1月25日更新 第12号

俳句×ショートショート 五七五の小説工房

PAGE TOP

ようこそ。ここは「五七五の小説工房」です。
この工房では、皆さんからお寄せいただく俳句をもとに、俳人の堀本裕樹さんとショートショート作家の田丸雅智さんが、言葉の職人として、とっておきのショートショートを生み出します。

厳しい寒さが続いております。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

第5回目の俳句募集には、240句ものご応募をいただきました。ご参加、本当にありがとうございました。

今回は、堀本裕樹さんによる選句の結果を発表します。お題は「河豚(ふぐ)」「冬の星」と自由題でした。
特選・秀逸・佳作に輝いたのはどの作品でしょうか。
それでは堀本裕樹さん、お願い致します。

「五七五の小説工房」第5回 選評

堀本裕樹
特選
花占ひのやうにふぐ刺し食ひにけり かるかるか
 花占いは、いろいろな形態があるようだが、この句の占いは花弁を一枚ずつちぎってゆくものだろう。一般的な例でいえば、「好き、嫌い、好き……」などとつぶやきながらする光景が目に浮かぶ。
 その花占いを真似るように、ふぐ刺しを食べたという発想が面白い。ふぐ刺しの一枚一枚はたしかに花弁のように薄く美しい。それを一枚ずつ箸でつまんで食しながら、「好き、嫌い、好き……」なんてやったらどうなるのだろう。なんだか占いの結果が気になって、刺身の味が飛んでしまいそうである。せっかくのふぐ刺しなのに。
 果たして最後の一枚のふぐ刺しはどんな味がしたのか。ハッピーな味かそれとも……。
秀逸
冬の星仲違ひするバンドマン 心樹
 ライブの帰り道だろうか。冬の星が瞬く下で、バンドマンが何か言い争っている。
「きょう、なんであそこでミスったんだよ」とか「お前のソロ長すぎるんじゃねえか」とか、いろんな会話が想像できるが、そもそもバンド自体の「音楽性の違い」で喧嘩をしているのかもしれない。
「解散」という言葉がメンバーの喉元まで出かかっているとしたら、かなり危機的状況であるが、冬の星だけがそのバンドの行く末を知っているのだろう。まだスターになる前のうら若いバンドマンの姿が見えてくる。
冬星や残り香は餞のごと 夕子
 冬の星の下、別れの場面があったのだろう。その人が去った後も、しばらくその辺りに残り香がかすかに漂っていた。冴えた冬の空気のなかで、その香が印象的であった。
 そしてふとその残り香が餞のように感じられたのである。旅立ちや門出に贈られるのは、品物であったり金銭であったり言葉であったりするが、残り香が餞のようだと感じ取ったのは、詩的な感覚でありどこか肉感的な温かみがある。
 その香がどんなものであったかで気持ちも変化するだろう。香水が混じっているならば、その芳香の種類で餞の趣も違ってくる。冬星と残り香との取り合わせが冴えた一句。
告げられる前の気配や冬の星 月島ルイ
 愛の告白であろうか。二人で冬の星を眺めたりしているうちに、だんだん言葉数が少なくなってきた。なんとなく何か告げられるような雰囲気がする。
 そんな緊張した気配は、案外敏感に伝わってくるものである。そろそろ告白されるんじゃないかと思えば思うほど、冬の星がいっそう輝いて見える。まるで冬の星が告白の後押しをしてくれているようだ。
 やがてそのときが来るのだが、果たしてこの後どうなったのだろう。まさか告げられる前の気配だけを漂わせて、結局何もなかったということはあるまい。きっと告白はされたはずである、と信じたい。
 告白の前後では、二人には冬の星も違って見えることであろう。中七の切字「や」がよく効いている。
佳作
ふぐ鍋や女の面のてらてらと
松尾千波矢
寒風に磨かれし光年の闇
月刻
ロボットと会話する日の冬の星
抹茶
初ふぐを喰らひ尽くせし女子かな
湧雲文月
星冴えて客席ひとつだけの劇
伊藤衒叟
灯り消し心に灯る冬の星
ばんのっぽ
山頂の鳥居をくぐり冬の星
菜の花
海賊の髑髏の笑い冬の星
初霜若葉
宝くじ売り場の母よ冬の星
嫉妬林檎
冬の雨捨て猫守るダンボール
居間正三
ふぐ鍋の夜の崩れない敬語かな
スイスロール
板長の説教を聞く河豚二匹
ひでやん
闇静か砂にまみれた河豚を踏む
百多一
河豚刺しや面影の無き同級生
吉澤 千恵
天窓へ冬の星ふる契りあふ
汝火原マリ
手話落語跳ねて広ごる冬の星
高尾彩
プルタブを引く音ひとつ冬の星
樺野午睡
冬の星モスクの丸き屋根あをし
凉木麗門
寒紅の魔女三人の呪文かな
芳丸
福島にたゆたう無音冬の星
遠音

次回2月27日の更新では、特選と秀逸に選ばれた俳句のなかから二句を題材にして、田丸雅智さんがショートショートを生み出します。

はたしてどの句が、どのような小説に変わるのか、お楽しみに!

また、第6回目の俳句募集を行っています。応募締切は2月26日(日)です。

あなたの詠んだ一句が、言葉の職人お二人の手によって、素晴らしい物語に生まれ変わるかも知れません。

「俳句募集」のページから投稿できますので、ぜひご参加ください。ご応募をお待ちしております。