5月25日更新 第16号

俳句×ショートショート 五七五の小説工房

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ようこそ。こちらは「五七五の小説工房」です。
この工房では、皆さんからお寄せいただく俳句をもとに、俳人の堀本裕樹さんとショートショート作家の田丸雅智さんが、言葉の職人として、とっておきのショートショートを生み出します。

第7回目の俳句募集には、603句ものご応募をいただきました。ご参加、本当にありがとうございました。
なお、俳句募集はしばらくお休みさせて頂きます。

今回は、堀本裕樹さんによる選句の結果を発表します。お題は「卒業」「陽炎」と自由題でした。
特選・秀逸・佳作に輝いたのはどの作品でしょうか。
それでは堀本裕樹さん、お願い致します。

「五七五の小説工房」第7回 選評

堀本裕樹
特選
卒業歌通りすがりに聴いている 無矩
 三月のとある日、どこかの学校のそばを通りがかったのだろう。「どこかの学校」としたのは、この句には場所が省略されているからだ。母校かもしれないし、現在住んでいる故郷から離れた地の学校かもしれない。
 体育館から漏れ聞こえてくる卒業歌はどんな曲だったのだろう。ここも読者の想像に委ねられている。むかしは「蛍の光」とか「仰げば尊し」とか、あるいは「贈る言葉」などが定番だっただろうけれど、今では卒業ソングもいろいろ増えているに違いない。この句から森山直太朗の「さくら」が聞こえる人もいるだろう。どんな曲か想像をめぐらすだけでもこの句に広がりが生まれる。
「通りすがりに聴いている」というこのさりげなさがいい。ふと足を止めて耳を澄ませながら、自らの卒業の光景を思い出しているのだろう。そしてまた歩き出すのである。
秀逸
陽炎や前に進める服を着る ひじり純子
 遠方に揺らいでいる何かを見据えるように、またそれに向かう気持ちを持って、「前に進める服」を身に着けたのである。
「前に進める服」とはいったいどんな服だろうか。おそらくそれは着ると身の引き締まる、自分を鼓舞してくれる服なのだろう。ジャージなどの動きやすい機能性を重視したものではない。身体的な「前に進める服」ではなく、精神的に前進できる装いなのである。
 陽炎は象徴的に揺らいでいる。それはたどり着くには困難な目標の象徴かもしれない。作者の決意に満ちた立ち姿が見えてくる。
卒業のかたちに変わりゆく校舎 春明
 校舎という建造物は改築するとか取り壊さないかぎり実際の「かたち」は変わらない。とすると、この句の「変わりゆく校舎」とはどんな状態をいうのだろう。
 卒業式だから涙で校舎がゆがみ、そのかたちが変わって見えたというのではちょっと安易な読みであろう。もっと心理的な作用が働いての校舎の見え方に違いない。
 卒業の日を迎えて急に校舎がすっくと立ち上がるように堂々と見えたのかもしれない。自分の学び舎であり青春の劇場でもあった校舎を改めて認識し誇りに思うように。または逆に校舎が小さく見えたのかもしれない。それは自分が少なからず心身ともに成長したからだ。
 卒業の日に卒業のかたちとなって校舎が存在する。作者と校舎が向き合う風景である。
卒業の前夜に一人旅支度 いけのこい
 明日は卒業式を迎える。その心構えはもうできた。気持ちは卒業式を終えたあとの旅に向かっている。旅といってもみんなとわいわい行く卒業旅行ではない。一人旅である。
 この句は卒業をひかえた作者の心持ちが「一人旅支度」によく出ている。卒業は次の人生に向かっての区切りであり大きなステップであるが、式を終えたあとに一人旅することは、いろいろな感情を見つめ直し、新たな場面を見据えて進もうと気力を蓄える一種の儀式でもあろう。
 まだ見ぬ旅行先を思いながら、黙々とその支度をする背中が実に頼もしい。
佳作
陽炎の少年竜へ戻りけり
佐藤直哉
オルゴール渡せぬままに卒業す
dolce
陽炎の逃げ行く果ては余呉の湖
遊泉
あの子とは初めて話す卒業式
陽炎の中に教え子ノック待つ
クリケット
鷺一羽高舞ふ朝卒業す
外山まこと
卒業す反実仮想色の我
有加里
貝塚にいのちの匂ひ夏来る
光玄
マニキュアの瓶揺らしをり春の宵
陽炎や来ぬ人を待つ停留所
大野真季
理科室にヒント残して卒業す
栄利子
麗かやパンにのせたるあられ糖
朋代
校門を大股で過ぎ卒業す
山風
明日の朝島を出ますと卒業子
青嶺かしう
翼竜の化石につばさなく暮春
四十九士
春の海置いてきた日の打ち寄せて
江口秋子
鳥籠の開け放たるる卒業日
樺野午睡
花束を扱ひかねて卒業す
遠音
陽炎の奥の巨神らさまよへる
斎藤秀雄
陽炎の野に紛れける角髪かな
芳丸

次回6月26日の更新では、特選と秀逸に選ばれた俳句のなかから二句を題材にして、田丸雅智さんがショートショートを生み出します。

はたしてどの句が、どのような小説に変わるのか、お楽しみに!

また、皆さんが詠まれた俳句とそこから生まれた物語を収録した、この「五七五の小説工房」を単行本化する企画も進んでいます。

詳細は次回の更新でお知らせしますので、こちらもお楽しみに!