想像が役に立ちます。頭の中のラジオ音声として、流しっぱなしにして、自分事として受け止めません。ラジオの音量を上げたり、真面目に聞いたりしなければ、何も怖くないのです。
エクササイズ⑨ いやな気持ちとの向き合い方
 気持ちも、思考と同じように、来ては去っていくものです。いやな出来事が起きるのは避けられないとしても、それをいっそう悪くしているのは、自分の頭かもしれません。
 人体のイラストを描いて、子どもに、ストレスを受けたときに反応する部分にをつけてもらいましょう。
 試験を受ける、仲間外れにされる、自分だけ劣ってる気がするなど、ストレスの理由になるものをリストアップして、それが身体にどう影響してくるか書き出してみます。頭が痛くなるとか、汗が出て来るとか、心臓がドキドキしてくるとか、お腹が苦しくなってくるとか。その身体感覚だけに意識的に集中していれば、気持ちが少しずつ移り変わっていくことがわかります。
 それはただの感情であって、事実ではないのです。だからといって、目を背けたり押しつぶしたりしてはダメ。気持ちは実際そこにあるのですから、まっすぐに向き合って受け入れるしかありません。観察して受け入れるだけ。エサをやってはいけません。
【実践編②】ゲームもSNSもスマホもマインドフルに
 今の子はゲームとSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)ばかりですね。親がどうこう言ってやめさせられるものではありません。ゲームが子どもの脳におよぼす影響(よい影響も悪い影響も)を議論するのもいいですけど、ゲームが存在してることは変えられないですし、今後もますます広まっていくでしょう。だったらそれを逆手にとります。マインドフルネスなんか、学校だろうが家庭だろうが学びたくないという子に、ゲームを通じてマインドフルネスを教えてもいいかもしれません。特定の目標に集中して気を散らさない力を、ゲームで身につけるのです。
 私の息子のマックスはデザイナー兼プログラマーで、ストレス低減と感情知性育成を目標としたゲームの開発に携わっています。母だからって自分の子どもの話をわざとらしく持ち出すのは、私自身の母がよくやってたことで、私はそれが大嫌いだったんですが。
エクササイズ① 1日1フォトのマインドフルネス
 写真共有サイトのインスタグラムは、基本的に、「いいね!」の数で人気度を計るSNSです。ちょっとでも反応が悪いと敗北感でいっぱい。でも、このインスタグラムを、自分が注意を引かれた人や景色の写真をアップする場所にしてはどうでしょうか。自撮りばかりじゃなく、「今この瞬間」を感じさせてくれる写真、自分が本当に大切に思っている場面を載せるよう、子どもに提案してみましょう。
 足を止め、目の前のものと向き合い、それを写真に収めているとき、頭の中のノイズはきっと鎮まっています。それがマインドフルネスなのです。ふだんと違って、その場そのときのことをしっかり記憶するので、思い出をためていく方法としても優れています。こんなふうに撮ったマインドフル・フォトをシェアしていけば、見る人もきっとこのアイディアを理解することでしょう。
エクササイズ② スマホ依存をスマホで断ち切る
 デジタルというドラッグを一日中吸引してるみたいな依存症状態を断ち切るには、どうしたらいいでしょうか。スマホの着信音が鳴るたび、ついうれしくなってしまいます――誰かが自分のことを考えてくれてると感じるからです(間違い電話でも!)。だけど、音がやんでしばらくしたら、また寂しさと孤独感が戻ってきます。
 スマホがそばにある現実は変えられないのですから、逆手にとりましょう。注意を集中する必要があるときや、そうしたいときには、スマホのタイマーで集中時間をセットすることを提案してみてください。そしてスマホを遠ざけて、ツイートしたり、フェイスブックにアクセスしたり、絵文字メールを送ったり、写真を撮ったり、ネットフリックスを見たりしません。するべき作業に集中します。SNSなどをチェックしたい気持ちが強くなってきたのに気づいたら(絶対にそうなります)、その欲求を身体のどこで感じているか意識して、それからやんわりと作業へ意識を戻します。セットした時間でアラームが鳴ったら、それはお祝いのファンファーレです。みんなが盛大な拍手を送って、オーケストラとコーラス隊が華やかなメロディを奏でて、女王陛下が集中力を讃える言葉をくださると思いましょう。
 タイマーでセットする時間は、できれば1日ごとに少しずつ長くしてみます。1週間に1日はお休みにしましょう。この習慣の一番いい点は、スマホで気が散るのを防ぐために、スマホを活用するところ。インスタグラムと一緒で、win‐winにするというわけです。
《思春期の揺れは仕方がない》
 人間なら誰でも思春期に心が揺れる時期があります。大昔の人間だってそうでしたし、これからだってそうでしょう。アフリカに生まれてもスウェーデンに生まれてもニキビに悩むことはありますし、女の子なら11歳から18歳くらいまで、男の子なら13歳から24歳あたりまで、何かと気持ちが不安定な時期を過ごします。なかには、ずっと不安定なままの人もいます。
 親にとっては、思春期の子を育てる苦労に比べると、「魔の二歳児」の育児なんてハワイのバカンスに思えるかも。でも、子どもは親を苦しめたくてわざと支離滅裂しりめつれつな行動をするわけじゃありません。この時期の脳は変容している最中なのです。だからどうか、「うちの子はナマコみたいに怠け者だ」とか、「手が付けられない」とか言って投げ出さないで(あなただって昔はそうだったはずですし、親は同じようにあきれ返っていたはずです)。
 本人はまだ、自分をコントロールする方法がわからずにいます。憎たらしい悪ガキになったかと思うと、次の瞬間には、甘ったれのいい子になったり。生まれたてのライオンと生活してるみたいな気がするかもしれませんが、この時期は誰でもこうなると理解していれば、親としても少しは気が楽になるでしょう。年齢なりの発育をしてるんですし、将来的に道を踏み外すと決まったわけではないのです(うちの両親は、私のことをそう思ってましたけど)。
 脳内で神経学的に起きることは本人にはどうしようもない。そう理解していれば、思春期の子を育てるストレスはかなり軽くなります。
 前の章で、赤ちゃんの時期に親が脳を作っているという話をしましたが、たとえその役目をうまく果たせなかったとしても、思春期頃に挽回可能です。神経結合の再配線が行なわれていて、いらない結合を捨てて、新たな配線を敷いているのですから、そこで脳の形成を手伝うチャンスがあります。この頃の脳内では幼い頃とは明らかに違う回路が生じているのです。
 生まれた直後に猛烈な勢いで増えたニューロンは、森が雨を受けて育つように、たくさんの情報を受け止めていきます。森でなければスポンジのように、目や耳を通して入って来ることすべてを吸収するのです。
 そして思春期になると、ふたたびニューロンが一気に成長し、脳内の再配線を行ないます。同時に化学物質やホルモンの変化が起きます。脳内の変化は環境の影響や親のしつけとは無関係に起きるものであって、それを親が止めることはできません。どんなに大声で叱りつけたって、思春期の脳内で噴出しているテストステロンやエストロゲンの波は抑えられないのです。
 そもそも胎児の時点で、女の子ならエストロゲン、男の子ならテストステロンが多くわき出しています。男女がどうしてこうも違うのか、ホルモンの違いを説明する本は星の数ほど出てるので、わざわざ書く必要はありませんが、テストステロンは主に衝動性や攻撃性、それから巨乳への執着を生み出し、エストロゲンのほうは、恋に落ちたりめたりする気まぐれな感情をつかさどっています。そして男の子でも女の子でもホルモンの大きな変化が起きるので、あなたの子どもが英王室のプリンセスになったり、次の瞬間にはチンギス・ハーンになったりするのも、仕方のないことなのです。
(第4回へつづく)

ルビー・ワックスRuby Wax著者

1953年アメリカ生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で心理学と演劇を学び、中退し渡英。ロイヤル・シェイクスピア劇団で舞台女優として活躍したのち、テレビやラジオで多彩な才能を発揮する。うつ病を経験したことをきっかけに、オックスフォード大学でマインドフルネス認知療法を学び、修士号を取得した。現在は、エンターテイナーとしての活動に加えて、メンタルヘルスに関する執筆・講演活動、企業向けのリーダーシップおよびマネジメント・ワークショップなどを精力的に行なっている。サリー大学メンタルヘルス・ナーシングコースの客員教授。著書は本書のほかに、同じくメンタルヘルスをテーマとしたSane New World(2014)とHow to Be Human: The Manual(2018)がある。

 

上原 裕美子Yumiko Uehara訳者

翻訳者。訳書は『壊れた世界で“グッドライフ”を探して』(NHK出版)、『「無知」の技法』(日本実業出版)、『後悔せずにからっぽで死ね』(サンマーク出版)、『わが子と歩む道 「障害」をもつ子どもの親になるということ』(オープンナレッジ)など、多数。

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