図書室の外のブックトーク 第1回





 小説に出てくる本についての話題を書き綴っていくこのコーナー、今回は超能力にまつわる二冊と、クリスマスにまつわる二冊を選んでみました。
 それにしても短編「サンタクロースの証明」が公開されるのは七月、作中の時期設定は十二月、そして執筆や校正をしてる今は六月ですから、僕の中で季節感がごっちゃになっております。そうやって時間を跳び超えられるのも小説の醍醐味かなと思ったり、そういやあ南半球のサンタクロースは海でサーフィンやったりしてたなーなんて思ったりしてますが――「サンタクロースは実はタイムリープ能力を持った未来人だが、地球があるポイントにある場合にしか出現することができなくて、それが十二月二十四日の夜から二十五日の朝にかけての時間帯なのだ」なんて設定はどうでしょうかね。何かしら地球の公転位置と時間跳躍との間に相関関係がある、とか何とか。
 小説よりは映画や漫画向きかなーって思いつつ、ブックトークエッセイ、いってみましょう。

 この話題を取り上げる際、単行本と文庫本のどちらを紹介しようか迷ったんですが、単行本『スプーン』は二〇〇一年に飛鳥新社から刊行された後、二〇〇二年に『職業欄はエスパー』と改題されて角川文庫から刊行されました。今はそちらの方が手に入りやすいでしょうし、『オカルト』はその続編として「職業欄はエスパー2」というタイトルで雑誌連載されたものがまとめられ、加筆された単行本だそうです。
 そして僕はといいますと、二〇一二年に『司書室のキリギリス』としてウェブ連載した連作を『図書室のキリギリス』というタイトルでまとめて二〇一三年に刊行しました。その続編を書くとしたら、何か超能力を扱った本を登場させたいなと思ってまして、そこで選んだのが映画監督にしてノンフィクション作家の森達也さんの著書『スプーン』と『オカルト』というわけです。
 なにしろ、前著『図書室のキリギリス』をめぐっては、ちょっと超能力にまつわる出来事がありました。主人公の詩織が「人とは違った力」を持っているという設定だけじゃなく、作品自体が予知能力みたいな要素をはらんでいたんです。
『図書室のキリギリス』の中では、図書室のブックマークコンテストで紹介される本として、村岡花子の評伝『アンのゆりかご』が出てきます。登場人物の茅島楓ちゃんは、「NHKの朝ドラにしてほしい!」なんて文章でこの本を紹介していました。
 すると翌二〇一四年、NHKの平成二十六年度上半期の連続テレビ小説『花子とアン』が放送されました。その原作がまさに『アンのゆりかご』、作中の楓ちゃんの言葉通りになったわけです。NHKの公式サイトによれば、『花子とアン』の制作発表が行われたのは二〇一三年の六月二十五日、単行本『図書室のキリギリス』の奥付によれば初版発行は同年六月二十三日となってるので、この本は公式発表の二日前にその事実を言い当ててたことになるんですね。
 読者の中にもそのことに気づいた方は結構いらして、「未来予知?」とか「予言の書?」とか「作者はNHKの朝ドラ企画について事前に知っていたのか?」みたいな声が聞こえてきました。僕自身も冗談で「予知能力だー」などと言って面白がっていたものです。
 だけど、事実をぶっちゃけてしまえば、これは単なるまぐれ当たりです。公式発表前に翌年のNHKのドラマ企画を知れるような立場にはないですし、予知能力を身につけた覚えもありません。そんな便利な力があるなら、もーちっと実生活に役に立つ時に発現してくれよと心から思います。
『花子とアン』については、僕は一読者として読んで、これはNHKの朝ドラになりそうな話だなーと思ったってだけですし、同じように感じた読者は多かったと思います。ドラマ化が実現したのだって、NHKの関係者の方もそう思ったからでしょう。むしろ必然的な成り行きって考えることもできますよね。
 ただ、ちょっと面白い余談としては……僕が『アンのゆりかご』の単行本を見つけて購入したのは、三鷹にある古本カフェだったんです。太宰治の短編小説からとったという店名は「フォスフォレッセンス」でして、この短編もある種のシンクロニシティーを描いた作品なんですよね。そこでたまたま手に取った本から、こういう出来事が起きたっていうのも貴重な体験だったなと思ってます。
 そんなこんなで、僕は『花子とアン』にまつわる出来事について、理屈で割り切りたいって気持ちと、何か不思議な繋がりに導かれたような気持と、両方を抱いてます。そういう意味で、『オカルト』や『スプーン』が、「『ある』と断定もできないし、『ない』と切り捨てることもできない」っていうスタンスで超常現象を扱っていることには共感を覚えます。
 マスコミでは過剰な演出でもって語られがちなエスパーや超常現象を研究する人々を、あくまで日常的な視線で捉えて市井の人としての姿を描くっていう姿勢は、どこか小説にも通じるような気がします。超能力大戦争みたいな派手なストーリーを書くことができるのも小説ってメディアですが、不思議な力を日常の感覚で描くことができるのも、小説の力って気がします。
 そして、「ある」か「ないか」、白か黒かを立証するのじゃなく、その間にある灰色のグラデーションを楽しむっていうのも、読書の楽しみの一つじゃないでしょうか。

 百科事典というだけであって、『図説クリスマス百科事典』には千以上の項目が収録されています。クリスマスに関する世界各国の伝統・風習・祭り・食べ物・文学・芸能・映画・讃美歌・キャロル、人名などの見出し語をまとめた百科事典ってことで、とにかく話題が多いんです。クリスマツリーとかサンタクロースとかトナカイといった定番のキーワードはもちろん、ぱらぱらっとページをめくっていると、気になる項目が次々に見つかります。
 小説「サンタクロースの証明」の中では「サンタクロース銀行強盗事件」という項目を紹介しましたが、他にも「クリスマス反対運動」なんて項目が気になりました。それは真面目な宗教的運動らしいですが、そういえば現代の日本でも、「クリスマス粉砕デモ」なんて活動がニュースになったことがありました。こちらは恋愛資本主義に対して、ユーモア混じりに異議を唱える活動だったみたいですが――これだって、かつては宗教が人を縛っていたけれど、現代では消費社会が人を縛ってるってことの象徴ではないか、なんて考えることもできそうです。
 一九七一年生まれの僕は、明らかに八〇年代のバブル景気の頃からクリスマスをめぐる雰囲気が変わったのを感じていました。マスメディアを通して、「クリスマスには恋愛がらみで金を使わせよう」みたいな消費社会の圧力みたいなものが広がっていったんです。そこでは宗教的、文化的な背景はそっちのけで、高価なプレゼントを買って豪華なホテルに泊まるのが正しい価値観だと喧伝されているようでした。
 まあ難しいことは考えず、お祭りムードに乗っかって楽しんでりゃあいいんでしょうが、当時十代だった僕は、何か変だなあって意識をずっと持っていました。別にクリスマスの正しい伝統を訴えたい、なんて意識はなかったんだけど、誰かが勝手に作った決まりごとを押しつけられてるような鬱陶しさがあったんです。その現代日本流クリスマスの中にいた僕も違和感を覚えてたくらいなんですから、傍から眺めたらさぞや奇妙に見えたことでしょう。
 この百科事典で「日本」って項目を引いてみると、「日本人は、多くの欧米の休暇の概念を採り入れてきたが、その方法は、外国人にとっては、驚くほど独特で奇妙である」なんてな文章がありました。事典としては客観的な文章を心がけてるんだと思うけど、「驚くほど」って言い回しを使ってるあたり、ジェリー・ボウラーさんも本当に呆れてたんでしょうね。
 もっとも、そこで「外国人の視点が正しい。日本の風潮はけしからん」なんて結論を出すのもどうかと思います。クリスマスとかサンタとかいう概念自体、様々な時代の様々な文化をとりこみながら膨らんできたものなんですから、日本で独自に発展したクリスマスを一概に否定するのも間違ってますよね。むしろそこで文化の多様性を楽しむべきじゃないか――なんて考えを、目に見える形で示してくれたのが、『サンタクロース、ライフ。』って本でした。
 この本では、前半ではミュージシャンのパラダイス山元さんが、テレビ番組をきっかけに、公認サンタクロースを目指していく様が描かれます。そして中盤からは公認サンタの活動とともに、世界サンタクロース会議というイベントも紹介されます。豊富なカラー写真も満載で、世界各国の公認サンタの様々な姿を見ることもできます。
 サンタ会議では「現代のサンタクロースはどうあるべきか」という議題が大真面目に話し合われるそうですし、公認のサンタという考え方も、サンタクロースの標準を定めようとしてるみたいに感じられます。だけど写真を見ると、そんな公認サンタさんそれぞれの個性が伝わってきます。赤い服に白い髭っていう標準化が行われることで、かえって公認サンタそれぞれの多様性が浮かび上がってくるのが面白いです。
 そしてそのことは、『クリスマス百科事典』を読んでいても感じられます。一般にキリスト教は一神教といわれますが、サンタクロース自体は世界各地の土着信仰と結びついてたり、コカコーラ社の広告を始めとした現代の文化から影響を受けてたりして(サンタクロースは赤い服というイメージを定着させたのはコカコーラ社だったそうです)、ずいぶんと多神教的・多文化的な存在のようです。
 なにしろ、資料をあたっていくと日本のなまはげや七福神の布袋さんにもサンタクロースとのつながりがあると指摘されています。日本人マンボミュージシャンが公認サンタクロースになったように、これからもサンタのイメージは変化していくことでしょう。クリスマスの過ごし方だって、時代と共に変わっていくはずです。クリスマスシーズンがきたら、その時々の変容ぶりを面白がりつつ、それとの比較として伝統とか標準とかに目を向けるのも一興かなって気がします。



 

竹内真
(たけうち まこと)

1971年生まれ。慶應義塾大学卒業。95年に三田文学新人賞、98年「神楽坂ファミリー」で第66回小説現代新人賞、99年『粗忽拳銃』で第12回小説すばる新人賞を受賞する。著書に『カレーライフ』『じーさん武勇伝』『自転車少年記』『ビールボーイズ』『自転車冒険記 12歳の助走』『イン・ザ・ルーツ』『図書室のキリギリス』『ぱらっぱフーガ』『ホラベンチャー!』などがある。



『ホラベンチャー!』
定価1,680円 四六判並製





開祖が吹いたホラ話で山を高くした褒美に、殿様から姓を賜ったという洞山家。その末裔である洞山真作は、30歳、現在無職。法事で帰省中に親戚たちに煽られ、ついベンチャー起業を宣言してしまう。でまかせだったのに「大言壮語は洞山の男の甲斐性」と、やんやの喝采を浴び、勢いのまま起業という荒波に漕ぎだすことに……。一族に語り継がれてきた数々の昔話を胸に、真作は幾多の困難に立ち向かっていくが――。痛快! エンターテインメント起業小説。





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